平均の食卓から、こぼれ落ちる人がいる―肉の摂取量とAPOE ε4遺伝子型と認知症リスク

平均の食卓から、こぼれ落ちる人がいる―肉の摂取量とAPOE ε4遺伝子型と認知症リスク

 

食卓に肉が続くと、少し野菜も食べなきゃという気になります。

量の問題だけではありません。肉には、それだけで少し身構えさせる空気があります。

「赤肉は老化に悪い」という見出しを目にすると、その感覚にもっともらしい根拠を与えてきました。

だから年齢を重ねるほど、肉は脳にもよくないのではないか、という不安が生まれやすいのです。

ところがこの論文は、その不安に、別の見方を持ち込みました。

 

物事は、別の角度から読み直すと、違った顔を見せてきます。

EAT-Lancet 2.0(食と健康、環境をめぐる国際的な食事報告書)は、NHS(米国の看護師を長期に追った研究)やUK Biobank(英国の大規模住民データベース)の結果を踏まえ、赤肉は不健康な老化と結びつくと結論づけています。

けれど、同じ系統の大規模データを遺伝子型で読み直すと、APOE4を持つ人では未加工肉がむしろ有利に見える筋が残っていた。

ならば問うべきは、肉が良いか悪いかではありません。誰の体でどう働くのか、です。

 

APOE ε4は、アルツハイマー病のリスクを押し上げる遺伝子としてよく知られています。

この研究は、その不利が食事の内容で変わりうるかを確かめようとしました。

肉を多く食べることが、APOE ε4を持つ人と持たない人で、認知機能の低下や認知症のリスクにどう違いを生むのか。

そこを確かめた研究です。

 

認知症のない60歳以上2157人を、スウェーデンで最長15年追いました。

食事の頻度票で一年の食卓を拾い、記憶や言語などの検査を重ね、認知症の発症も判定しました。

APOE ε3/ε4またはε4/ε4の群と、それ以外の群とで、肉の量だけでなく、肉の中に加工肉がどれだけ混じっているかも分けて見ています。

 

APOE ε4を持つ人々のうち、肉の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて10年間の認知機能低下が有意に緩やかでした。

認知症の発症リスクはおよそ半分に下がっていました。

このグループの認知機能の軌跡は、APOE ε4を持たない人々と同水準です。

遺伝子がもたらすはずの不利が、この集団では観察されませんでした。

一方、APOE ε4を持たない人々には、肉の摂取量と認知機能の間に有意な関連はありません。

 

ただし、ここで「肉は多いほどよい」とまとめると、論文の芯を壊します。

不利だったのは、肉の中で加工肉が占める割合が高い食べ方で、認知症リスクは上がっていました。

未加工の赤肉と鶏肉のあいだには大きな差がなく、補助的な解析では、APOE ε4群で未加工肉が多いほど死亡率も低い傾向でした。

観察研究であり、食事は自己申告で、対象は主に北欧系です。

それでも、平均の助言がこぼしてしまう人がいることだけは、かなり重く残ります。

 

私たちは食べ物に、すぐ善悪の札を貼りたくなります。

控えるべきか、取るべきか。

けれど体は、その二択ほど素直ではないのかもしれません。

多数派のために作られた正解で守られる人もいれば、その正解からこぼれ落ちる人もいる。

夕食の皿は、健康情報が思っているより、ずっと個人の側にある。

老いは同じように訪れても、その入口は一つではないのかもしれません。

 

参考文献:

Norgren J, Carballo-Casla A, Grande G, et al. Meat Consumption and Cognitive Health by APOE Genotype. JAMA Netw Open. 2026;9(3):e266489. Published 2026 Mar 2. doi:10.1001/jamanetworkopen.2026.6489

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。