持続効果で腎臓を守る ― 長期メリットが示された研究

持続効果で腎臓を守る ― 長期メリットが示された研究

 

エンパグリフロジンは、当初は糖尿病の血糖コントロールを目的に開発されたSGLT2阻害薬です。

しかし、近年の研究で腎保護効果が注目され、慢性腎臓病(CKD)への適応拡大が進みました。

NEJMに掲載された試験(2025年2月20日付)では、この薬が治療期間中のみならず、治療を終了したあとも効果を維持する可能性が示されています。

 

本試験は、合計6609人の慢性腎臓病患者を対象に、エンパグリフロジン群とプラセボ群に無作為化し、中央値2年間の治療期間に加え、さらに2年間の追跡調査(ポストトライアル期間)が行われました。

追跡では、腎疾患の進行あるいは心血管死の発生率を主要アウトカムとし、両群の比較が行われています。

その結果、治療全期間(治療+追跡)を通じた主要アウトカム発生率は、エンパグリフロジン群で26.2%、プラセボ群で30.3%と報告され、ハザード比0.79(95%信頼区間0.72~0.87)という約21%のリスク低減が確認されました。

さらに腎機能悪化単独でもエンパグリフロジン群が有利で、末期腎不全や心血管死のリスク低減にも寄与している点が注目されています。

 

下記のKaplan–Meier曲線(図)は、主要アウトカムの経時的な発生率を示しています。

オレンジ色のラインがエンパグリフロジン群、青色のラインがプラセボ群で、縦軸はアウトカムが起こった患者さんの累積割合です。

グラフ左側の灰色部分が治療期間、右側が治療終了後のポストトライアル期間を表します。

オレンジ色の線が青色の線よりも常に低い位置で推移していることから、治療終了後もエンパグリフロジンの腎保護作用や心血管リスク低減効果が続いている可能性が示されています。

 

特筆すべきは、追跡開始後の最初の6か月間でハザード比0.60、1年間では0.76という数値が得られ、キャリーオーバー効果が少なくとも12か月ほど続くことが示唆された点です。

糖尿病の有無、推定糸球体濾過量(eGFR)のレベル、尿中アルブミン濃度など、さまざまな背景をもつ患者さんで効果が認められたことも大きな意義があります。

 

エンパグリフロジンは、糖尿病治療薬としての枠組みを超え、慢性腎臓病の進行抑制や心血管イベント予防の新たな選択肢となり得ます。

今回の試験結果は、短期間の治療であっても効果が長期にわたって持続する可能性を示すもので、今後の治療ガイドラインや臨床現場での判断に貴重な知見を提供すると考えられます。

 

参考文献:

EMPA-KIDNEY Collaborative Group, Herrington WG, Staplin N, et al. Long-Term Effects of Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2025;392(8):777-787. doi:10.1056/NEJMoa2409183