人はなぜ陰謀論を信じるのか?

 

人はなぜ陰謀論を信じるのか?

陰謀論と言えば、最近ではもっぱらSNSを通じて拡散されていくという印象ですが、私の中では、陰謀論の総本山といえば「月刊『ムー』」が真っ先に頭に浮かびます。

5代目編集長・三上丈晴氏の著書『オカルト編集王 月刊「ムー」編集長のあやしい仕事術』(学研プラス)の中で、40年以上にわたって陰謀論を扱ってきた経験から、三上氏は、陰謀論は決して新しいものではなく、古代から人々の間に存在してきたものであると指摘しています。

そして、現代の陰謀論が広まるのは、人々が「ムー」のようなオカルト雑誌から陰謀論を学ぶ機会が少なくなったことが一因であると分析しています。

的を射ているなと思ったのは、陰謀論を信じてしまう人の心理についての、三上氏の考察です。

* 現実世界が複雑で理解しにくいため、単純な陰謀論にすがってしまう

* 権威や既存の価値観に疑問を持つため、異端的な考えに惹かれてしまう

三上氏は、陰謀論を信じてしまうことが必ずしも悪いことではないと考えています。

しかし、陰謀論を鵜呑みにせず、批判的に検証することが大切であると強調しています。

 

今回、紹介する論文は、「陰謀論的思考:動機と人格特性のメタ分析的検討」と題され、陰謀論的思考に関わる動機と人格特性の相関に焦点を当てているものです。

元論文:

Bowes SM, Costello TH, Tasimi A. The conspiratorial mind: A meta-analytic review of motivational and personological correlates. Psychol Bull. 2023 Jun 26. doi: 10.1037/bul0000392. Epub ahead of print. PMID: 37358543.

170の研究を包括し、多様な変数と15万人以上の参加者のデータを分析しました。

研究によれば、この陰謀論的思考は私たちの心の中に潜む奥深い動機や特性と関連しているようです。

まず、陰謀論を信じる人々は、しばしば不確実性や脅威に対する強い感受性を持っています。

これは、安定性や秩序の欠如を感じた時、不確かな環境に対処しようとする心の動きなのかも知れません。

研究は、彼らが特殊な出来事に対する通常の説明を拒否し、代わりにより複雑で隠された力が働いていると感じる傾向があることを示しています。

また、陰謀論者はしばしば自己中心的で、他者に対して敵対的な態度を取ります。

彼らは自分たちを「真実を知る選ばれた少数派」と見なし、一般大衆を欺瞞に満ちた世界で迷っていると見なす傾向があります。

このような優越感は、彼らの信念を強化し、同時に社会的な孤立を招いていきます。

しかし、陰謀論的思考は単一の心理的特性に還元されるわけではありません。

実際、陰謀論の種類によってその背景にある心理は異なる可能性があります。

これは、陰謀論が単なる無知や愚かさの産物ではなく、複雑な心理的プロセスの結果であることを示しています。

最終的に、陰謀論を理解することは、単にその信念の内容を分析すること以上の意味を持ちます。

それは、私たち自身の心理的脆弱性や社会的相互作用に光を当てることでもあるようです。

陰謀論に傾倒する心理を理解することで、私たちはより包括的なコミュニケーションと理解の道を開くことができるかも知れません。

 

 

ウェアラブルデジタルヘルステクノロジーについて

 

1月25日付のアメリカの医学専門誌「New England Journal of Medicine」に、循環器領域におけるウェアラブルデジタルヘルステクノロジーについてのレビュー記事が載っていました。

元論文:

Spatz ES, Ginsburg GS, Rumsfeld JS, Turakhia MP. Wearable Digital Health Technologies for Monitoring in Cardiovascular Medicine. N Engl J Med. 2024 Jan 25;390(4):346-356. doi: 10.1056/NEJMra2301903. PMID: 38265646.

 

ウェアラブルデジタルヘルステクノロジーとは、スマートウォッチや指輪などのように身に着けてモニタリングするものです。

現代医療における重要な進歩の一つで、この技術は、多くの患者や医療従事者に利益をもたらしています。

例えば、こんな利点があります。

1. リアルタイムモニタリング:持続的な健康状態のモニタリングを可能にし、異常があれば速やかに警告します。例えば、心拍数や血糖値の変化を検知し、必要に応じて医療介入を行うことができます。

2. アクセスと公平性の向上:遠隔地や資源が限られた地域の人々にも高品質な医療ケアを提供することが可能です。地理的な格差を小さくし、多くの人々が適切なケアにアクセスできるようになります。

