「スマホがどこにあるか探すために他のスマホが必要になる」という笑えない状況が時々あります。
これはデジタル技術に依存しすぎた現代人の象徴みたいな話ですし、心配なのは依存の先にある認知機能の低下です。
最近では「デジタル認知症」などという言葉まで出回っていますし、スマホやパソコンが脳に悪さをしていると眉をひそめる人もいます。
しかし実は、このデジタル技術が私たちの認知機能を守っている可能性があるのです。
アメリカのベイラー大学とテキサス大学オースティン校デル医学校が行ったこの研究は、合計40万人以上を対象とした136件の過去の研究を分析しました。
研究結果は明瞭で、デジタル技術を積極的に使用することで認知機能低下のリスクが58%も減少すると報告されています。
この関連性は、年齢や性別、学歴、社会経済的地位などの要素を考慮した上でも変わらず見られました。
なぜデジタル技術が認知機能にプラスに働くのでしょうか。
それは技術を使うという行為が、脳に絶えず新しい刺激を与えるからだと考えられています。
私自身も新しいソフトウェアのアップデートの度に戸惑い、「私の脳もだいぶ硬くなったな」と苦笑いすることもしばしばです。
しかし、研究者のスカリン氏の「コンピューター操作に苦労するのは、実は脳を鍛えるよい機会になっているのです」という説明に、ちょっと慰められたりもしています。
また、技術の進化は人とのつながりを促進する役割も果たしています。
家族や友人とのビデオ通話やメッセージのやり取りによって孤独感が軽減されることも、認知機能維持に役立つとされています。
さらに、デジタル技術は「デジタル・スキャフォールディング(足場)」、つまり日常生活を支える支援技術としても機能します。
これは、デジタルリマインダーやGPSナビゲーション、オンラインバンキングなどを通じて、日常生活での自立性を保ち、認知機能が多少低下しても社会生活を続けることを可能にするというものです。
もちろん、デジタル技術の使い過ぎによる弊害も無視はできません。
例えば、運転中のスマホ使用、睡眠不足を引き起こす深夜までのSNS利用、対面でのコミュニケーションの減少や集中力の低下などがその例です。
しかし、全体的に見ると、特に1990年代以降の高齢者においては、認知機能に対する良い影響の方がはるかに大きいということです。
もしご自身の家族がデジタル機器を避けているなら、少しずつでも慣れてもらうように手助けしてみるのも良いかもしれません。
写真共有アプリやカレンダーアプリのような簡単なものから始めて、焦らずゆっくりと学んでもらうのがポイントです。
新しい技術に触れることが、いつの間にか楽しいトレーニングになっているかもしれません。
少なくとも私自身、「次こそはスマホに振り回されないぞ」と意気込むものの、結局は毎回楽しく(!)振り回されてしまっています。
参考文献:
Benge, J.F., Scullin, M.K. A meta-analysis of technology use and cognitive aging. Nat Hum Behav (2025). https://doi.org/10.1038/s41562-025-02159-9
