ひもの結び方を変えても、同じ場所が痛くなる。
かかとを固定しようとすると、つま先が圧迫される。
ゆとりを持たせるとかかとが浮く。
何足替えても、同じことが起こります。
なぜ自分の足には、ちょうどよく合う靴がないのでしょうか。
長いあいだ、この疑問への答えは「選び方の問題」と考えられてきました。
専門店で試着を重ねれば適切な一足が見つかる。
足形の違いを丁寧に見てもらえば解決できる。
多くのランナーがそう考え、専門店で相談しながら試着を繰り返してきました。
しかし、ここで一つの事実があります。
現在のランニングシューズの多くは、女性の足から設計されていません。
ランニングシューズは「ラスト」と呼ばれる足型模型をもとに作られます。
この模型は長いあいだ男性の足のデータを基準に設計され、それをサイズ調整して男女のモデルが作られてきました。
女性用モデルはその形を縮小し色を変えることで作られることも多く、業界ではこの方法を自嘲気味に「縮めてピンクにする」と表現することもあります。
女性の足形そのものを出発点にした設計プロセスは、これまで多くはありませんでした。
では、この前提は実際に走っている女性ランナーの経験とどのように関係しているのでしょうか。
研究者たちは、女性ランナーがランニングシューズに何を求めているのかを調べました。
カナダのバンクーバーで21人の女性ランナーが参加し、オンラインのグループ討論で靴選びの経験を語りました。
参加者の年齢は20歳から70歳までで、趣味として走る人と競技志向の人が含まれていました。
研究者はその語りを分析し、靴選びの共通点を整理しました。
まず浮かび上がったのは、靴を選ぶときに最も重視されているのが履いた瞬間の感覚だという点です。
多くのランナーが、足を入れたときに自然に収まるかどうかを第一条件として挙げました。
つま先には余裕がありながら、かかとはしっかり固定される形が望まれていました。
十分なクッションも重要とされます。
競技志向のランナーはカーボンプレートなどの性能向上技術にも関心を示していましたが、それでも快適さが損なわれる靴は選ばれていませんでした。
もう一つ目立ったのは、靴が怪我の経験と強く結びついて語られていた点です。
足の痛みやストレス骨折を経験したあとに靴を変えたという話が多く聞かれました。
逆に、適切な靴を履くことで長く走り続けられていると感じている人もいました。
そのため、多くのランナーが専門店のスタッフや経験豊富な販売者の助言を頼りにしていました。
さらに、靴に求める条件は人生の段階によって変わっていました。
走り始めたばかりの頃は見た目やブランドを重視する人もいますが、経験を重ねるにつれて快適さが中心になります。
出産を経験したランナーの中には、足の幅が広がりサイズが変わったと感じる人もいました。
年齢を重ねると、以前は地面の感覚を重視していた人でも、より厚いクッションを好むようになる傾向が見られました。
身体の変化とともに、靴の役割も変わっていくのです。
こうした語りが示しているのは、女性ランナーが特別な靴を求めているという単純な話ではありません。
むしろ、ランニングシューズがどの足を基準に設計されてきたのかという前提です。
多くの参加者は、自分に合う靴を見つけるまで試行錯誤を続けていました。
既存のモデルの中から、痛みが出にくい組み合わせを探す作業が続いていたのです。
ランニングシューズは、地面と身体のあいだに置かれる小さな道具です。
しかし、その形を決めているのは素材や技術だけではありません。
どの足を基準にするのかという前提も、そこに含まれています。
そして私たちは、その形に合わせて走り方を覚えていきます。
もしそうだとすれば、靴が足に合わせて作られているのではなく、足のほうが、靴に合わせてきたのかもしれません。
参考文献:
Napier C, Dhillon G, Wilhelm A, Ezzat AM. “If a shoe had been designed from a woman’s foot, would I be running without getting the injuries?”: running footwear needs and preferences of recreational and competitive women runners across the lifespan. BMJ Open Sport & Exercise Medicine. 2025;11:e002597. https://doi.org/10.1136/bmjsem-2025-002597

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
