若い学生さんたちや、あるいは患者さんを見ていても感じることですが、同じ困難に直面しても、すぐに立ち直る人と、深く落ち込んでしまう人がいます。
特に大学入学のような新しい環境では、人前での発表や新しい人間関係に強い不安を感じる「社会的不安」は、誰にとっても身近な問題です。
この不安を和らげる「心のしなやかさ」とは、一体どのように働くのでしょうか。
最近、中国の大学生を対象にした興味深い研究が報告されました。
この研究は、困難から立ち直る力である「特性レジリエンス」が、社会的不安をどう防ぐかに注目しました。
重要なのは、レジリエンスが「どのように」不安に影響するか、その心のメカニズムを解明しようとした点です。
研究チームは、その「仲介役」として、2種類の「感情調節」(物事の捉え方を変える「認知の再評価」と、感情を隠す「表出の抑制」)と、2種類の「コーピング戦略」(問題に立ち向かう「接近」と、問題を避ける「回避」)の4つを設定しました。
調査は、中国の複数の大学からランダムに選ばれた748人の学生に、オンラインの質問紙で実施されました。
分析の結果、予想通り、特性レジリエンス(立ち直る力)が高い学生ほど、社会的不安のレベルが低い傾向がはっきりと示されました(相関係数 r = -0.486)。
そして、この関係には4つの「仲介役」が複雑に関わっていることが分かりました。
*レジリエンスが高い人は、「接近コーピング(問題解決に動く)」を多く使い、「表出の抑制(感情を隠す)」や「回避コーピング(問題を避ける)」をあまり使わない傾向がありました。これらはすべて、社会的不安を減らす方向に働いていました。
*しかし、予想外の結果が一つありました。それは、一般的に良い戦略とされる「認知の再評価(物事の捉え方を変える)」の役割です。
この研究で最も興味深いのは、レジリエンスが高い人ほど「認知の再評価」を多用するにもかかわらず、この「認知の再評価」が、最終的に社会的不安を高める方向に作用していた点です。
ポジティブに考え直すことが、なぜ不安につながるのでしょうか。
研究者たちは、これを「使いすぎによる逆説的効果」ではないかと考察しています。
例えば、社交の場で不安を感じた時、「これは学びの機会だ」と無理に考え直そうとすることが、かえって「自分はうまく振る舞えたか」「他人はどう思ったか」という自己監視を強め、不安を悪化させるのかもしれません。
心のしなやかさを、車の高性能な「運転支援システム」に例えるなら、「認知の再評価」はその一つです。
しかし、システムを過信して操作しすぎると、かえって運転が不安定になる(不安が増す)ことがある。
そんなイメージです。
もちろん、この研究は一時点での自己申告データを分析したものです(横断的研究)。
そのため、「考えすぎが不安の原因だ」と因果関係を断定することはできません。
また、回答者の約3分の2が女性であり(501人、66.979%)、性別の偏りがある点も考慮が必要です。
若い人たちが悩んでいる時、私たちはつい「物事をポジティブに捉え直そう」と助言しがちです。
しかし、この研究は、その行為自体が時には裏目に出る可能性を示しています。
本当に必要なのは、無理に思考を変えることよりも、問題から逃げず(回避コーピングを減らし)、具体的な一歩を踏み出す(接近コーピングを増やす)ことなのかもしれません。
心のしなやかさ(レジリエンス)を育てる支援をしながら、その力の使い方、特に「認知の再評価」というツールの適切な「さじ加減」を伝えることが、教育やメンタルヘルスの現場で役立つ知恵となりそうです。
参考文献:
Li, Y., Zheng, P. Trait resilience protects against social anxiety in college students through emotion regulation and coping strategies. Sci Rep 15, 28143 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-13674-0

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
