生物が過酷な環境に直面すると、ほとんどの生物が一時的に活動を停止し、休眠状態に入ります。
具体例としては、水槽を覆う藍藻(らんそう=シアノバクテリア)は、乾燥状態や高温などの厳しい環境下で休眠状態に入り、条件が改善すると活動を再開します。
医学的に身近な例としては、結核菌などもそうですね。
結核菌は、酸素欠乏や栄養不足などのストレス環境下で休眠状態に入り、自らの代謝を低下させてしまいます。
この休眠状態では、結核菌は抗生物質に対しても耐性を持ち、治療が困難になるので厄介なのです。
いずれにせよ、生物にとって休眠とは、エネルギーを節約し、生存の可能性を高めるための自然の防衛機構となります。
今年の初めに、この休眠のメカニズムに重要な役割を果たす「バロン」というタンパク質が発見されました。
バロンは、北極の永久凍土中のPsychrobacter urativoransという低温適応細菌から発見されました。
バロンはリボソームのAサイトという特定の部位に結合し、休眠状態に導きます。
リボソームはタンパク質を合成する工場のようなもので、これが停止すると細胞全体の活動が止まります。
つまり、細胞の活動に急ブレーキをかけることができるのです。
研究によれば、全ての細菌の20%以上がバロンを持っており、この休眠メカニズムを利用しているようです。
それで、生物は極端な温度変化や栄養不足、その他のストレス要因から敏速に身を守ることができるわけです。
バロンの発見は、気候変動に対する生物の耐性研究に新たな道を開く可能性があります。
例えば、農作物の遺伝子にバロンを組み込むことで、干ばつや寒波などの環境ストレスに強い植物を作り出すことができるかもしれません。
また、医療分野でも、病原菌が休眠状態に入るメカニズムを解明することで、感染症の新しい治療法が開発される可能性があります。
このように、バロンというタンパク質の研究は、生命の根本的な理解を深めるだけでなく、実際の問題解決にも大きな影響を与える可能性があります。
また、私たちの未来に向けた科学の可能性を広げていくかも知れません。
例えば、「インターステラー」や「パッセンジャー」などのSF映画ではお馴染みの、宇宙航行時の「人工冬眠」の実現への第一歩かも知れないのです。
そう考えると、ワクワクしますね。
元論文:
Helena-Bueno, K., Rybak, M.Y., Ekemezie, C.L. et al. A new family of bacterial ribosome hibernation factors. Nature 626, 1125–1132 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07041-8
