リアルとバーチャルの狭間―デジタルネイティブの恋愛事情

リアルとバーチャルの狭間―デジタルネイティブの恋愛事情

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化しています。あわせてお楽しみください。

 

デジタルゲームの世界には、昔から恋愛シミュレーションというカテゴリーがあります。

例えば、『Mr. Love: Queen’s Choice』では超能力を駆使したストーリー展開が魅力で、『VR カノジョ』ではVR技術によるリアルな恋愛体験を味わえます。

こうしたデジタル空間での「恋愛」は実際の生活や結婚願望にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

今回、中国の成人男女503人を対象に、仮想キャラクターとの恋愛が実際の結婚意欲に与える影響を調べた研究が報告されました。

 

調査結果によると、仮想恋愛には二つの相反する影響があることがわかりました。

 

一つ目は、仮想キャラクターとの関係で十分な感情的つながりや「本物らしさ」を感じると、実際の結婚への関心が低下するというものです。

具体的には、特に男性参加者の約65%が、仮想恋愛による満足感が現実世界の恋愛への関心を低下させる傾向が見られました。

これは多くの人にとって納得の結果でしょうし、我々昭和世代にしてみれば、この結果こそが日ごろ抱いている懸念に違いありません。

 

もうひとつの影響は、まったく真逆のものでした。

実際の結婚に前向きな気持ちを引き出すというのです。

仮想の恋人との関係で得られた幸福感や自己効力感が、自分自身への信頼を強め、現実の恋愛に対する意欲を高める結果につながっているようです。

これは予想外の結果と言えますが、仮想空間での成功体験が実生活において自信を与え、新たな恋愛や結婚に踏み出す勇気を後押ししているのかもしれません。

 

さらに注目すべき点として、仮想空間への没入感が高い人ほど伝統的な結婚観を支持する傾向が強まるという結果も得られました。

一見すると不思議に感じられるかもしれませんが、仮想恋愛ゲームの中で描かれるストーリーやキャラクターの関係性が、実は現実の社会的規範や価値観を色濃く反映しているためではないかと考えられます。

 

また男女間の違いも明確で、男性は女性よりも仮想恋愛による感情的つながりや没入感、自信の影響を受けやすい傾向がありました。

この背景には文化的な要素や、生物学的な要因も関わっていると考えられます。

 

研究者たちは、仮想恋愛が現実のパートナー探しのモチベーションを低下させる懸念を指摘する一方で、恋愛シミュレーションゲームの開発者や精神保健の専門家が、仮想恋愛を通じて健全な結婚観を促進するような設計を取り入れることで、社会的にプラスの影響を与えられる可能性も示唆しています。

 

とはいえ、この研究は中国を対象にした横断的調査であるため、文化的背景が結果に大きく影響している可能性があります。

また、調査が自己報告に基づくため、回答者の記憶や認知バイアスの影響を受けている可能性や、参加者が特定の仮想恋愛ゲームのプレイヤーに偏っているという制限もあります。

さらに、結婚意欲がもともと低い人が仮想恋愛に惹かれる可能性もあり、今後は異なる文化圏を含めた長期的かつ実験的な研究によって詳しく検証する必要があります。

 

仮想空間の恋愛は、感情と社会規範、そして現実の人生選択に複雑な影響を与えます。

技術の進歩とともに、私たちは人間関係の新たな形と向き合う時代に入っているのかもしれません。

つくづく私のような昭和世代には理解しがたい時代になってきていると感じます。

デジタルネイティブ世代の「常識」はこれからどう変化していくのでしょうか。

 

参考文献:

Zhao JL, Jia R, Shields J, Wu YJ, Huang WW. Romantic Relationships with Virtual Agents and People’s Marriage Intention in Real Life: An Exploration of the Mediation Mechanisms. Arch Sex Behav. Published online May 1, 2025. doi:10.1007/s10508-025-03143-0