睡眠中の歯ぎしりが、体内の酸化ストレスを高め、動脈硬化や心血管疾患のリスクに繋がる可能性があることが、最新の研究で明らかになりました。
酸化ストレスとは?
酸化ストレスとは、体内で発生する活性酸素(ROS)と抗酸化力とのバランスが崩れた状態です。ROSは、呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部が変化したもので、強い酸化力を持つため、細胞や組織にダメージを与えます。一方、抗酸化力は、体内に存在するビタミンCやビタミンEなどの物質によって、ROSの働きを抑える力です。
酸化ストレスは、炎症の進行や血管内皮の傷害を促進するとされ、動脈硬化や心血管リスクにも結びつく可能性があります。
睡眠中の歯ぎしりと酸化ストレスの関係
睡眠中の歯ぎしりは、寝ている間に顎の筋肉がリズミカルあるいは持続的に活動して歯をかみしめる現象で、激しい歯ぎしりだったり、ギリギリと音が鳴ることもあります。歯ぎしりは、睡眠中の短時間の覚醒反応とも関連があるとされています。
これまでの研究で、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)などの睡眠障害が酸化ストレスを増加させることが報告されています。そこで、ポーランドの医科大学の研究者たちは「睡眠中の歯ぎしりの重症度と酸化ストレスにも何らかの関係があるのではないか」と考え、研究を行いました。
研究方法
この研究では、ポーランドの医科大学にある睡眠検査室に集まった80名(平均年齢約34歳)を対象に、一晩かけて終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を実施しました。PSGでは、脳波、筋電図、呼吸の状態、心電図などが同時に記録され、歯ぎしりのエピソード頻度(Bruxism Episode Index: BEI)が評価されます。さらに早朝に採血を行い、以下の酸化ストレス関連項目を測定しました。
- 抗酸化力の総合指標(TAS)
- 脂質過酸化を示す指標(TBARS)
- タンパク質酸化を示す指標(AOPP)
- 8-イソプロスタン
研究結果
歯ぎしりの重症度はBEIに基づき、「BEI>0.2(中等度以上)」および「BEI>0.4(重度)」の2群に分類されました。
従来の基準値でははっきりしなかった関連が、ROC曲線から得られた独自のカットオフ値を用いると明確に表れました。
- 中等度以上の歯ぎしり: TASが0.14 mM以下、TBARSが723.03 µmol/l以上だと、歯ぎしりの指標が高い傾向を示しました。
- 重度歯ぎしり: TASが0.16 mM以下、AOPPが82.44 µmol/l以上、TBARSが1585.45 µmol/l以上で歯ぎしり関連パラメータがさらに高値となりました。
一方、8-イソプロスタンについては有意な関連が確認されていません。
考察
今回の結果は、歯ぎしりと酸化ストレスが少なからず結びついている可能性を示唆しています。とくに抗酸化力が低く(TAS低値)、かつ脂質やタンパク質の過酸化が進んだ(TBARSやAOPP高値)状態では歯ぎしりが強まる傾向が見られました。この点は、同じく夜間に生じる閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)で報告される酸化ストレスの増大と興味深い対応関係があります。OSAでは、睡眠中に呼吸が止まることで、体内に酸素が不足し、ROSが過剰に産生されることが酸化ストレスの原因の一つと考えられています。
ただし本研究では、OSAの重症度やBMIの影響を十分に除外していないなど、いくつかの制約があった点も指摘されています。例えば、OSAの重症度が高い人ほど酸化ストレスが高くなる傾向があるため、歯ぎしりと酸化ストレスの関連性がOSAの影響を受けている可能性も考えられます。
まとめ
研究グループによると、睡眠中の歯ぎしりと酸化ストレスを結ぶ糸は存在するようです。脂質やタンパク質が過酸化されるほど歯ぎしりが強まる傾向は、将来的に動脈硬化や心血管疾患のリスクを高める可能性も懸念されます。
ただしこの関連を断定するには、OSAやBMIなどの影響をより厳密にコントロールした追加研究が必要です。歯ぎしりと酸化ストレスの意外な組み合わせが明らかになったことで、今後はより総合的なアプローチが待たれています。夜中の歯ぎしりが、想像以上に身体の深いところまで関わっているかもしれません。
参考文献:
Fulek, M., Frosztega, W., Wieckiewicz, M. et al. The link between sleep bruxism and oxidative stress based on a polysomnographic study. Sci Rep 15, 3567 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-86833-y
