最近、ダイエットといえば「糖質制限」、つまり低炭水化物の食事法が人気です。
「体重も減って心も軽くなる!」というのが理想ですが、現実はもう少し複雑なようです。
実際には、体重が落ちたにもかかわらず、むしろ以前より気持ちが沈んでしまったという声も聞こえてきます。
その違いはどこにあるのでしょうか。
同じ「低炭水化物」といっても、実はその内容、つまり「質」が心の健康に大きく影響することが最近の研究で明らかになりました。
アメリカで行われた約2万8,791人を対象とした調査では、植物性のたんぱく質(豆類やナッツ類、大豆製品など)や不飽和脂肪酸(アボカドやオリーブオイル、魚類など)を多く摂り、精製された炭水化物を控える「健康的な低炭水化物ダイエット」をしている人は、うつ症状を報告するリスクが約30%低くなりました。
一方、動物性たんぱく質(加工肉や赤身肉など)や飽和脂肪酸(バターや脂肪の多い肉など)が中心の「不健康な低炭水化物食」を続けていた人たちには、特にうつ症状の改善は見られませんでした。
なぜこうした違いが生まれるのか。
研究者たちはその原因の一つとして「体内の炎症」を挙げています。
精製された砂糖や飽和脂肪酸が多い食事は、体内で小さな炎症を起こし、これがうつ症状につながると考えられています。
一方で、植物性食品に豊富なビタミンB群や葉酸、トリプトファンなどの栄養素は、気分を安定させる神経伝達物質セロトニンの生成を助け、脳の健康を支えると考えられています。
ただし、この研究にも限界があります。
これはある一時点のデータを見ただけの調査であるため、食事が原因でうつ症状が減少したのか、あるいはうつ症状があるから特定の食事を選んだのかを明確にすることは難しいのです。
食生活も自己申告によるものであり、長期的な習慣を完全に反映しているものとは限りません。
実際に取り入れやすい食事の例としては、大豆製品(納豆や豆腐)、アボカド、ナッツ類、オリーブオイルなどがあります。
日常の食事にこれらの食品を少しずつ加えていくことが、身体だけでなく心の健康にも役立つでしょう。
ダイエットの目的は、本来「健康」のはずです。
そのダイエットが心身の健康を損なってしまっては意味がありません。
特に心が落ち込んでしまっては、せっかくの努力が台無しになってしまいます。
正しい方法があるのなら、それを学び、実践していきましょう。
参考文献:
Hu C, Han B, He Y, et al. Low-carbohydrate diet macronutrient quality and depression symptoms among US adults. J Psychiatr Res. 2025;184:411-417. doi:10.1016/j.jpsychires.2025.03.013

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。