コメディ映画『ラブ・アゲイン』のクライマックスでは、ある家族の庭先で、積み上げられてきた関係が一気に崩壊します。
娘が「運命の人」だと信じて連れてきた恋人は、実は父親に恋愛の手ほどきをしていた人物でした。
家族という第三者の視線が加わった瞬間、それまで巧妙に保たれていた説明や立ち位置は崩れ、語られてきた物語の整合性が失われていきます。
笑いに包まれた混乱の中心で起きているのは、単なる暴露ではありません。
相手がどんな人物なのかが、一斉に照合される場面です。
この一幕を少し距離を取って眺めると、恋愛が感情だけで進んでいないことが見えてきます。
家族という場は、魅力や話術を披露する舞台ではなく、それらが人生の文脈と矛盾していないかを確かめる装置です。
ここで作動しているのは、相手が信頼に足る人物かを見極める、洗練された「相互査定」のプロセスです。
このような、恋愛の裏側で進行する確認の技術について、進化心理学の分野から研究が報告されました。
現代の女性たちは、口のうまいパートナーの誇張や不誠実さにどう備え、どのような行動を組み合わせて将来性のない関係を回避しているのか。
その具体像を、この研究は行動のレベルで描き出しています。
研究は二段階で行われました。
最初に、米国南東部の大学に在籍する女性147人から、デートや交際の場面で相手にだまされないために行っていることを自由記述で集めています。
回答を整理し、重複や曖昧な表現を除いた結果、43の具体的行動が抽出されました。
続く調査では、別の女性249人が、それらの行動をどの程度行うかを評定しています。
参加者の平均年齢は19歳前後で、約44%は調査時点で交際相手がいました。
分析の結果、女性たちが用いている行動は五つの型に整理されました。
第一は「統合」です。
パートナーを自分の家族に会わせたり、逆に相手の家族と顔を合わせたりすることで、相手を自分の社会的ネットワークの中に置き、その一貫性を確かめます(Integration)。
第二は「慎重さ」です。
関係を急がず、距離を保ち、身体的な親密さを意図的に遅らせることで、時間を味方につけます(Reticence)。
第三は「情報照合」で、SNSなどに残された日常の痕跡から、語られている人物像と現実とのずれを確認します(Social Media)。
第四は「価値観の一致」で、宗教的な信念や実践がどこまで共有されているかを重視します(Religion Matching)。
第五は「試し行動」で、答えを知っている質問をあえて投げかけるなど、相手の反応から誠実さを測ります(Distrust)。
注目すべき点は、これらの行動が性格の強弱で決まっていないことです。
短期的な関係を望む傾向が高い女性ほど、家族を介した統合や価値観の一致を用いにくい関係が見られました。
一方、回避型愛着傾向が高い女性ほど、時間をかける慎重さを選びやすくなっていました。
自己評価の魅力度や神経症傾向は、どの行動とも結びついていません。
疑う性格かどうかではなく、関係をどう設計するかが問われています。
『ラブ・アゲイン』で描かれる家族の場面は、この統合という戦略の力を端的に示します。
複数の関係と語りが同時に集められたとき、その場しのぎの説明は通用しません。
求められるのは、一貫した人生の文脈です。
その場の混乱が笑いとして描かれているのは、相互査定が正しく作動した結果でもあります。
この研究には限界もあります。
対象は若い大学生に限られており、文化や年齢が異なれば行動の組み合わせは変わるでしょう。
また、実際に取った行動ではなく自己評価を用いている点も踏まえる必要があります。
それでも、恋愛の現場で行われている見極めの技術を、具体的な行動として整理した意義は明確です。
恋愛は、感情の高まりだけで進むものではありません。
夜のデートも、家族の集まりも、相手を理解するための異なる装置として機能します。
疑うことは関係を壊す行為ではなく、関係を現実につなぎとめる工程です。
『ラブ・アゲイン』の一場面は、私たちが無意識のうちに用いてきた相互査定の知性を、笑いという形で鮮明に映し出しています。
参考文献:
Sayyad, P., Bagherian, M., Pazhoohi, F. et al. Women’s Anti-Deception Tactics in Mating: A Preliminary Investigation. Evolutionary Psychological Science (2025). https://doi.org/10.1007/s40806-025-00454-2

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
