紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化しています。あわせてお楽しみください。
ふと気がつくと頭の中で同じ音楽が繰り返されている。そんな経験をしたことがある人は多いでしょう。
これは一般的に「イヤーワーム」として知られ、専門的には「無意識の音楽的イメージ(Involuntary Musical Imagery: INMI)」と呼ばれていますが、両者はまったく同じ現象を指しています。
このイヤーワーム(INMI)、実は多くの人が頻繁に経験しています。
ある調査によれば、1週間に一度以上イヤーワームを経験する人は約92%、1日に複数回経験する人も約26%にのぼります。
最近の研究によると、このイヤーワームは日常的な習慣や強迫的行動と関連している可能性が指摘されています。
英国エクセター大学の研究者ドッズ氏は、883人を対象にオンライン調査を行い、イヤーワームとさまざまな習慣や強迫的行動との関連性を検証しました。
この調査では、イヤーワームが頻繁に起こる人ほど、日常生活において習慣的で決まった行動を好む傾向があることが分かりました。
さらに、イヤーワームは特に「足を頻繁に動かす」、「頭の中で何かを数える」など、単純な繰り返し動作や心の中だけで行う繰り返しの行動との強い関連が示されました。
研究によれば、イヤーワームを頻繁に経験する人の約80%が、こうした繰り返し行動を日常的に行っていると回答しています。
また興味深いことに、イヤーワームと強迫性障害(OCD)の間にも共通点があります。
強迫性障害は、望まない考えが繰り返し浮かぶ「強迫観念」と、それを解消するための「強迫行動」を特徴としています。
イヤーワームもまた、意識的な制御が難しく、自動的に繰り返されるという点で、これらの強迫的行動と類似しています。
この研究結果は、「イヤーワームが単なる音楽的な現象にとどまらず、人間が持つ『習慣』という脳の仕組みと深く関係している可能性」を示しています。
習慣的な行動は、人があまり意識せずに繰り返し行うもので、変更や制御が難しいことが特徴です。
イヤーワームも同じように、無意識のうちに繰り返され、本人の制御が難しい特徴を持っています。
一方で、習慣的行動は通常、本人にとって快適または中立的であるのに対し、強迫行動は不安や苦痛を緩和するために行われることが多く、その行動自体が不快感を伴うことが一般的です。
イヤーワームの場合、不快であることもあれば快適であることもあり、その点で両者の中間的な位置にあるともいえます。
また、イヤーワームの頻度は不安の強さとも関連していました。
不安が強い人ほどイヤーワームの発生頻度が高い傾向にあり、このことはイヤーワームがストレスや不安といった感情状態と深く関わっていることを示しています。
イヤーワームが繰り返し起こることで悩んでいる人にとって、この研究は少し安心できる材料となるかもしれません。
なぜなら、イヤーワームは単なる偶然や気まぐれではなく、私たちの脳が持つ普遍的な「習慣的な行動」の仕組みの一部だと分かったからです。
自分の頭の中で繰り返されるメロディが気になったときは、それが単なる『脳の癖』だと知って、少し気楽に構えるのもよいかもしれませんね。
参考文献:
Dodds CM. Earworms as ‘mental habits’: Involuntary musical imagery is associated with a wide range of habitual behaviors. Conscious Cogn. 2025;130:103834. doi:10.1016/j.concog.2025.103834
