マインドマップと医学教育

マインドマップと医学教育

 

マインドマップとは、英国の心理学者トニー・ブザンが提唱した思考整理の手法です。

1枚の紙の中央にキーワードを置き、そこから放射状に関連情報を展開し、文字や図、色彩などを組み合わせて、複雑な情報を視覚的に整理することを目的とします。たとえば、スケジュール管理や学習計画を練る際にマインドマップを使えば、頭のなかにある曖昧なアイデアややるべきことを体系的に描き出し、優先度や関係性を把握しやすくなります。実際、企業でのアイデア創出から個人の日常タスクの管理まで、多分野で応用されていることが特徴です。

 

医療の現場でも、このような視覚的かつ体系的な手法が注目を集めています。

なかでも研修医向けのプログラムは、短期間で幅広い疾患や病態生理の知識を学ばなければならない点が大きな課題です。たとえば腎臓内科の研修では、高度に専門化した内容を2か月ほどのローテーションで一気に学ばなくてはならず、病態の背景に免疫学・病理学・生理学などが入り組むため、情報量が多く、断片化しやすいといわれます。また、実際の診療では患者さんの訴えから検査データ、治療経過まで、さまざまな情報を総合して判断する必要があるため、知識のつなぎ合わせ方が重要です。しかし従来の講義形式では、内容が点在してしまい「どのポイントとどのポイントが関連するのか」を見失いがちです。

 

こうした問題へのアプローチとして、本研究では研修医がマインドマップを活用し、腎臓内科領域の知識と臨床思考を統合的に学べるかを検証しました。

具体的には、2021年から2023年にかけて腎臓内科をローテーションした研修医60名を対象に、マインドマップを取り入れた観察群30名と、従来の講義中心の対照群30名とに分けました。双方は2か月間の研修を実施しましたが、観察群では週ごとに主要な腎疾患をマインドマップで整理し、その内容を症例検討や診察手順の理解に役立てるという流れをとりました。指導医とのディスカッションもマインドマップを用いて進めることで、複雑な病態を視覚的に把握しながら学びを深めたのです。

 

評価指標として用いられたMini-CEX(ミニ・クリニカル・エクスペリエンス)では、観察群が問診や臨床判断、コミュニケーション能力、人間性への配慮、総合評価などで対照群より有意に高い成績を示しました(P<0.05)。

また筆記試験や技能試験、研修満足度のアンケートでも、マインドマップを活用した観察群が対照群を上回る結果でした。一方、身体診察や組織力に関しては群間差がほとんどみられないため(P>0.05)、マインドマップの利点が顕著になる領域とそうでない領域がある可能性があります。とはいえ、限られた研修期間のなかで情報を整理し、臨床推論を円滑化する方法として、マインドマップは大きな役割を果たせることが示唆されました。

 

実は私自身も、以前はマインドマップを使ってスケジュール管理や行動目標を立てていました。

紙の中央に「今日やること」を書き、そのまわりに優先度別のタスクや必要な道具、さらには今後の予定まで枝葉を伸ばして描くと、「まず何をすべきか」や「どの順番が効率的か」がはっきりわかるのです。ただ、最近は忙しさにかまけて、しばらくマインドマップを描く時間をとらなくなってしまいました。改めて今回の研究を知ると、日常の業務や学習を整理するうえでも、やはり便利なツールだったと感じます。

 

本研究においては、マインドマップを導入した研修医たちが臨床思考を深め、疾患の全体像を把握しやすくなり、さらに知識の記憶にも好影響があったと報告されました。

このように情報の可視化と論理的なつながりを意識する学習手法は、複雑な領域ほど威力を発揮する可能性があります。腎臓内科のように病態生理が多岐にわたる場合こそ、点在する事柄を地図のように並べる作業が重要です。

 

もっとも、身体診察など実技が中心となる分野では、マインドマップだけで十分な技能向上を図るのは難しいかもしれません。

現場の観察と実習、そして指導医との密接なやりとりが不可欠です。そのため、マインドマップはあくまで補助的なツールであり、従来の臨床現場での指導と組み合わせて使うことが理想的だといえます。また本研究は2か月という短期の研修を想定しているため、ほかの長期プログラムや異なる診療科で同様の効果が得られるかどうか、さらなる検証が望まれます。

 

結論として、マインドマップは研修医が短期間で複雑な医学知識を習得するうえで、有効に機能しうる手法であると示唆されます。

思考を視覚化することで、点と点の知識を線で結び、面として理解するプロセスが加速するからです。私自身もまた、この便利さを実感していただけに、再びスケジュールや目標設定に活用してみようと考えています。

 

参考文献:

Hu Y, Xiang Y, Lei M, Wu Y, Sun M. The application of mind mapping in the standardized education of inpatient physicians in nephrology. Sci Rep. 2025;15(1):2890. Published 2025 Jan 23. doi:10.1038/s41598-025-87692-3