慢性腎臓病(CKD)の人の外来では、「腎臓に悪いと聞いたので、痛み止めは飲まないようにしています」と話す人が多くいます。
たしかにロキソプロフェンやイブプロフェンなどのNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)は、飲み方をまちがえると腎臓に負担をかける薬です。
しかし、本当にすべてのCKD患者で完全に禁止すべきなのでしょうか。
NSAIDsは、COXという酵素(炎症を起こす物質をつくるスイッチ)を止めることで、痛みや炎症をやわらげます。
ただ、COXが止まると「プロスタグランジン」という腎臓を守る物質も減ってしまいます。
プロスタグランジンは腎臓の血流を守る“ブレーキ役”で、水分や塩分の調整も助けています。
このため、腎臓が弱っているCKDでは、NSAIDsの影響を受けやすくなります。
では、どれくらい危険なのか。
ふつうの健康な人たちでは、NSAIDsを使っている人は使っていない人に比べて、急性腎障害(AKI)が1.6〜2.2倍ほど起こりやすいことがわかっています。
それでも、脱水や持病がなければ、実際に腎臓トラブルが起こることは多くありません。
CKDステージ1〜3でも、ほかのリスクが少なければ、健康な人たちと大きな違いがないという報告が多くあります。
問題が大きくなるのはステージ4以上です。
この段階では、AKI、むくみ、高カリウム血症などが起こりやすくなり、特に「ARB(血圧を下げる薬)+利尿薬+NSAID」の3つが重なると、腎臓の負担が一気に増えます。
心臓や血管にも影響が出ます。
NSAIDsを飲むと血圧が3〜6mmHgほど上がりやすく、ACE阻害薬(血圧を下げる薬)や利尿薬の効きも弱くなります。
たとえ5mmHgの上昇でも、脳卒中や心筋梗塞のリスクは増えるため、CKDの人では注意が必要です。
長いあいだNSAIDsを使ったときの腎機能の落ち方は、少し違う特徴があります。
ステージ1〜3の人では、通常量のNSAIDsを使っていても、腎機能の落ち方は使っていない人と大きく変わらないという研究が多くあります。
一方で、高用量を続ける場合やステージ4〜5では、腎機能が早く落ちやすいという結果が目立ちます。
これらをまとめると、実際の使い方には段階があります。
ステージ1〜2では、大きなリスクがなければ短期間の使用が可能です。
ステージ3では「短時間作用型を選ぶ」「5日以内におさえる」「2〜3週間以内に腎臓の採血をする」などの条件つきで使えます。
ステージ4では、本当に必要な場合だけ短期間で。
ステージ5では、基本的には避けることが推奨されます。
さらに、塗り薬タイプのNSAIDsは体に入る量がとても少ないため、CKDの患者さんでも選択肢となります。
ただし、この論文にも弱点があります。
研究の条件がバラバラで、特にステージ4〜5の人のデータが少ないことです。
また、欧米の高齢者中心のデータなので、日本の状況と完全に同じとは限りません。
それでも、「CKDだから絶対に飲んではいけない」という考えと、「痛いときは好きに飲んでいい」という考えの中間に、現実的な道があります。
腎臓の状態、年齢、飲んでいる薬、脱水の危険などを合わせて考え、「この条件なら、ここまで使える」という判断が大切です。
痛みが続くときには、腎臓の状態や飲んでいる薬をふまえて、医師とどう使うかを相談することが大切です。
生活の痛みと腎臓の安全、その両方をうまく保つことが、CKD診療の大きな課題です。
参考文献:
Baker M, Perazella MA. NSAIDs in CKD: Are They Safe?. Am J Kidney Dis. 2020;76(4):546-557. doi:10.1053/j.ajkd.2020.03.023

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
