ボノボが相手の知らないことを理解し、積極的に情報を伝えるという研究が発表されました。
人間は、相手が知らないことを考えて説明したり案内したりします。このような「他の人が何を知っているかを考える力」は、類人猿にもあるのかが長年の議論になっていました。
今回の研究では、アメリカの研究所で3頭のボノボ(Nyota 25歳、Kanzi 43歳、Teco 13歳)を対象に実験が行われました。
目の前に3つのカップを置き、そのうち1つに報酬を隠します。ボノボはその様子を見ていますが、実験者(E1)は「知っている」または「知らない」状態に設定されます。隠し終わった後、E1は「どこかな」とつぶやきます。ボノボが指差して正しいカップを示すと、報酬がもらえます。この試行を8回のセッション(各15回)行い、「知っている」「知らない」条件でそれぞれ24回ずつ実施しました。
分析の結果、E1が「知らない」とき、ボノボはより多く指差しを行い(オッズ比0.29、P=0.004)、反応するまでの時間も短縮されていました(回帰係数1.51、P=0.005)。
また、ほとんど間違えずに正しいカップを指しました。さらに、誰も見ていない状況では指差しが減ったため、この行動は相手に情報を伝えるためのものだと考えられます。
この結果から、ボノボは「相手が知らないこと」を理解し、自分の知識を伝えようとする能力を持っていることがわかりました。
これは、これまで人間だけの特徴だと考えられていた「相手の無知を前提とした柔軟なコミュニケーション」が、ボノボにも見られることを示しています。
今後の研究では、ボノボ以外の類人猿にも同じ能力があるのか、また異なる状況でもこの行動が見られるのかを調べることが次の段階の課題となるでしょう。
この研究は、人間のコミュニケーションや協力の進化を理解するうえで、重要な手がかりを与えることになります。
参考文献:
L.A. Townrow, & C. Krupenye, Bonobos point more for ignorant than knowledgeable social partners, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 122 (6) e2412450122, https://doi.org/10.1073/pnas.2412450122 (2025).
