魚油サプリメント―オメガ3が透析患者の心血管リスクを減らす

魚油サプリメント―オメガ3が透析患者の心血管リスクを減らす

 

透析クリニックで日々患者さんたちと向き合っていると、多くの制約の中で真摯に治療に取り組む姿に、いつも頭が下がる思いです。

食事制限も多く、「あれもダメ、これもダメ」という指導の中で、何か一つでも「これを加えると良いかもしれない」という前向きな情報があれば、それはささやかな希望になります。

 

透析患者は、心血管疾患のリスクが一般の人の約20倍にもなるといわれています。

しかし、これまでそのリスクを確実に減らす方法は限られていました。

一方で、青魚に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といったオメガ3脂肪酸は、心臓を守る働きがあることが知られています。

透析患者では体内のオメガ3が不足しがちであることも分かっていました。

 

カナダとオーストラリアの研究チームは、オメガ3が透析患者の心血管イベントを減らせるかを調べる「PISCES試験」という大規模研究を実施しました。

対象は両国26施設の維持血液透析患者1,228人。

魚油由来のオメガ3を1日4g(EPA1.6g+DHA0.8g)内服する群と、コーン油を用いたプラセボ群に無作為に割り付けました。

どちらの油を飲んでいるか、参加者も医師も分からないようにする「二重盲検」という方法で、3年半にわたり心臓発作や脳卒中などの発症を比較しました。

 

平均年齢は64歳、心血管疾患の既往を持つ人は35%ほどで、臨床現場の患者像に近い集団です。

 

その結果、魚油をとったグループでは心臓や血管の重大なトラブルが明らかに少なくなっていました。

 * 心臓や血管の重い病気はおよそ半分に減少(魚油0.31 vs プラセボ0.61/1000患者日)

 * 心臓が原因の死亡も約45%減少

 * 心筋梗塞、脳卒中、足の血流障害による切断も同様に減少

 * 全体の死亡や最初の心血管イベントも約3割減少

 * 出血などの副作用はほとんど差がなし

 

この差は偶然とは考えにくく、オメガ3の抗炎症・抗血栓・抗不整脈といった複合的な作用が関係していると考えられます。

低用量や食事任せでは届かなかった「血中レベルの差」を作りにいった点が、効果発現の鍵でした。

 

ただし、スタチン使用率が6割未満など背景治療が控えめで、厳密な二次予防を受ける患者でも同じ効果が再現するかは不明です。

また、腹膜透析や腎移植の患者には当てはまらない可能性もあります。

 

それでも、虚血合併のある患者、アクセストラブルや末梢動脈疾患を抱える患者、透析中の不整脈に悩む患者など、リスクの高い人ほど得られる効果は大きいと感じます。

 

この研究では、女性や高齢者、糖尿病のある人などでどのくらい効果が違うのかまでは、はっきり分かっていません。

副次的な項目については、結果のばらつきを調整していないため、数値は「おおよその傾向」として見る必要があります。

 

治療の選択肢が限られる透析医療の現場で、古くから知られる魚油という食品の成分が、これほど明確に心血管イベントを抑える可能性を示したことは、非常に意義深いと感じます。

もちろん、サプリメントが万能薬ではありませんが、厳しい制限の中で治療を続ける患者にとって、日々の生活に前向きに取り入れられる「お守り」のような存在になりうるでしょう。

オメガ3は、波立つ心臓をわずかに静める風のように、透析の日々を少しだけ穏やかにしてくれる—そんな希望を感じさせる研究です。

 

参考文献:

Lok CE, Farkouh M, Hemmelgarn BR, et al. Fish-Oil Supplementation and Cardiovascular Events in Patients Receiving Hemodialysis. N Engl J Med. Published online November 7, 2025. doi:10.1056/NEJMoa2513032

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。