夜、布団に入り、顔のすぐ横にスマートフォンの光が浮かぶ。
部屋は暗く、体は横たわっているのに、親指だけが静かに画面を動かしている。
こうした光景を前に、「寝る前のスマホはよくない」と言われることは少なくありません。
ブルーライトが脳を覚醒させ、動画やゲームが刺激となり、眠りを妨げる。だから夜は控えるべきだ、という説明です。
その理屈はもっともに聞こえます。
しかし、そこには一つの前提があります。
スクリーンは、体を強く興奮させているという前提です。
この点を実生活の夜で確かめた研究があります。
対象は11〜14歳の子ども70人。
胸元に装着した小型カメラで就寝前約3時間の行動を記録し、手首に装着した機器で心拍数(1分間の心臓の拍動回数)を秒単位で測定しました。
さらに、体の動きから睡眠を推定する装置を用いて、実際に眠りに落ちるまでの時間や総睡眠時間も評価しました。
これらを複数の夜にわたり繰り返しています。
もしスクリーンが強い生理的覚醒を引き起こしているなら、心拍ははっきり上昇するはずです。
ところが、結果は必ずしもそうではありませんでした。
就寝前2時間の平均心拍は、スクリーンを使用しているときのほうが、使用していないときより低い傾向がみられました。
スクリーン利用中はおよそ1分間に83回前後、非利用時は90回を超えることもありました。
布団の中でも同様の傾向が確認されています。
少なくとも心拍という指標で見るかぎり、「スマホ=体が大きく興奮する」という単純な図式は、そのまま当てはまらなかったのです。
ただし、影響がまったくないわけではありません。
就寝直前に心拍がやや高い場合、入眠までの時間はやや延びました。
心拍が10回多いと、眠るまでに約9分長くかかるという結果です。
しかし、総睡眠時間や夜中の覚醒時間には大きな差は認められませんでした。
観察された心拍の違いは最大でも約10回程度であり、その影響は限定的でした。
では、なぜスクリーン利用と睡眠不足は結びついて語られるのでしょうか。
研究者たちは、生理的な覚醒よりも「時間の後ろ倒し」に着目しています。
スクリーンに向き合っているあいだ、眠るという次の行動への移行が遅れ、就寝時刻そのものが後ろへ押し出されていく可能性です。
体が眠れなくなるというより、眠るタイミングがずれていくという見方です。
この研究は観察研究であり、因果関係を断定することはできません。
それでも、実際の家庭環境で複数夜にわたり客観的に測定されたデータは、議論に具体性を与えます。
夜のスマホは、体を強く目覚めさせる装置とは言い切れないかもしれません。
問題があるとすれば、それは光そのものよりも、その光の前で過ごす時間の長さ、そして「次へ移る」タイミングのずれにあるのかもしれません。
参考文献:
Meredith-Jones KA, Haszard JJ, Galland BC, et al. Screens, Teens, and Sleep: Is the Impact of Nighttime Screen Use on Sleep Driven by Physiological Arousal?. J Sleep Res. Published online January 20, 2026. doi:10.1111/jsr.70288

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。