帯状疱疹ワクチン接種が認知症予防に役立つ?

帯状疱疹ワクチン接種が認知症予防に役立つ?

 

 

歳を重ねるにつれて、健康の悩みは増えるものです。

特に「最近物忘れが多いな」と感じると、認知症のことが頭をよぎることもあるでしょう。

そんな中、最近の研究で帯状疱疹のワクチン接種が認知症予防に役立つ可能性があるという、ちょっと意外な結果が報告されています。

 

帯状疱疹は、子どもの頃にかかることが多い水ぼうそうと同じウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)が原因で起こります。

このウイルスは一度感染すると体内の神経節に潜み続け、体の抵抗力が低下した時に再活性化し、ピリピリと痛みを伴う発疹を引き起こします。

 

この研究の興味深い点は「自然実験」という手法を使っていることです。

「自然実験」とは、研究者が意図的に実験条件を設定するのではなく、偶然発生した社会的状況を利用して要因の影響を調べる方法です。

一般的には相関関係を示すものですが、自然実験では偶然にグループが分かれることで、生活習慣や健康意識などの条件が均等化され、他の影響を排除しやすくなるため、通常の観察研究よりも因果関係に近い解釈が可能になるのです。

 

例えばウェールズでは、「1933年9月2日以降に生まれた人だけ帯状疱疹ワクチンを接種できる」と誕生日で明確に接種資格が区切られていました。

研究者たちはこの偶然の「境界線」を活用し、約28万人のデータを分析しました。

その結果、ワクチン接種資格があった人は認知症の新規診断リスクが7年間で3.5パーセントポイント低く(相対的には約20%減少)、特に女性でその効果が顕著であることが分かりました(女性では5.6ポイント低下)。

研究者は、女性で効果が顕著だった理由として、女性の方がワクチン接種後の免疫反応が強く現れる傾向があることや、女性ホルモンが神経保護効果に関係している可能性を指摘しています。

ただし、詳しいメカニズムはまだ明らかでなく、今後の研究課題です。

 

アメリカでも同様の研究が行われ、65歳以上の約29万人を対象に調査したところ、ワクチンを接種したグループは認知症の発症リスクが約8.5%低く、具体的な認知症発症率は接種群で7.4%、未接種群で8.2%でした。

 

なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症予防に繋がるのでしょうか?

研究者は二つの可能性を指摘しています。

一つ目はワクチンがウイルスの再活性化を抑え、神経系へのダメージを防ぐ可能性。

もう一つは、ワクチン接種が免疫システム全体を良好な状態に保ち、脳の炎症を軽減する可能性です。

 

もちろん、この研究にも限界があります。

使用されたワクチンが旧型の生ワクチンであること、また追跡期間や対象年齢など、さらなる研究が必要な部分も多いのです。

 

それでも、この発見は面白いと思います。

そもそも「帯状疱疹を予防する」目的のワクチン接種が、認知症にも影響しているかも知れないというお話は、病気解明の手がかりが隠されているかも知れません。

 

参考文献:

Eyting M, Xie M, Michalik F, Heß S, Chung S, Geldsetzer P. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature. Published online April 2, 2025. doi:10.1038/s41586-025-08800-x