やらなければいけないことがあるのに、なぜか手をつけない。
机に向かっているのに、別のことを考えている。
あとでやろう、と言いながら時間が過ぎていく。
そんな時間を、私たちは「無駄にしてしまった時間」と呼びます。
けれど、その遅れている時間は、本当にただの空白なのでしょうか。
これまで心理学では、先延ばしは不安から逃げる行動だと説明されてきました。
嫌な気持ちを避けるために、課題を後回しにするという考え方です。
しかし最近、少し違う結果が報告されています。
先延ばし傾向が高い人のほうが、創造性のテストでより多くのアイデアを出すことがあったのです。
この研究は、「先延ばしは逃げではなく、探索のあらわれではないか」という問いから始まりました。
実験には18歳から55歳までの237人が参加しました。
まず、「次へ」というボタンが出てから押すまでの時間を測り、実際の遅れを記録しました。
さらに、「自分はどのくらい先延ばしをしやすいか」という質問にも答えてもらいました。
探索する力は、「Blicket課題」という推理テストで調べました。
二つの特定のブロックを同時に置いたときだけ光る装置のしくみを、ヒントから見抜く問題です。
創造性は、新聞紙の使い道をできるだけ多く考えるテストで測りました。
その結果、質問紙で先延ばし傾向が高い人ほど、装置の規則を正しく見抜く割合がはっきり高くなりました。
特に最初の段階では差が明確に表れました。
しかし次の段階では、その差は小さくなりました。
いつでも強いわけではない、という点も重要です。
また、先延ばし傾向は創造性の得点を予測する要因にもなりました。
ところが、「ボタンを押すのが遅かった」という行動だけでは、同じ関係は見られませんでした。
ここで見えてくるのは、二つの「遅れ」の違いです。
なんとなく動けない遅れと、すぐに決めずに可能性を広げる遅れ。
後者は、いくつもの考えを頭の中で試す姿勢とつながっています。
すぐに答えを出さないことは遠回りに見えます。
しかし、その遠回りの中で、別の道が見つかることもあります。
ただし、もう一つの事実があります。
先延ばし傾向が高い人は、いら立ちやすさとも関係していました。
探索する人は、必ずしも落ち着いているわけではありません。
不安や迷いを抱えながら、それでも答えをすぐに決めない。
いら立ちに弱い傾向―心理学ではこれをフラストレーション不耐性と呼びます。
その揺れの中で考え続けている可能性があります。
もちろん、この研究はオンライン実験です。
学校や仕事のすべての場面をそのまま表しているわけではありません。
先延ばしがいつも役立つとも言えません。
それでも、一つだけ確かなことがあります。
あなたが動けなかったあの時間も、もしかすると、ただの空白ではなかったのかもしれません。
速く終わらせることが正しい世界で、遅れている時間は失敗に見えます。
けれどその時間に、まだ選ばれていない考えが並んでいるとしたら。
先延ばしをすぐに直す前に、その中身を確かめてみる。
時間の見え方が、ほんの少し変わるかもしれません。
参考文献:
Saling LL, Weatherhead S, Cohen DB. Exploratory tendencies explain task delay in procrastination. New Ideas Psychol. 2025;79:101190 . doi:10.1016/j.newideapsych.2025.101190

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
