年を重ねていくに従って、認知機能に対する不安は、多くの人にとって当然のことと言えます。
今回、トロントの研究チームが、特にリスクが高い人々に対して、この低下を遅らせる新しい方法を開発しました。
その方法とは、「認知リハビリテーション(CR)」と「経頭蓋直流電流刺激(tDCS)」を組み合わせるというものです。
電流刺激というとなんだか物騒ですが、痛みはほとんどなく、安全性も高いとされています。
この経頭蓋直流電流刺激(tDCS)は、脳に微弱な電流を流して、脳の活動を活性化させる非侵襲的な治療法です。
専用の装置を使って頭皮に電極を装着し、脳の特定の部位に電気刺激を与えることで、神経の働きを助けます。
この研究には、寛解した大うつ病(rMDD)や軽度認知障害(MCI)を有する375人の参加者(平均年齢72歳、62%が女性)が参加しました。
彼らはCRとtDCSを組み合わせたグループと、プラセボグループに分かれ、8週間の集中セッションを週5回行い、その後は6か月ごとに5日間の「ブースター」セッションを受けました。
CRはコンピュータを使った段階的な難易度の知的トレーニングです。
tDCSはそのCRセッション中に30分間実施され、脳の前頭前野を刺激して認知機能の向上を図ります。
結果は非常に注目すべきものでした。
介入グループはプラセボグループに比べ、認知機能の低下が約4年分遅れました(60か月時点のzスコア差は0.21、P = .006)。
特に実行機能と言語記憶の分野での改善が見られ、「85歳で認知症が始まるとして、それを89歳まで遅らせられれば、86歳で亡くなるならば実質的に認知症を経験しないで済む」と研究者は説明しています。
この治療法は特に寛解した大うつ病を持つ人々に有効でした。
一方で、MCIのみを持つ人々やアルツハイマー病の遺伝的リスクを抱える人々には効果が限定的でした。
研究者は、rMDDとMCIを持つ人々の間で、認知症への進行経路が異なると指摘しています。
この研究の結果は非常に有望ですが、今後は異なる背景を持つ高齢者を含めたさらなる研究が必要と言えます。
また、最適な治療開始年齢や治療量を明らかにすることも求められています。
薬物療法だけでなく、新たな選択肢が増えることは、多くの人にとって有益なものとなりそうですね。
参考文献:
Mulsant BH, Blumberger DM, Ismail Z, et al. Combined cognitive remediation and transcranial direct current stimulation for cognitive decline in older adults with major depressive disorder and mild cognitive impairment: A randomized controlled trial. JAMA Psychiatry. Published online October 30, 2024. doi:10.1001/jamapsychiatry.2024.4563.
