ためしに、紹介した論文の音声概要をNotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
私には高校時代からの友人で、未だに独身を貫いている男がいます。
たまに会うと、彼は「今さらするつもりもないけれど、結婚には縁がなかった」と、自虐的な笑顔を浮かべるのでした。
そんな彼に、私は「独り身だとつい不摂生にならない?」と半ば冗談で忠告してきたものでした。
ところが最近、その忠告が的外れだったかもしれないと思わせる研究結果が出ていました。
これまでの一般的な研究では、結婚していることが健康や長寿に良い影響を与えるとされてきました。
しかし、今回、認知症について少し異なる結果が示されています。
米国のNational Alzheimer’s Coordinating Center(NACC)が約24,000人の高齢者を18年間にわたって追跡調査したところ、意外にも、結婚していない人(未婚、離婚、死別)の方が、結婚している人より認知症のリスクが低いという結果が明らかになりました。
具体的には、結婚している人を基準として、離婚した人の認知症リスクは34%低く、未婚の人は40%も低かったのです。
また、配偶者を亡くした人々でさえ、結婚している人より27%も認知症リスクが低いことが分かりました。
この傾向はアルツハイマー病やレビー小体型認知症など特定の認知症タイプでも同様でした。
ただし、血管性認知症に関しては明確な関連性が見られず、すべての認知症に同様の効果があるわけではないようです。
なぜこのような意外な結果になったのでしょうか。
一つの理由として考えられるのは、独身者が社会的な交流が盛んであることや、より健康的な生活を送っているかも知れないという可能性です。
また、離婚後に幸福度が上がるという皮肉な研究もあり、精神的・社会的な側面が認知症のリスクを減らすことにつながっているのかもしれません。
しかし、もう一つの可能性として「診断の遅れ」も挙げられています。
結婚している人は配偶者によって認知症の初期症状が早期に気付かれ、診断につながりやすいのに対し、独身者はそのような「気付き手」がいないために診断が遅れ、統計上のリスクが低く見えてしまうという可能性です。
確かに、診断がつかないことには統計上の数字に表れようがないですものね。
いずれにしても、この研究結果は「結婚が認知症から守る」という従来の通説に一石を投じるものとなりました。
もしかすると重要なのは結婚という形態よりも、人間関係や生活習慣の質にあるのかもしれません。
個人的には、結婚生活云々ではなく、焦点をあてるべきはそこじゃないかとも思うのです。
参考文献:
Karakose S, Luchetti M, Stephan Y, Sutin AR, Terracciano A. Marital status and risk of dementia over 18 years: Surprising findings from the National Alzheimer’s Coordinating Center. Alzheimers Dement. 2025;21(3):e70072. doi:10.1002/alz.70072
