激しい運動は必ずしも体に悪いわけではない

激しい運動は必ずしも体に悪いわけではない

 

1954年、ロジャー・バニスターが1マイル(1.6Km)を4分未満で走り抜けた瞬間、スポーツ界は大きな衝撃を受けました。

それまで「人間には不可能」と思われていたこの挑戦は、バニスターによって破られ、彼の名前はスポーツの歴史に刻まれました。

そして、それ以降、1750人以上のランナーが「1マイル4分(4-minute mile)」の壁を打ち破っています。

彼らのトレーニングの過酷さは、私たちの想像以上でしょう。

しかし、このように極限まで体を追い込むことは、寿命を縮めるのではないかというイメージは、常につきまとっていました。

 

そこで、最初に4-minute mileを達成した200人のランナーに注目し、その後の寿命を調査した研究があります。

それは、興味深い結果となりました。

これらのランナーたちは、一般の同世代の男性よりも平均で4.7年も長生きしていたのです。

 

【具体的なデータ】

– 200人のランナーのうち、60人(30%)は死亡、残りの140人は健在

– 死亡したランナーの平均死亡年齢は73.6歳。これは、一般の人々と比べて大幅に長い数字です。

– 特に、1950年代に4-minute mileを達成したランナーは、一般人よりも9.2年長く生きていました。これは、4-minute mileの挑戦が単なる肉体的限界を超えた健康面でのメリットももたらしている可能性を示しています。

 

さらに、この長寿効果はオリンピック選手であるかどうかに関係なく、誰にでも適用されるものでした。

実際、オリンピアンでないランナーたちの方が、わずかに長生きする傾向さえ見られました。

 

また、死亡原因に関しても、心疾患やガンといった一般的な疾患が中心であり、特定の疾患にかかりやすいという傾向は確認されませんでした。

 

これまで、極端な運動、特に長距離マラソンやトライアスロンのような持久力競技が、心臓に悪影響を与え寿命を縮める可能性があるという説がありました。

しかし、この研究はそうした懸念を払拭するものとなります。

「極限まで鍛えることが必ずしも命を縮めるわけではない」という新たな視点を提供しています。

むしろ、適度な運動習慣が健康に良いとされるように、アスリートたちのように極端な運動でも、寿命にプラスの影響を与える可能性すらあります。 

 

参考文献:

Foulkes S, Hewitt D, Skow R, et al, Outrunning the grim reaper: longevity of the first 200 sub-4 min mile male runners, British Journal of Sports Medicine 2024;58:717-721.