高強度インターバルトレーニング(HIIT)は「心臓に効く運動」として語られることが多いのですが、最近は「脳にもいい」という話題が増えています。
短時間で強い負荷をかける運動が気分や集中力を整えてくれるなら、文字通りの「脳トレ」を兼ねていますし、多忙な若い世代には取り入れやすくなるでしょう。
ところで、高強度インターバルトレーニングには、同じ「きつい運動」でも、1分半ほどしっかり回し続ける方法と、数秒だけ全力で踏み込み、長く休む方法があります。
どちらが脳にとって有利なのかを、検証したのが今回紹介する研究ということになります。
運動によってBDNF(脳由来神経栄養因子)が一時的に上がることは知られていて、それは神経細胞の成長やつながりを支える働きがあります。
ただ、その増え方は運動の強度や時間によって変わり、短い全力運動がどこまでBDNFを引き上げるのかははっきりしていませんでした。
乳酸がBDNFの増加に関与するという考え方もありますが、極端に短い全力を繰り返すREHIT(Reduced-exertion HIIT)が、HIITと同じ反応を示すかは結論が分かれています。
今回の研究は、この境界線に踏み込むものです。
対象は20〜30代の若年成人60人でした。
参加者はHIIT群、REHIT群、対照群に20人ずつ割り付けられました。
HIITでは、自転車エルゴメーターを用いて「90秒間、息が上がる強度でこぎ続け→90秒ゆっくり回す」を5回繰り返しました。
HIITの負荷は“こぎ続けることで脚にだるさが蓄積する”タイプです。
REHITは「15秒の全力ダッシュ→約200秒のゆっくり回し」を4回行い、短く鋭い踏み込みを求める形式です。
どちらも合計15分です。
対照群は運動を行わず、同じ時間に健康教育ビデオを視聴しました。
全員で運動前後に乳酸と唾液BDNFを測定し、変化を比較しました。
当然ながら、何もしていない対照群では、乳酸は1.5 mmol/L前後からほとんど動かず、BDNFも自然なばらつきの範囲にとどまりました。
そして、もちろん運動群では乳酸が大きく上昇しました。
REHITは1.7 mmol/L前後から13 mmol/L近くまで達し、乳酸の反応だけを見るとREHITの方が強く反応していました。(HIITは9 mmol/L前後までの上昇)
それでもBDNFが増えたのはHIITのみで、中央値が約25%増え、統計的にも有意でした(p=0.03)。
REHITのBDNFは前後でほぼ横ばいで、対照群との差もほとんどありませんでした。
乳酸があがるとBDNFがあがるということはなく、負荷の“高さ”よりも“かかり方”がBDNFを左右しているのがわかりました。
HIITの90秒という長さは、無酸素運動から嫌気性代謝に移る過程を連続的に刺激し、細胞内のシグナルがBDNFを押し上げやすい形になると考えられます。
REHITは短い全力を繰り返すため乳酸のピークこそ大きいものの、ストレスホルモンが刺激されるなど別の反応がBDNFの上昇を弱めている可能性があります。
BDNFを神経回路の滑りを良くする“油膜”のように捉えると、短い衝撃より、一定時間かけて負荷を与えるHIITの方がより効果的なのでしょう。
ただし、対象は若い健常成人に限られており、BDNFを血液ではなく唾液で測定している点、測定も運動直後だけに限定されている点など、解釈には慎重さが求められます。
REHITの効果が時間差で出る可能性も残りますし、体力差による影響もあるかも知れません。
それでも。短時間でもしっかり強度を上げた運動が、神経栄養因子であるBDNFを活性化できる可能性があると示されたことは、意義があります。
特に、限られた時間で運動したい人や、効率を重視する場面では“ただ動けばいい”ではなく“どれだけ強度を上げられるか”が鍵になりそうです。
参考文献:
Evelis K, Kolesovs A, Rostoka E, Plakane L. Acute high-intensity interval training, but not reduced-exertion high-intensity interval training increase brain-derived neurotrophic factor in a block randomized controlled trial. Sci Rep. 2025;15(1):38322. Published 2025 Nov 3. doi:10.1038/s41598-025-22209-6

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
YouTubeもあります。
