燃え尽き前のサインを見える化 ― 医師の健康をスマートウォッチで探る

燃え尽き前のサインを見える化 ― 医師の健康をスマートウォッチで探る

 

医師の仕事は人の命を預かる重責に満ちています。

心身をすり減らした結果、米国では2022年に63%もの医師が燃え尽き症候群(バーンアウト)を経験していると報告されました。

これは単に個人の問題ではなく、医療の安全や質、さらには社会全体の医療費にまで影響する深刻な問題といえます。

誤診や医療訴訟、離職につながるケースも多く、国全体の医療体制を揺るがす要因になっています。

 

その解決の一端として注目されたのがスマートウォッチでした。

意外に思われるかも知れませんが、心拍や睡眠、歩数といった生理データを簡便に可視化できることから、自己認識を高め、ストレスや疲労を早めに察知できる可能性があると考えられたのです。

時代の流れとして、日常の健康管理にデジタル技術を取り入れる動きが広がり、スマートウォッチは“手軽な自己管理ツール”として期待を集めていました。

そこで米国のメイヨークリニックとコロラド大学医学部が新たな試みを行いました。

184人の医師を対象に、Garmin製のスマートウォッチを使った臨床試験です。

参加者の平均年齢は37.5歳、半数近くが研修医やフェローでした。

半年間にわたり、心拍数や睡眠、歩数を記録し、燃え尽き症候群、レジリエンス(回復力)、生活の質、抑うつ、ストレス、眠気といった指標を比較しました。

 

結果はデータとしても明確に示されました。

6か月後、スマートウォッチを使った群のバーンアウトは41.2%、対照群では50.5%。

多変量解析では、オッズ比0.46とほぼ半減していました。

また、レジリエンスの平均スコアも31.9点と、対照群の29.5点を上回りました。

一方で、生活の質や抑うつ、ストレス、眠気といった面では大きな差は見られませんでした。

 

さらに12か月追跡すると、継続使用した群で質の改善が確認され、後から導入した対照群でも同様の傾向が見られました。

スマートウォッチは、短期的な工夫にとどまらず、持続的な効果をもたらす可能性を示したのです。

 

もちろん、これを万能の解決策とするのは危険です。

研究対象は大学病院勤務の比較的若い医師に限られており、他の環境や年代にそのまま当てはまるかは不明です。

何よりバーンアウトの根底には、過重労働や組織構造といった社会的要因が存在します。

個人の努力だけでは限界があるという現実も見逃せません。

 

それでも、日々の睡眠や活動量を可視化し、自己の状態を意識できることが医師の心身を支えるのならば、それは小さな革命といえるでしょう。

医療の現場にとどまらず、数字を追い立てられるのではなく数字を味方にする発想は、現代社会を少し柔らかくする可能性を秘めています。

 

参考文献:

Dyrbye LN, West CP, Wilton AR, Satele DV, Athreya AP. Smartwatch Use and Physician Well-Being: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2025;8(8):e2527275. Published 2025 Aug 1. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.27275

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。