紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化しています。あわせてお楽しみください。
懐かしい音楽を耳にすると、胸がきゅっとなったり、昔の情景が鮮やかに浮かび上がったりすることがあります。
音楽が引き起こすノスタルジー、あの何ともいえない感情の正体とは何でしょう。
そして私たちの脳の中では、どのようなことが起きているのでしょうか。
アメリカの研究チームが、この音楽とノスタルジーの関係を最新の脳科学技術で探りました。
研究には18歳から35歳の若い人々と60歳以上の高齢者、合わせて57名が参加しました。
彼らには、自分自身で選んだ「懐かしい曲」、単に「よく知っているが懐かしさを感じない曲」、そして「全く知らない曲」の3種類を聴いてもらい、その際の脳の活動をfMRIという装置で調べました。
興味深いことに、「よく知っているが懐かしさを感じない曲」と「全く知らない曲」は、懐かしい曲と曲調やテンポが似ているものを、コンピューターで厳密に選び出していました。
その結果、「懐かしい曲」を聴いているときには、他の曲を聴いているときよりも、特定の脳領域がより活発に活動していることが明らかになりました。
特に注目すべきは、自分自身や過去の記憶を考える際に働くデフォルト・モード・ネットワーク、快感や報酬を感じる脳の領域(腹側被蓋野)、そして記憶を司る海馬周辺(内側側頭葉)でした。
これらの領域の活発な活動は、懐かしい曲が単に記憶を呼び起こすだけでなく、その記憶が自分自身の感情や人生に深く結びついていることを示しています。
また、自己認識に関わる後帯状皮質と感情処理を担う島皮質の連携が強まり、音楽が記憶と感情を脳内で結びつける役割を果たしていることが分かりました。
さらに興味深いことに、高齢者の方がこれらの脳領域の活動がより強く現れる傾向にありました。
若い世代では、性格や認知能力によって脳活動が影響されましたが、高齢者では曲を聴いた時の感情の強さが直接的に脳活動と関連していました。
年齢を重ねると、音楽から得られる感情そのものが脳をより強く刺激する要因となるようです。
この研究は、音楽が私たちに与える影響が、特に高齢者の感情や記憶に良い影響を与える可能性を示しています。
参加者が「懐かしい」と感じる強さは、9点満点で平均8.4点以上という非常に高いものでした。
音楽が持つ懐かしさの力は、私たちが思っている以上に深く、そして心温まるもののようです。
思い出の曲が流れる時、脳の中では記憶と感情が結びつき、私たちの人生を豊かにする小さなドラマが静かに紡がれているのかもしれません。
参考文献:
Hennessy S, Janata P, Ginsberg T, Kaplan J, Habibi A. Music-Evoked Nostalgia Activates Default Mode and Reward Networks Across the Lifespan. Hum Brain Mapp. 2025;46(4):e70181. doi:10.1002/hbm.70181
