ボノボ式「ズルいの禁止!」〜動物社会にもある公平感覚〜

ボノボ式「ズルいの禁止!」〜動物社会にもある公平感覚〜

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化しています。あわせてお楽しみください。

 

人間というものは、どうにも「公平さ」が気になる性分の生き物です。

同じように働いたはずなのに、同僚だけボーナスが多かったり、家事を分担しているはずが自分ばかり負担が重かったりすると、胸のあたりがモヤモヤとして、腑に落ちない気持ちになる。

専門家はこの感覚を「不公平回避(Inequity Aversion, IA)」と呼び、私たちが互いに協力して社会を営む上で、非常に重要な感情だと指摘しています。

 

この「不公平を嫌う」感覚は、果たして人間だけの特有なものでしょうか?

その答えを探るため、科学者たちはさまざまな動物を研究してきました。

例えば、チンパンジーは「期待したご褒美が得られず拗ねているだけでは?」という意見もあり、まだ結論は出ていません。

 

そこで登場するのが、私たちのもう一方の近い親戚、ボノボです。

私は以前にもボノボの社会性や協力行動についてのブログ記事を投稿しています。

(詳しくは、2025/02/15付『ボノボは相手の「わからない」を見抜いて助ける』)

ボノボは争いを好まず、絆を大切にする動物として知られており、彼らこそ「公平さ」を感じる能力を持つかもしれません。

 

ドイツ・ライプツィヒ動物園の研究センターで行われた実験では、6頭のボノボ(オス3頭、メス3頭、年齢9〜39歳)を対象に、不公平な食べ物の分配への反応を調べました。

実験の一つ目はトークン交換ゲームです。

ボノボは「トークン」(実験で使用するプラスチック製の棒や筒)を研究者に返すことで食べ物をもらえます。重要なのは、その報酬内容です。

 

公平な条件では、隣のボノボも自分も同じ「まあまあの食べ物」(ニンジンやリンゴ)をもらいます。

しかし、不公平な条件では、隣は美味しいブドウをもらい、自分はニンジンやリンゴのままです。

この状況で、ボノボたちは公平な条件に比べて約3.25倍も交換を拒否しました。

明らかに損をしている状況で、ボノボたちも「不公平」を感じていたのです。

 

さらに「期待外れによる失望」を排除するため、報酬を配るのが人間か機械かを比較した二つ目の実験も行われました。

その結果、ボノボが最も頻繁に交換を拒否したのは、機械が報酬を配り、隣に仲間がいる状況でした。

これは、単なる「人間への失望」ではなく、「不公平な状況そのもの」に反応していることを示しています。

 

また、ボノボ同士の関係性も重要でした。

グルーミング(毛づくろい)などで親しい関係のボノボ同士では、不公平があっても拒否が少なかったのです。

このことは、人間でも親しい間柄では不公平感を感じにくいことと似ています。

 

このように、ボノボもまた不公平を敏感に感じる能力があることが分かりました。

この感情は、人間社会だけでなく動物社会でも協力を促進するために重要な要素として進化したのかもしれません。

不公平を避ける心は、生き物の世界に広く深く根付いている可能性があるのです。

私たちが感じる「ズルいのは嫌だ」という感覚は、もしかすると動物たちとも共通の感情なのかもしれませんね。

 

参考文献:

Radovanović K, Lorskens A, Schütte S, et al. Bonobos respond aversively to unequal reward distributions. Proc Biol Sci. 2025;292(2045):20242873. doi:10.1098/rspb.2024.2873