心房細動の患者さんから、「先生、コーヒーはもう一生やめた方がいいですよね?」と訊かれることがあります。
動悸が出た日の朝にコーヒーを飲んでいたという記憶が重なると、「これが悪かった」と感じても不思議ではありません。
医師の側も、根拠を丁寧に確かめないまま節制を勧めてしまいがちです。
しかし、本当にコーヒーを断つことが心房細動の再発を減らすのでしょうか。
今回紹介するDECAF試験は、その素朴な疑問を、きちんとランダム化比較試験で検証しました。
持続性心房細動、あるいは心房細動の既往をもつ心房粗動の患者200人を対象に、電気的除細動で洞調律に戻ったあと、「カフェイン入りコーヒーを毎日1杯以上飲む群」と「コーヒーもカフェインも断つ群」に1対1で割り付け、6か月追跡しています。
参加者の平均年齢は69歳、男性が約7割で、もともとのコーヒー摂取量は両群とも週7杯、つまり1日1杯程度でした。
試験期間中、コーヒー群は週7杯のままほぼ変わらず、禁コーヒー群は週0杯前後まで減っており、両群のあいだには週7杯というはっきりした差がついています。
この「日常的な1杯の有無」によって、洞調律をどれだけ長く保てるかを比べています。
6か月のあいだに、心房細動か心房粗動の再発が確認された人は全体の56%でしたが、詳しく分けてみると様子が違って見えてきます。
予想に反して、禁コーヒー群では64%が再発したのに対し、コーヒー群では47%の再発で、明らかにコーヒーを飲んでいた人たちのほうが再発が少なくなっていました。
統計学的には、再発の危険度が39%低い(ハザード比0.61、95%信頼区間0.42〜0.89、P=0.01)という差です。
重大な有害事象については、救急受診や入院、心不全の増悪、心筋梗塞、脳卒中などに目立った差はありませんでした。
心房細動・粗動を理由にした入院は禁コーヒー群でやや多かったものの(15人対10人)、全体としてコーヒー群に特別な不利益が増えているとは言えない状況です。
少なくとも、この試験で用いられた「1日1杯前後のカフェイン入りコーヒー」は、安全性の面でも受け入れられる範囲に収まっています。
なぜコーヒー群で再発が少なかったのかについて、研究者たちはいくつかの可能性を挙げています。
コーヒーに含まれるカフェインはアデノシン受容体をブロックし、アデノシンによる心房の電気的不安定化を抑える働きがあるかもしれません。
また、コーヒーに含まれるポリフェノールには抗炎症作用があり、慢性的な炎症が関わる心房細動の素地を弱める可能性があります。
さらに、別の研究では、コーヒーを飲む日は歩数が増えるという結果もあり、身体活動量の増加を通じて再発リスクを下げている可能性も考えられます。
一方で、この試験にも限界があります。オープンラベル試験であり、患者も医師も割り付けを知っているため、受診行動や検査頻度に影響が出た可能性があります。
参加者は「もともとコーヒーを飲んでいた人」に限られており、そもそもコーヒーが苦手な人や、少量で動悸が強く出る人は含まれていません。
サンプルサイズも200人と大規模とは言えず、高用量カフェインやエナジードリンクのような極端な摂取に、この結果をそのまま当てはめることはできません。
それでも、「コーヒーは心房細動の敵だから、きっぱりやめなさい」と一律に伝えるのは、現実とはずれているように思います。
この試験が扱っているのは、生活の一部になっている、ごく普通の量のホットコーヒーです。
そうした「いつもの一杯」を守りながらも、適切な抗凝固療法やリズムコントロール、生活習慣の見直しを続けるほうが、多くの患者さんにとって現実的で、心も折れにくい治療計画になるかもしれません。
健康を守るということは、危険そうに見えるものを片っ端から排除することではなく、自分の生活のリズムを大きく崩さない範囲で、科学的に筋の通った選択を重ねていく営みです。
心房細動を抱える人にとって、朝のコーヒーカップが「罪悪感の象徴」から「主治医と相談のうえで続ける、小さな楽しみ」へ位置づけを変える日が来てもよさそうです。
参考文献:
Wong CX, Cheung CC, Montenegro G, et al. Caffeinated Coffee Consumption or Abstinence to Reduce Atrial Fibrillation: The DECAF Randomized Clinical Trial. JAMA. Published online November 9, 2025. doi:10.1001/jama.2025.21056

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
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