診察室で生活の話を聞いていると、「運動はしています」という返事はよく返ってきます。
週に数回のウォーキングや体操。
悪くありません。
けれど続く言葉が、「仕事は一日中デスクで、家ではテレビを見ています」だと、話は少し変わってきます。
体を動かす時間があっても、それ以外の時間をどう過ごしているかは、これまであまり問題にされてきませんでした。
ここ十数年で、よく耳にするようになったのが「座位行動(ざいこうどう)」です。
これは、起きている時間のうち、座る・横になるなど、ほとんどエネルギーを使わない状態を指します。
運動不足とは似ているようで別の概念です。
この論文は、日本の成人を追跡した縦断研究を集め、座位行動が先の健康とどう結びつくかを整理しています。
日本人は国際的に見ても座位時間が長く、その生活様式自体が問われています。
研究では、18歳以上の成人を長期間追跡し、日常の座位時間と、その後に起こる死亡、がん、生活習慣病、要介護、抑うつなどとの関係が検討されました。
座位時間は質問票や活動量計で評価され、年齢や喫煙、運動習慣といった要因を調整したうえで比較されています。
手法は研究ごとに違いますが、現実の日常生活を反映したデータがそろいました。
全体として、座っている時間が長い人ほど、先の健康で不利になりやすい傾向が繰り返し見えました。
座位時間が短い人に比べ、長い人で死亡が多い研究があり、テレビ視聴時間が長い人で大腸がん死亡が多いという報告も含まれています。
変化は急激ではありませんが、年月を重ねるにつれて差が広がっていく様子が浮かび上がりました。
ここで大事なのは、こうした傾向が「運動をしているかどうか」だけでは説明しきれないことです。
定期的に運動していても、その残りが長く座位で占めていると、不利に傾いていた研究がありました。
特に高齢者では、身体活動が少なく、かつ座位時間が長い人で、死亡や要介護のリスクが高くなる傾向が明確でした。
「動く時間」を足すだけでなく、「動かない時間」をどう削るかが重要でした。
では、なぜ座り続けることが問題になるのでしょうか。
長時間座ったままでいると、脚や体幹の筋肉がほとんど使われず、血液を心臓へ戻す働きが弱まります。
そうなると血流が滞りやすくなり、血糖や脂質の処理に関わる筋肉の代謝も落ちやすくなります。
激しい運動ができなくても、こまめに立つだけで起こりにくくできる変化です。
座位行動の問題は、「運動しないこと」よりも、「同じ姿勢で固まり続けること」にあります。
中には、1日の座位時間の合計よりも、「一度に30分以上座り続ける」人で、生活習慣病や代謝異常が多かった研究もあります。
つまり、同じだけ座っていても、途中で立ち上がるかどうかで、体の反応は変わってきます。
ここから、日常で何を変えればよいかが見えてきます。
健康のために新しい運動を始める前に、まず「座りっぱなしを途切れさせる」工夫を生活に入れられます。
立って電話をする、テレビの合間に体を起こす、移動のついでに少し歩く。
この小さな中断が、年単位では大きな差になります。
激しい運動が難しい高齢者や慢性疾患を抱える人にとっても、実行可能な対策です。
もちろん、この分野には弱点もあります。
多くは自己申告による座位時間を用いており、正確さにはばらつきがあります。
また、「何時間から危険か」という明確な線を引くことも容易ではありません。
それでも、別々の研究が同じ方向を向いている事実は重く、より精密な測定が増えていくはずです。
運動するか、しないか。
そんな二択だけでは、生活の実態をすくいきれなくなっています。
体を守る鍵は、今日どれだけ動いたかよりも、どれだけ同じ姿勢が続いたかの側に置かれているのかもしれません。
日常でどれくらい座り続けているかを意識するだけで、健康の捉え方は変わってきます。
参考文献:
Shibata A, Ishii K, Owen N, Oka K. Sedentary Behavior and Health Consequences: A Systematic Scoping Review of Prospective and Longitudinal Studies in Japan. J Epidemiol. Published online August 16, 2025. doi:10.2188/jea.JE20250140

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
