ためしに、紹介した論文の音声概要をNotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
COVID-19の流行が始まった頃、多くの医療従事者は日々、目の前で命を失っていく患者や治療が上手くいかなかった経験など、多くのつらい出来事を目にしました。
こうした出来事は、後になっても鮮明なイメージとして突然頭に浮かぶことがあり、これは一般的に「フラッシュバック」と呼ばれます。
フラッシュバックは繰り返されることで精神的な負担となり、集中力の低下や日常生活への影響が生じます。
こうした問題に対し、スウェーデンの研究チームが、フラッシュバックを軽減するためのシンプルかつ取り組みやすい介入方法を検証しました。
しかも、その方法というのが、思いもよらないユニークなものでした。
研究では、COVID-19パンデミック中にトラウマ体験をした医療従事者144人を対象に、2つのグループに分けて調査が行われました。
一方のグループ(介入群)は、トラウマのイメージが思い起こされた、まさにその直後に、『テトリス』を約20分間プレイしてもらいました。
これは、テトリスの単純なムーブがフラッシュバックのような視覚的記憶と脳内で競合し、それを弱める効果があると考えられたためです。
もう一方のグループ(対照群)は、注意をそらすことを目的として、倫理や人間の本質について考察する哲学のポッドキャストを聞いてもらいました。
5週間後、『テトリス』をプレイしたグループでは、フラッシュバックの数が対照群よりも明らかに少なくなっていました。
具体的には、対照群では週に平均5回だったのに対し、『テトリス』群では週に平均1回と、約70%も減少していました。
また、1週間後の短期的な評価や1か月後、3か月後、6か月後の評価でも、『テトリス』をプレイしたグループはフラッシュバックや関連する心的ストレスが少なくなり、仕事や日常生活における集中力や睡眠の質が改善されるという効果も示されました。
この方法が特に注目された理由は、たった1回、約30分の短いセッションで効果が得られたことです。
さらに、この介入はスマホのゲームアプリを使って手軽に行えるため、世界中どこでも容易に実施できる可能性があります。
一方で、自己申告による評価であることや、参加者が必ずしもPTSDと診断されたわけではない点、また長期的な効果の持続については今後の検証が必要とされています。
それでも、複雑なトラウマ治療や長期間のセラピーを受ける必要がなく、短時間で手軽に、しかも繰り返し行えるという点は、この方法の大きな魅力です。
トラウマに関する記憶は一度形成されるとなかなか消えませんが、この研究はその記憶を弱め、日常のフラッシュバックを減らす新たな道を示しています。
この手法は、医療従事者だけでなく、日々ストレスやトラウマを経験する職業の方々にも応用が期待されています。
心のケアの在り方を見直す大きなきっかけとなるかもしれません。
参考文献:
Kanstrup M, Singh L, Leehr EJ, et al. A guided single session intervention to reduce intrusive memories of work-related trauma: a randomised controlled trial with healthcare workers in the COVID-19 pandemic. BMC Med. 2024;22(1):403. Published 2024 Sep 19. doi:10.1186/s12916-024-03569-8
