歌うことは失語症の治療になる

 

歌うことが失語症の治療に効果的だという研究が、フィンランドのヘルシンキ大学から発表されました。

失語症は脳卒中などが原因で言葉を話す能力が低下する病気です。

研究者たちは、28人の失語症患者を対象に、4ヶ月間のグループでの歌唱療法を実施し、その効果を調べました。

患者たちは「歌唱グループ」と「標準治療グループ」に分けられました。

歌唱グループでは、毎週90分のグループセッションが行われ、患者たちは歌を歌ったり、音楽に合わせてリズムを取ったりしました。

また、各自が自宅で練習するためのタブレットアプリも提供されました。

治療前と治療後に脳のMRIスキャンを行い、脳の構造変化を調べました。

その結果、歌唱グループでは、言語に関わる脳の左前頭葉や白質の結合が増加していることがわかりました。

具体的には、左側の弓状束や前頭弓状束、上縦束といった神経経路での白質の結合が強化され、命名能力、つまり物の名前を思い出して言う能力が向上していました。

この研究は、歌うことが脳の神経可塑性、つまり脳の構造や機能が変化する能力を引き出し、言語機能の回復を促進することを示しています。

特に、左側のブローカ領域と呼ばれる言語を司る部分で灰白質の体積が増加しており、この変化が言語能力の改善に寄与していることが明らかになりました。

興味深いのは、歌うことで単に楽しむだけでなく、実際に脳が再編成され、言葉を話す能力が向上するという点です。

歌は、メロディやリズム、言葉の連結を伴うため、脳にとって非常に強力な刺激となります。

また、グループでのセッションは社会的な交流を促し、精神的な支えともなります。

これが、患者たちのモチベーションを高め、治療効果をさらに高めていると考えられました。

音楽が持つ治療効果については以前から知られていましたが、この研究は具体的にどのような脳の変化が起こるのかを明確に示した点で画期的です。

失語症の治療は難しく、時間がかかることが多いですが、今回の研究は、音楽の力がどれほど大きいかを示す重要な一歩となりました。

今後もさらに多くの研究が行われ、より多くの人々がこの新しい療法の恩恵を受けられることを期待しています。

 

元論文:

Sihvonen AJ, Pitkäniemi A, Siponkoski ST, et al. Structural Neuroplasticity Effects of Singing in Chronic Aphasia. eNeuro. 2024;11(5):ENEURO.0408-23.2024. Published 2024 May 13. doi:10.1523/ENEURO.0408-23.2024