プラスチックを食べる昆虫:ダークレッサーミールワーム

プラスチックを食べる昆虫:ダークレッサーミールワーム

 

マイクロプラスチックの問題は、現代社会における深刻な環境課題の一つとして広く認識されています。

これらの微小なプラスチックは、海洋から土壌に至るまで広く拡散し、野生生物や人間の健康にも悪影響を与えています。

特にポリスチレン(発泡スチロール)は、軽量で使いやすいものの、その耐久性から環境中での分解が非常に難しい素材です。

しかし、最近の研究で、この厄介なポリスチレンを分解できる優れた能力を持つ小さな昆虫が発見されました。

それが「ダークレッサーミールワーム(ゴミムシダマシという甲虫の幼虫期を指し、主に飼育用の生き餌として流通しています)」です。

 

ケニアで新たに発見されたダークレッサーミールワームが、ポリスチレンを摂取し、分解できることが確認されました。

この研究は、ミールワームの腸内に存在する微生物がプラスチック分解に重要な役割を果たしていることを示しています。

つまり、この小さな昆虫とその腸内微生物の協働が、環境問題の解決に向けた大きな可能性を持っているということです。

 

この研究の具体的な方法について説明します。

ダークレッサーミールワームは、ケニアの国際昆虫生理学・生態学センターで飼育され、小麦ぬかや野菜・果物の廃棄物を栄養源として与えられました。

その後、幼虫は以下の3種類の餌で30日間育てられました:

– ポリスチレンのみ

– 小麦ぬかとポリスチレンの混合

– 小麦ぬかのみ

 

この期間中、幼虫の摂食量と生存率が詳細に記録されました。

特にポリスチレンのみの餌でも、ミールワームが生き残り、実際にポリスチレンを分解していたのです。

 

以下の図に、ミールワームがポリスチレンを摂取する様子を示しています。

– 図A: ポリスチレンブロック(摂食前)

– 図B: 30日間の摂食後のポリスチレンブロック。穴やトンネルが形成されているのが確認できます。

– 図C: 小麦ぬかとポリスチレンの混合餌を摂取するミールワーム。

– 図D: ポリスチレンのみの餌を摂取するミールワーム。

 

実験の結果は以下の通りです:

– ミールワームはポリスチレンを摂取し、摂食量は日々増加していった。

– ポリスチレンのみの餌で育てられた幼虫の生存率は時間とともに低下したものの、全体の生存率は80%以上を維持した。

– 小麦ぬかとポリスチレンを混ぜた餌では、ポリスチレンの摂取量が増加し、生存率もより高かった。

– ミールワームの腸内にはProteobacteriaやFirmicutesが多く存在し、特にKluyvera、Lactococcus、Klebsiellaなどの細菌がポリスチレン摂取時に増加していた。

 

これらの結果から、ミールワームの腸内に存在する特定の微生物がポリスチレンの分解に関与していることがわかります。

これらの微生物は、プラスチックの化学構造を分解し、ミールワームがそれを栄養として利用できる形に変えていると考えられています。

 

また、この研究はマイクロプラスチック問題にも重要な示唆を与えています。

ポリスチレンはマイクロプラスチックの主要な原因の一つであり、その分解が可能であれば、環境中のマイクロプラスチックの蓄積を大幅に減少させることが期待できます。

 

このように、ダークレッサーミールワームは、プラスチックごみの新たな処理方法として極めて興味深い可能性を持っています。

彼らの持つ分解能力を利用することで、従来の高コストで環境負荷の大きいリサイクル方法に代わる持続可能な解決策が見えてくるかもしれません。

また、ミールワームが生成する高栄養価なタンパク質は、家畜飼料などとして新たな資源としても利用できる可能性があります。

 

将来的な展望として、プラスチック分解に関与する微生物のさらなる特定や、これらの微生物が使用する酵素の詳細な解析が求められます。

この小さな昆虫の持つ注目すべき能力を解明し、応用することで、私たちが直面しているプラスチック問題に対する解決策をより具体的に示すことができるかも知れません。

 

参考文献:

Ndotono, E.W., Tanga, C.M., Kelemu, S. et al. Mitogenomic profiling and gut microbial analysis of the newly identified polystyrene-consuming lesser mealworm in Kenya. Sci Rep 14, 21370 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-72201-9