3. 患者の自己管理能力の強化:患者自身が自分の健康状態をモニタリングし、より積極的に健康管理を行うことができます。

やはり、欠点を知っていなければなりません。

1. プライバシーとセキュリティの問題:個人の健康データが外部に漏れるリスクがあります。これらのデータの取り扱いには適切なセキュリティ対策が必要です。

2. データの解釈と正確性: データの解釈には専門知識が必要であり、誤解釈のリスクがあります。また、デバイスの精度や信頼性にも依存します。

3. コストとアクセシビリティ: 高品質のデバイスはコストがかかるため、すべての人々がこれらの技術を利用できるわけではありません。

さらに加えて、日常診療で私が思うのは、主に心理面においての欠点です。

1. 神経質との関連: ウェアラブルデバイスを使用する人が自分自身の健康状態に集中しすぎて、結果として神経質に不安を感じるようなことが起こっています。特に、心拍数や睡眠パターンなどの日々のバイタルデータを常にモニタリングして、些細な変動にも過敏に反応します。

2. データの解釈に関する問題:実は、ウェアラブルデバイスから提供されるデータの解釈は思っているよりも困難です。そのため、誤った解釈が健康不安を引き起こす可能性があります。たとえば、正常範囲内の生理的変化を病気の兆候だと誤解したりします。

3. 依存と心理的ストレス: いくつかの研究は、ウェアラブルテクノロジーへの依存が、不安やストレスの原因となりうることを示しています。この依存は、健康に対する過剰な懸念や、テクノロジー無しでは自身の健康状態を管理できないという感覚を生むことがあります。

これらのことを考慮すると、ウェアラブルデジタルヘルステクノロジーは多くの利点をもたらす一方で、その使用は適切なガイダンスと教育が伴う必要があると言えます。

特に、データの正しい解釈や、技術に過度に依存しない健康管理の重要性を理解することが、このテクノロジーの健康的な利用において重要です。

ですから、優しさのつもりで親にプレゼントしたスマートウォッチが、かえって心理面の健康を害することがあることを、頭に入れておいてください。

のんびりと過ごしていた方がいいことも、たくさんあります。

 

 

帯状疱疹ワクチンの効果

 

帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化によって生じます。

このウイルスは、水痘(水ぼうそう)に感染すると体内に潜伏し、免疫力の低下とともに再び活性化してくるのです。

幼いころにかかった水ぼうそうが、成人になって表に出てくるわけです。

帯状疱疹の主な症状は、皮膚に沿った痛みと皮疹の発生です。

特に50歳以上の高齢者や免疫抑制状態の人々に多く見られます。

ダイナメッドのデータによると、帯状疱疹の発症は年齢とともに増加し、60歳以上では1000人年あたり10件、80歳以上では1000人年あたり20件に上ると報告されています。

また、帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹患者の約10〜18%に発生し、特に高齢者に多い合併症です。

予防策として、ワクチン接種が推奨されています。ワクチンは、帯状疱疹の発症リスクを約51%減少させ、帯状疱疹後神経痛のリスクを約67%減少させることが示されています。

特に、50歳以上の人々に対してワクチン接種が推奨されています。

帯状疱疹ワクチン(RZV)は、50歳以上の人々に対する強力な防御手段として登場しました。

このワクチンにどれほどの効果があるのかというデータが出されています。

研究者たちは、RZVの1回目の接種で64%、2回目の接種で76%の効果があることを認めました。

特に注目すべきポイントは、2回接種後の効果が時間が経過してもほとんど減少しない点です。

初年度には79%の効果があり、その後も75%から73%と高い効果を維持しています。

一方で、1回接種の効果は時間とともに減少し、3年以上経過後には52%になりました。

この研究から、RZVが高い有効性を持つことが明らかになりました。

特に2回接種の重要性が強調されています。

帯状疱疹から身を守るためには、ワクチン接種を完了することが鍵となるでしょう。

ただし、問題もあります。

帯状疱疹のワクチン接種は自費となるため、その費用がネックとなります。

 

元論文:

Zerbo O, Bartlett J, Fireman B, Lewis N, Goddard K, Dooling K, Duffy J, Glanz J, Naleway A, Donahue JG, Klein NP. Effectiveness of Recombinant Zoster Vaccine Against Herpes Zoster in a Real-World Setting. Ann Intern Med. 2024 Jan 9. doi: 10.7326/M23-2023. Epub ahead of print. PMID: 38190712.

