砂の海に立つ、極彩色の狩人―内陸の川辺で進化した新種スピノサウルス

砂の海に立つ、極彩色の狩人―内陸の川辺で進化した新種スピノサウルス

 

砂漠の真ん中で日が沈みかけていました。

発電は太陽光だけ。

作業時間はあとわずかです。

研究者たちは一台のノートパソコンを囲んでいました。

画面には、砂の表面から拾い集めた歯と顎の破片をCTスキャン(三次元的に内部構造を再構成する方法)で読み取り、組み上げた立体像が映し出されています。

ばらばらだった骨が、ゆっくりと一つの頭骨の輪郭を描きはじめます。

偶然の産物かもしれなかった破片が、突然、別の生きものへと姿を変えます。

その場にいた誰もが、もう引き返せないことを理解したはずです。

 

出発点は、1950年代の文献に記された、一本の湾曲した歯の記述でした。

70年以上、誰もその地点を確かめていませんでした。

2019年、研究チームはニジェールの中央サハラに入り、顎の破片を発見します。

2022年に再訪し、三日月刀のように湾曲した頭頂部の突起を含む追加標本を回収しました。

こうして報告されたのが、新種スピノサウルスです。

 

スピノサウルス類は、魚を主な獲物としていたと考えられてきました。

細長い吻部と円錐形の歯は、水中で獲物をとらえる形に近いとされます。

しかし、どこまで水に適応していたのかは議論が続いていました。

完全な水生動物だったのか。それとも、陸上性を残した半水生だったのか。

本研究は、この新種の形態を手がかりに、その進化が段階的だった可能性を検討しています。

 

化石が見つかったのは、海岸から500~1000キロ離れた内陸の河川堆積物です。

周囲には他の恐竜の部分骨格も埋もれており、森林と川に囲まれた環境だったと推定されています。

この個体は、海の捕食者というより、川辺の大型捕食者でした。

 

頭頂部の突起には血管の通り道が残り、角質(ケラチン)に覆われていた可能性があります。

上へと反り上がる刃のような構造。

さらに、歯列は上下がぴたりとかみ合うのではありません。

下顎の歯が外側に張り出し、上顎の歯のあいだに差し込む。

かみ合うのではなく、噛み込む。

滑りやすい魚を逃さないための仕組みです。

 

ここで重要なのは、この種が極端ではないことです。

完全に水中生活へ踏み切った証拠はなく、しかし水辺への適応は明確に進んでいる。

進化は、ある日突然、環境を飛び越えるわけではないのかもしれません。

浅瀬に一歩入る。

深みにもう一歩踏み出す。

その繰り返しが、長い時間のなかで形を変えていく。

 

もちろん、化石は断片的です。

行動のすべてがわかるわけではありません。

それでも、歯の配置や頭部構造といった具体的な形は、生活様式の方向を物語ります。

スピノサウルス類が長い時間をかけて多様化してきた系統の終盤に、この種が位置づけられるという点も重要です。

 

現在のサハラは、乾いた砂の広がりです。

しかし約9500万年前、そこには川が流れ、大型魚が泳いでいました。

発見の偶然と、進化の長い時間。

その二つが重なるとき、砂の下から現れた頭骨は単なる化石ではなくなります。

境界に立ち、浅瀬を選び続けた一頭の姿が、ゆっくりと輪郭を持ちはじめます。

 

参考文献:

Sereno PC, Vidal D, Myhrvold NP, et al. Scimitar-crested Spinosaurus species from the Sahara caps stepwise spinosaurid radiation. Science. 2026;391(6787):eadx5486. doi:10.1126/science.adx5486

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。