脳が歩数に応える―アルツハイマー病を遠ざける7,000歩の力

脳が歩数に応える―アルツハイマー病を遠ざける7,000歩の力

 

外来では、ほとんど椅子に座って診療していますから、ランニングのない日は2000歩も歩いていない気がします。

案の定、スマホの歩数計の機能で調べてみると(どういう仕組みで測定しているのかわかりませんが)だいたい1500歩でした。少し物足りない数字ではあります。

 

このブログでは、過去に何度か「1日に何歩歩けば、体や心にいいのか」といった研究を紹介してきました。

紹介している本人が実践していないというのは何ともお恥ずかしい限りなのですが、今回は認知機能と歩数についての研究の紹介です。

 

ハーバード医科大学の研究チームは、認知機能が保たれている高齢者296人を最長14年間追跡しました。

1日の歩数を歩数計(オムロン製)で記録し、脳内のアミロイドβ(Aβ:アルツハイマー病の原因物質)タウたんぱく(神経細胞を傷つける異常タンパク)の蓄積をPETで定期的に測定。

さらに年1回の認知テストで、記憶力や判断力の変化を追いました。

これまで「運動が脳に良い」とは言われてきましたが、脳内の病理変化をここまで長期に追った研究は珍しいのです。

 

興味深いのは、歩数が多い人ほど記憶力や生活機能の低下がゆるやかだったことです。

ただし、歩数がAβそのものを減らしているわけではありません。

高いAβを持つ人で、よく歩くほどタウたんぱくの蓄積が遅くなる―ここが重要な発見でした。

脳の側頭葉(記憶中枢)でタウが進みにくくなり、その結果として認知機能の維持につながっていたのです。

 

歩数ごとの変化を見てみると、

* 3,000歩以下では進行が速く、

* 3,001〜5,000歩でタウの増加と認知低下が約40%抑制、

* 5,001〜7,500歩で改善効果が最大(約50%抑制)、

* 7,500歩を超えると効果は頭打ちとなりました。

 

私たちは「多ければ多いほど良い」と思いがちですが、脳は繊細に反応しているようです。

つまり、以前の記事でも触れたように「1万歩神話」ではなく、“5,000〜7,500歩”が現実的な最適解なのです。

少ない歩数でも、脳は確かに応えてくれます。

 

思い返せば、これまで私は「7,000歩で心が軽くなる」「7,000歩で体が守られる」といった研究を紹介してきました。

今回の結果で、その“7,000歩ライン”が脳の健康にも共通していることがわかり、一本の線がつながったように感じます。

 

この研究の核心は、歩くことがアルツハイマー病の根っこにある病理―Aβからタウへの悪循環―を緩やかにできる可能性を示した点にあります。

歩行によって血流が増し、神経栄養因子(BDNFやイリシンなど)が分泌され、炎症が鎮まり、神経細胞が守られると考えられています。

 

もちろん、これは観察研究であり、歩くことで病気を“治す”とは言い切れません。

それでも、追跡開始時に参加者の認知機能に差がなかったことを考えると、「歩くことが脳を守る」可能性はかなり高いといえます。

 

外来診療の合間に、スタッフに迷惑がらない程度に、その辺を歩いてみようと思います。

良いとわかっているのだから、やらない手はありません。

いつどこで歩数をかせぐかの工夫は必要ですが。

 

参考文献:

Yau, WY.W., Kirn, D.R., Rabin, J.S. et al. Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer’s disease. Nat Med (2025). https://doi.org/10.1038/s41591-025-03955-6

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。