紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化しています。あわせてお楽しみください。
ワクチン接種を受けるとき、「どちらの腕にしますか?」とよく訊かれますね。
「前回は左腕だったから今回は右にしよう」とか、「右利きだから左腕で」とか、何となく理由をつけて決めることが多いかもしれません。
実はこのささいな選択が、私たちの体の免疫反応に予想以上の影響を及ぼしている可能性があるのです。
私たちの免疫系は、一度感染症の原因となる病原体に出会うと、「記憶B細胞」という特殊な細胞がその特徴を覚えてくれます。
再び同じ病原体が侵入した際に、素早く防御反応を開始できる仕組みです。
しかし、この免疫記憶がどの程度うまく機能するかは、実はワクチンを打つ「場所」も大きく関係しています。
最近の研究では、マウスを用いて興味深い実験が行われました。
初回接種と同じ側のリンパ節に再び抗原(ワクチン成分)を接種した場合と、反対側のリンパ節に接種した場合を比較したところ、同じ側で接種を受けたマウスの方が記憶B細胞の再活性化が早く、強力な免疫反応を示しました。
その秘密は、リンパ節内に存在する特定のマクロファージ(CD169+ SSMs)という免疫細胞にありました。
このマクロファージは、病原体を取り込んで免疫反応を促進する役割を持ち、記憶B細胞を効率よく活性化させていたのです。
人を対象としたCOVID-19ワクチン(BNT162b2)のデータ分析でも同様の傾向が観察されました。
初回接種と同じ腕に再度接種すると、短期間ではありますが、中和抗体の産生がより高まることが確認されました。
もちろん、この差は時間の経過とともに小さくなりますが、免疫反応の初期段階において影響を与えることは確かなようです。
今後のワクチン接種において、「左右どちらを選ぶか」は、免疫効果を向上させるための重要なポイントになるかもしれません。
特に感染拡大期には、初動の免疫反応が非常に重要になります。
次回ワクチンを受けるときは、どちらの腕に打つか、少し意識してみるのもよいでしょうね。
参考文献:
Dhenni R, Hoppé AC, Reynaldi A, et al. Macrophages direct location-dependent recall of B cell memory to vaccination. Cell. Published online April 28, 2025. doi:10.1016/j.cell.2025.04.005
