紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化しています。あわせてお楽しみください。
パーキンソン病は、手足の震えや体のこわばりが特徴的で、多くの人がよく耳にする神経疾患です。
現状ではこの病気を完全に予防する方法はありませんが、症状が出始めるのを遅らせる可能性のある薬が、私たちが普段飲んでいる一般的な薬の中に存在するかもしれない、という研究があります。
今回紹介する研究は、パーキンソン病の患者1,201人を対象に、普段服用している薬と発症年齢との関連を調べたものです。
患者さんの平均発症年齢はおよそ64歳(正確には63.7±10.9歳)でしたが、使っていた薬によって大きな違いが出ていました。
具体的には、高血圧の治療でよく使われる「β遮断薬(アドレナリン遮断薬)」を服用していた人たちは、服用していない人に比べて、症状が出るのが平均で約10年遅く(72.3±10.1歳)なっていました。
これは統計的にも信頼できる結果でした(回帰分析 β=5.7、p<0.001)。
また、コレステロール値を下げる「スタチン系薬剤」や、痛み止めとして頻繁に使われる「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」を服用していた人も、それぞれ約71歳で症状が現れました。
スタチン(β=5.6)、NSAIDs(β=4.1)ともに、β遮断薬同様、発症を遅らせる可能性が示されています。
一方で、家族にパーキンソン病を持つ人は、平均よりも少し早い62歳前後で症状が現れ、過去10年間に喫煙経験がある人は、さらに早く59歳前後で発症していました。
喫煙については、これまでパーキンソン病の発症リスクを下げる可能性があると指摘されてきましたが、発症年齢を早める可能性もあることが明らかになっているようです。
この点は、単純ではない複雑な背景を示しています。
もちろん、この研究は過去の患者さんの記録を後ろ向きに調べたものであるため、薬を飲み始めた正確なタイミングや服用量の詳細な把握が難しいという限界もあります。
さらに、薬を飲む原因となった高血圧や高脂血症そのものが、パーキンソン病の発症時期に影響している可能性もあります。
とはいえ、今回の研究結果は日常の薬が病気の進行に与える影響という視点から非常に興味深いものです。
今後は、薬の服用期間や投与量を丁寧に調査した大規模な研究が必要になりますが、その積み重ねが、パーキンソン病の予防や発症遅延の新たな可能性につながるかもしれません。
日々飲んでいる薬が、知らない間に病気の進展予防に関わっているかもしれない ― この小さな発見が大きな未来を開くことを、期待をもって見守っていきたいと思います。
参考文献:
Malatt C, Maghzi H, Hogg E, Tan E, Khatiwala I, Tagliati M. Adrenergic blockers, statins, and non-steroidal anti-inflammatory drugs are associated with later age at onset in Parkinson’s disease. J Neurol. 2025;272(3):255. Published 2025 Mar 6. doi:10.1007/s00415-025-12989-2
