私たちが普段何気なく聴いている音楽。
その中でも「ドラム」と「ベース」は、音楽のリズムやノリを生み出す中心的な存在です。
ビートルズのリンゴ・スター(ドラム)やポール・マッカートニー(ベース)がなぜあんなに偉大だったのか、実は科学的な理由があるようです。
最近、神経科学誌『Neuroscience』に掲載された研究によると、ドラムとベースが音楽の認識にどう影響するのかが、脳の活動を画像化することで明らかになりました。
この研究では、20~29歳の25人が対象になりました。
参加者たちは、韓国語が分からない台湾の音楽ファンで、彼らが聴いたのは18曲のK-POPの一部。
研究者たちはAIを利用して次の3つのバージョンを作り出しました。
– 完全版(歌唱も含む全ての楽器)
– ドラムとベースのみの版(歌唱や他の楽器なし)
– ボーカルとその他の楽器版(ドラムとベースなし)
各参加者がこれらのバージョンを聴いている間に、脳の活動をfMRIという特殊な方法で調べました。
その結果、非常に興味深いことが判明しました。
まず、ドラムとベースが取り除かれたバージョンでは、脳の聴覚背側経路(音楽のリズムを理解するための回路)の活動が活発化しました。
これはつまり、ドラムやベースといった明確なリズムの手がかりがなくなると、脳が拍子を探し出そうと余計に努力しているということになります。
逆に、ドラムとベースだけの音を聴いた時には、運動シミュレーションを司る右腹側運動前野と左背外側前頭前野が活発になりました。
これらの脳領域は、動きを予測してリズムに合わせる働きを持っています。
つまり、ドラムとベースの音だけで、脳は自然に動きをイメージするように刺激されるのです。
面白いことに、全ての楽器が揃った完全版では、他の二つのバージョンと比べて目立った脳の活動の差は見られませんでした。
ドラムとベースがあるかないかの違いが、脳の反応を決定的に変えるということです。
この研究から、私たちが音楽に夢中になる理由の一つが明らかになりました。
リンゴやポールのようにドラムとベースを操るミュージシャンの存在は単にリズムを作るだけでなく、私たちの脳の動きやノリを無意識のうちに引き出しているわけです。
日常の中で音楽を楽しむ時、その背後には驚くほど緻密な脳の活動が隠れているんですね。
音楽と脳の関係はまだまだ奥が深いようです。
参考文献:
Li CW, Tsai CG. The presence of drum and bass modulates responses in the auditory dorsal pathway and mirror-related regions to pop songs. Neuroscience. 2024;562:24-32. doi:10.1016/j.neuroscience.2024.10.024
