ためしに、紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。
騒がしい環境では、会話をクリアに聞き取るのは難しいです。
ところが、想像してみてください。
あなたが雑踏の中で、まるでマジシャンがシークレットムーブをそっと使うように、指先でリズムを刻むだけで耳が鋭敏になるとしたらどうでしょう?
このちょっとした動作で聴力がアップする現象――実はこれ、X-Menのような異能者のお話をしているのではなく、最近の研究で実際に確認されたものなのです。
フランスの研究チームは、人がリズミカルな動きをすると、脳が会話を聞き取る準備を整えることを発見しました。
この研究は『Proceedings of the Royal Society B』という学術誌で紹介されています。
研究では、背景にノイズがある状態で話される言葉を聞き取る実験が行われました。
参加者は、話を聞く前に指を一定のリズムでタップしたり、何もしなかったりしました。
その結果、特に自然な話し言葉の速度に近い1秒間に1.8回というリズムで指をタップした場合、参加者の聞き取り精度が明らかに向上しました。
一方で、リズムがゆっくり過ぎたり速過ぎたりすると効果は限定的でした。
さらに興味深いことに、指の動きだけでなく、「話す」という動作も有効でした。
まさに言葉のキャッチボールのように、自分が言葉を発すると脳が聞く準備を整えるようです。
例えば、参加者が「走る」や「食べる」といった単語を実際に声に出してから話を聞く実験を行ったところ、単語を口にした後の方が聞き取りやすくなったのです。
これは、言葉の意味自体よりも、話すという行為そのものが脳の聴覚処理を一時的に強化しているからだと考えられます。
これらの実験結果から、リズムに乗った動きが脳の中でメトロノームのような役割を果たしていることがわかりました。
具体的には、動きを通じて脳がタイミングを正確に捉え、「次の瞬間に大切な言葉が来る」と予測しやすくなるという仕組みです。
普段から歩いたり走ったりするときに、無意識にリズムを取って動きを調整しているように、リズミカルな動きが聞き取りのタイミングを整える助けになっているのです。
特に、日常的な話し言葉の速度に近い1秒間に1.5回から2回のリズムで動くことが最も効果的でした。
ただし、効果はまだ限定的で、雑音がない環境でも同様の効果があるのか、また音楽経験やリズム感が優れた人ほど効果が高まるのか、といった点は今後の課題です。
今回の発見は、ちょっとした動きが聴覚を支える意外な役割を持っていることを示しています。
騒がしい場所で次に会話が難しくなったときは、こっそりとリズムを刻んでみると、もしかしたら少し聞きやすくなるかもしれません。
参考文献:
Te Rietmolen N, Strijkers K, Morillon B. Moving rhythmically can facilitate naturalistic speech perception in a noisy environment. Proc Biol Sci. 2025;292(2044):20250354. doi:10.1098/rspb.2025.0354
