顔が顔になる時刻―げっ歯類の白い眼輪はなぜ昼に現れたのか

顔が顔になる時刻―げっ歯類の白い眼輪はなぜ昼に現れたのか

 

目のまわりは、本来、目立たないほうがいい場所です。

少なくとも、夜行性の祖先をもつげっ歯類(ネズミやリスの仲間)ではそうでした。

黒い斑は、眼の位置を目立ちにくくし、眼に入る反射を減らすはたらきがあると考えられてきました。

白い眼輪はその逆で、眼を際立たせ、視覚のうえでも不利になりえます。

それでもこの印はげっ歯類に広く見られ、しかも夜の状態を保った系統ではなく、昼へ移った種で何度も現れ、夜へ戻った種では消えていました。

 

動物の目立つ色や模様については、求愛か、身を隠す工夫か、という理由で説明されてきました。

けれど哺乳類の白い眼輪は、そのどちらの説明でもうまく片づきません。

捕食者の注意をそらす印と見るには材料が足りず、仲間への合図と考えても決め手に欠けます。

げっ歯類では胴体の色や縞の研究が先行し、顔の模様はあとに残されていました。

 

今回の研究は一つの狙いに絞られていました。

白い眼輪は、昼に活動するげっ歯類では、相手の顔を見つけやすくする印なのか。

まずそれを確かめようとしました。

言い換えると、同じ模様でも、それを見る側の条件が変われば、模様の意味まで変わるのかを調べたのです。

 

まず601種のげっ歯類で、白い眼輪の有無を活動時間、生息地、ほかの白斑、社会構造と比べ、系統の近さを補正しました。

ついで、白い眼輪をもつ昼行性ナイルサバンナネズミ(ナイルグラスラット)と、もたない夜行性ハツカネズミで三室試験を行いました。

動物を中央の部屋に置き、左右に示した画像のうち、どちらの前に長くいるかを見るものです。

写真の眼輪を残す条件と消す条件に加え、片側だけ消す条件、下半分だけ消す条件を置き、別種のリスの顔でも確かめました。

各試行は馴化10分と検査10分で、どちらの画像の前に長くいたかを比べました。

 

系統をさかのぼると、げっ歯類の共通祖先は夜行性で、白い眼輪を欠いていました。

そこからリス類、アルビカンチニ族、テンジクネズミ科では、昼への転換と並ぶように眼輪が現れ、モモンガ類では夜行化とともに消えます。

この関係は、生息地やほかの白斑、群れで暮らすかどうかでは説明できませんでした。

決め手になったのは行動試験です。

ナイルサバンナネズミは雌雄とも、眼輪のある顔の前により長くとどまり、その反応は別種のリスの顔にも及びました。

片側だけ消して左右のつり合いを崩すと選び方は鈍り、半分に削っても対称性が残っていれば反応は残りました。

左右がそろっている条件どうしでは選び方に差が出ず、ただ珍しい画像に引かれたわけではありませんでした。

ハツカネズミでは、眼輪があってもなくても選び方は変わりませんでした。

 

白い輪は、求愛の飾りや種の名札というより、見る側が先にもっていた「顔を見つけやすい形」への反応を利用した印なのかもしれません。

ここで鍵になるのが、感覚搾取(sensory exploitation)という考え方です。

昼に活動する系統では、左右のそろった目もとに目が向きやすい受け手が先にいて、その前では眼輪をもつ個体のほうが相手に見つけられやすく、選ばれやすい。

その積み重ねが、見られる側の模様を押していったと考えられます。

夜の系統では、その利点が育ちにくい。

つまり変わったのは毛色だけではなく、その毛色を価値あるものとして受け取る側の感覚でもありました。

ただ、実験は昼行性一種と夜行性一種に限られ、眼輪の太さや明るさがどこまで行動の違いとして表れるかまでは、まだわかっていません。

 

同じ白でも、夜にはただの縁取りで、昼には顔の一部になります。

私たちは形だけを見ているつもりでも、実際にはそれが立ち上がる時刻まで受け取っているのかもしれません。

顔は皮膚の上にあるというより、一日のどこかに置かれているように見えてきます。

 

参考文献:

Le, N.H.K., Li, SH., Chiu, CC. et al. White eye-rings coevolved with diurnal behaviors as a trait enhancing visual appeal in rodents. Commun Biol (2026). https://doi.org/10.1038/s42003-026-09916-0

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。