夜のアフリカ大陸を、衛星がゆっくり横切ります。
雲の割れ目からのぞく濃い緑は、地球が吸い込む二酸化炭素の大きな受け皿です。
けれど、かつて濃い緑で埋まっていた帯が、ある年を境にわずかに薄くなっている。
10年分の記録を重ねると、その緑がつくる曲線はあるところで向きを変えています。
かつて吸い込んでいた量が、今はわずかに外へ流れ始めている—大陸の呼吸が反転しているのです。
アフリカは、地球の炭酸ガスの収支の中で重要な場所です。
植物がつくる有機物の量は世界の約2割。
燃焼や森林減少による放出も大きく、吸収と放出がせめぎ合う大陸です。
ところが、アフリカ全体が吸収側なのか放出側なのかは、過去の研究で一致していませんでした。
観測点の少なさと衛星データの粗さが、その原因でした。
この研究は、これを正面から解きほぐすために進められました。
使われたのは三つの異なる“眼”です。
樹木の高さを測るレーザー高度計 GEDI。
木の太さや密度を感じ取る L バンドレーダー ALOS PALSAR。
そして、樹冠の広がりを見る Landsat。
それぞれが森の別の側面をとらえます。
航空機 LiDAR の関係式でバイオマスに換算し、地上の1万点以上の測定データで検証しながら、2007〜2017 年のアフリカ全域の変化が描かれました。
10年分の地図を並べると、変化の“向き”がはっきりします。
2007年ごろまでは、緑の厚みがゆっくりと増す大陸でした。
それが 2010 年をすぎるあたりから、増える傾きが消え、線が下へと折れます。
増えるべき場所で増加が止まり、ところによっては薄れていく。
この折れ方は偶然の揺らぎではなく、呼吸の方向が入れ替わった証拠です。
では、なぜこれほど急にバランスが崩れたのか。
その理由は、三層に分かれます。
第一に、大陸の“心臓部”だった熱帯多雨林が弱ったこと。
気温上昇と干ばつの強まりで木が成長しにくくなり、農地拡大で森の縁が広がり、老木が倒れやすくなった。
吸収の中心がやせ始めたのです。
第二に、サバンナで木が増えても多雨林の落ち込みを埋められないこと。
草原に入り込む低木は増えますが、蓄えられる二酸化炭素の“重さ”が小さい。
大陸全体の収支を押し返すほどの力にはなりませんでした。
第三に、気候の振れ幅が“減る側”に傾く年が続いたこと。
乾季の延び、気温の上昇、大規模な樹木枯死。
“増える年”より“減る年”が勝ち続ければ、10年後には曲線の向きが変わるのは当然です。
研究には制約もあります。
扱ったのは地上部の木本バイオマスのみで、地下部や土壌の炭素は含まれていません。
レーダーは密な森で性能が低下するため、多雨林の減り方を小さく見せている可能性があります。
それでも、増加期と減少期の線が交わらず、反転の方向が確実であることは揺らぎません。
衛星が見たアフリカの10年は、地球の二酸化炭素の“黒字”を支えてきた大陸が、静かに赤字へ傾き始めた軌跡でした。
夜明けの光が樹冠に触れると、その濃淡の変化が未来の線を描きます。
自然が吸い込んでくれる量が減るということは、私たちが排出できる余地も減るということです。
いま反転したこの傾きが、これからどちらへ深まっていくのか。
その問いは、まだ大陸の上空を漂っています。
参考文献:
Rodríguez-Veiga P, Carreiras JMB, Quegan S, et al. Loss of tropical moist broadleaf forest has turned Africa’s forests from a carbon sink into a source. Sci Rep. 2025;15(1):41744. Published 2025 Nov 28. doi:10.1038/s41598-025-27462-3

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
