瞑想は高齢者の眠りをどう変えるのか

瞑想は高齢者の眠りをどう変えるのか

 

夜中に目が覚めてしまい、そこからなかなか寝付けない。

頭の中で今日あった後悔やこれからの心配がぐるぐると回り始め、眠りに戻れなくなることがあります。

そんな時、「無」になれたらどんなに楽だろう。

この「心を無にする」トレーニングともいえる瞑想が、私たちの睡眠の質を根底から変えるかもしれない、そんな可能性を示す研究がフランスで行われました。

 

これまでも瞑想が心身に良い影響を与えることは知られていました。

しかし、睡眠の質が変化しやすい高齢者で、瞑想がどのような影響をもたらすのか、よく分かっていませんでした。

そこで研究チームは、生涯にわたって瞑想を続けてきた熟練の実践者たちと、瞑想経験のない人々を比較してみたのです。

この研究のユニークな点は、27人の熟練瞑想者(平均年齢70.7歳、生涯の瞑想時間は中央値で28,675時間)と、135人の瞑想未経験の対照群の脳波を、眠っている間ずっと記録し続けたことです。

 

まず睡眠時間の長さとして、瞑想の達人たちは未経験者に比べて一晩で平均約35分長く眠っていました。

さらに睡眠の構造を見てみると、達人たちは最も浅い眠りの段階である「N1睡眠」の割合が対照群より低く(9.5% vs 16.6%)、より安定した「N2睡眠」の割合が高いことが分かりました。

つまり、彼らの睡眠は、より長く、より安定した傾向にありました。

 

しかし、最も興味深い発見は、ノンレム睡眠(夢を見にくい深い眠り)中の脳波に見られました。

達人たちの脳では、「デルタ波」と呼ばれる非常にゆっくりとした脳波が少なく、その代わりに「アルファ波」という、私たちがリラックスして起きている時に現れる脳波が多く観察されたのです。

つまり、眠っているのに、脳の一部は起きているかのような活動を示していました。

 

研究者たちは、この現象を「睡眠中における、意識の部分的な保持」の可能性として解釈しています。

通常、深い眠りに入ると私たちの意識は途絶えます。

しかし、長年の瞑想によって意識をコントロールする訓練を積んだ人々は、睡眠という無意識の領域でさえ、自分自身を観察するような意識を保っているのかもしれません。

それは、オーケストラが演奏を終えた後もホール全体に余韻が響いているような、質の高い静けさに似ています。

 

もちろん、こうした効果は一朝一夕で得られません。

熟練者になるには長年の実践が必要です。

それでも、この研究は瞑想という自然な方法が、脳と眠りを支える可能性を教えてくれます。

私自身も眠れない夜に、横になったまま、呼吸に意識を向ける「サマタ瞑想」に取り組んでみることがあります。

それでも雑念にとらわれる時には、白隠禅師に倣って「足裏呼吸」をしてみます。

 

加齢に伴う睡眠の変化は、多くの人にとって避けられない課題です。

しかし瞑想は、眠りを単なる休息から“心を整える時間”へと変える可能性を秘めています。

 

参考文献:

Champetier P, Hamel A, André C, et al. EEG Brain Rhythms During Resting-State Wakefulness and Sleep in Elderly Expert Meditators. J Sleep Res. Published online July 29, 2025. doi:10.1111/jsr.70161

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。