心理学の論文を読んでいると、「こんなことまで研究の対象になるんだ!」と感心することがしばしばあります。
今回紹介するのもそんな一例ですね。
バスケットの試合を見ていると、フリースローの一投目のあとに、選手同志がハンド・タッチしているのをよく見かけます。
今回の研究のテーマが、まさしくそれです。
「バスケットボールのフリースローにおいて、チームメイトからのちょっとしたタッチがシュートの成功率に影響するか」
以前から、ハグや背中をポンと叩くなどの身体的接触が、個人のストレスレベルを下げ、心を和らげる効果があることは広く知られていました。
しかし、こうした接触が、プレッシャーのかかる状況でのパフォーマンスにどう影響するかについては、これまであまり調査されていませんでした。
フリースローは、技術、集中力、精神的なプレッシャーが混ざり合った特別な状況ですし、選手はショット自体の難しさだけでなく、観客からの視線やチームの期待にも直面します。
今回の研究では、NCAA女子バスケットボールの60試合を対象に、選手同士のやり取りがはっきり観察できるものを選んで分析しました。
主に注目したのは、2本のフリースローの間にチームメイトがシューティング選手とどのように接触するかという点です。
研究チームは、フリースローを2本打つ全835ケースについて、1本目のショットが終わってから2本目にかけて、最大4人のチームメイトによる手の握りや肩への軽いタッチなどの接触がどれほどあったかを記録しました。
まず、実験デザインの妥当性を確認する予備的な段階としてpre-studyが行われました。
主な目的は、タッチの数がフリースローの2投目の成功率にどのように影響するかを予備的に調査し、仮説を検証するための基礎データを収集することです。
本調査(main-study)では、pre-studyの結果を再現しつつ、プレイヤーの技術レベル、試合の場所、得点差、残りの試合時間などの要因も考慮してデータを収集し、より精密な分析をしました。
結果が次の図表です。

この図表は、バスケットボールのフリースローにおける2投目の結果を、タッチの数と1投目の成否に応じて示したものです。
左側のグラフ (a):
– pre-studyの段階でのデータを示しており、左側が1投目のフリースローが失敗した場合、右側が1投目が成功した場合の2投目の結果です。
– 縦軸は2投目の成否(失敗:0、成功:1)、横軸はチームメイトからのタッチの数(0~4)を示しています。
– 1投目が失敗した場合(左側のグラフ)、タッチの数が増えると2投目の成功率が上昇する傾向が見られます。
右側のグラフ (b):
– main-studyのデータを示しており、グラフの配置は左側と同様です。
– pre-studyと同じく、1投目が失敗した場合に、タッチの数が多いほど2投目の成功率が向上しています。
いずれのグラフも灰色の範囲は標準誤差を示しており、平均値の信頼性を視覚的に示しています。
この結果の通り、1本目を外した後にチームメイトからタッチを受けた選手が2本目の成功率を高める可能性が高いことが分かりました。
この効果は統計的に有意であり、サポートのジェスチャーとストレス下でのパフォーマンス向上の間に明確な関連があることを示しています。
この研究は女性のバスケットボール選手だけを対象とした観察研究であるため、男性選手やプロ選手に必ずしも同じ結果が当てはまるとは限りません。
この現象の背景には、チームメイトとの身体的な触れ合いによるサポートがストレスを緩和し、精神的な支えとなる点があります。
触れることによる安心感や絆が、選手のプレッシャーを軽減し、冷静な状態でパフォーマンスに集中することを助けているのです。
後日談となるのですが、研究者によると、この「触れ合い」は、フリースローの成否を超えて、シーズンを通してチーム全体の成功にもつながる傾向がありました。
タッチが多いチームは、仲間同士の信頼関係や団結力が高まることで、シーズン全体の成績も向上する可能性があったのです。
しかし、触れるという行為には微妙なニュアンスが存在します。
単にコーチの指示で形式的にタッチをするだけでは、その効果は薄れるかもしれません。
心からの応援や支援の意味が込められた触れ合いこそが、選手にとって効果的なサポートとなるはずです。
信頼と協力の文化が根付いたチームでは、このような身体的な触れ合いがより強く効果を発揮するのでしょう。
この研究は、バスケットボールに限らず、他のスポーツや人間関係でも同様に、サポートを示す触れ合いがプレッシャー下でのパフォーマンス向上に貢献する可能性を示唆しています。
元論文:
Büttner CM, Kenntemich C, Williams KD. The power of human touch: Physical contact improves performance in basketball free throws. Psychol Sport Exerc. 2024;72:102610. doi:10.1016/j.psychsport.2024.102610