 

 

「身体活動ガイドライン」

 

世の中には、様々な「ガイドライン」で溢れています。

そして、多くの人々がそれを重要であると感じています。

例えば、最近ではCOVID-19パンデミックのような危機的状況で、これらのガイドラインが人々の健康を保護し、安全を確保するための重要な手段となりました。

ガイドラインは医療専門家によって作成され、科学的根拠に基づいているため、信頼性が高いと考えられています。

また、健康維持や病気の予防に関する明確な指針を提供し、一般の人々にとって理解しやすい形で情報が提供されることも、評価されています。

一方で、これらのガイドラインに対する批判的な意見もあります。

例えば、ガイドラインが頻繁に更新されるため、一般の人々が最新の情報に追いつくことが難しいという問題があります。

常にアップデートしていないと、知らないうちに検査の目標値が変わっていたり、治療薬の選択の優先度が変わっていたりというのは、よく経験することです。

また、ガイドラインがあまりにも専門的で、日常生活に適用するのが難しいと感じる人もいます。

さらに、異なる国や地域で異なるガイドラインが存在することが、混乱を招くこともあります。

加えて、ガイドラインはしばしば平均的な健康状態に基づいて作成されているため、個々の健康状態やニーズに完全には対応していないという指摘もあります。

今回とりあげる「身体活動ガイドライン」についても、これらの問題を念頭に置きながら、吟味しなければなりません。

この「身体活動ガイドライン」によると、成人に推奨される週間運動量は、中強度の有酸素運動で150から300分、または高強度の場合は75から150分とされています。

この「中強度」と「高強度」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。

中強度の運動とは、例えば速歩きや軽いジョギングなど、心拍数と呼吸が上がる活動を指します。

一方、高強度の運動とは、もっと体に負荷をかけるもの。階段の上り下りや速いサイクリングがそれに当たります。

これらの運動をどのように日常に取り入れるかというのが、常に問題になりますね。

やはり、一番身近で簡単なのは「歩く」ことでしょう。

朝の通勤時に5分間の「歩き」を取り入れるだけで、週の目標達成に大きく前進します。

更に、自動車を使わずに歩いて買い物に行ったり、庭仕事をしたりすることも、中強度の活動として計算されます。

さて、高強度の運動を取り入れるにはどうすれば良いでしょう。

ヒントは「階段を利用すること」です。

高強度の運動というのは、具体的には、エレベーターを使わず階段を使う、自転車での移動を速めにする、ダンスで思い切り体を動かすなどです。

これらの活動は、中強度のものよりも時間を半分に短縮して同じ効果が得られます。

最後に、週に2日以上の筋力トレーニングも重要です。

体の主要な筋肉群を鍛えることが、健康維持に効果的です。

運動は、小さな一歩から始め、徐々に強度を上げていくことです。

週に150~300分(1日に約20~40分相当)の「歩き」を取り入れてみませんか?

 

元論文:

Piercy KL, Troiano RP, Ballard RM, Carlson SA, Fulton JE, Galuska DA, George SM, Olson RD. The Physical Activity Guidelines for Americans. JAMA. 2018 Nov 20;320(19):2020-2028. doi: 10.1001/jama.2018.14854. PMID: 30418471; PMCID: PMC9582631.

 

 

認知症リスクの指標としての血圧変動性(BPV)と心拍数変動性(HRV)

 

心臓と脳の関係は、とても重要です。

心臓の働きが脳の健康にどのように影響を与えるかを明らかにしようとした研究があります。

認知症リスクの指標として血圧変動性(BPV)と心拍数変動性(HRV)についての研究です。

血圧変動性 (BPV) と心拍数変動性 (HRV) は、どちらも心臓と血管の健康を表す指標ですが、見ているポイントが少し違います。

血圧変動性 (BPV)は、血圧がどれだけ上下に動くかを表します。

血圧は常に変動していますが、健康な人は比較的安定していて、大きな上下動はありません。

逆に、血圧が大きく上がったり下がったりする人は、BPVが高いと言えます。

BPVが高いと、動脈硬化や心臓・血管の負担が大きくなり、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高くなる可能性があります。

心拍数変動性 (HRV)は、心拍の間隔がどれだけ変動するかを表します。

心臓は自律神経の働きで心拍を調節していますが、健康な人は自律神経のバランスが取れていて、心拍の間隔も変動しています。

逆に、自律神経が乱れている人は、心拍が一定になりすぎて変動が少なくなったり、バラバラになったりします。

HRVが低いと、自律神経の乱れを反映し、こちらも動脈硬化や心臓・血管の負担が大きくなり、リスクが高くなる可能性があります。

簡単に言うと、BPVは血管の安定性、HRVは自律神経の働きを反映しています。

 

さて、認知症リスクの指標として、まず、BPVの重要性についてです。

従来、認知症リスクの予測にはHRVが用いられていました。

最近の研究ではBPVの方がより強い予測指標であることが示唆されています。

研究方法として、平均年齢54.9歳の44,730人の参加者を対象に、平均15.4回の血圧測定を行いました。

その結果、BPVとHRVを同時にモデルに含めた分析で、BPVがADRD(認知症関連疾患)との関連が強いことが明らかになりました。

特に注目すべきは、収縮期のBPVが認知症発症と関連していた点です。

一方、HRV単独では認知症リスクとの関連は確認されませんでした。

これは、BPVが心血管系だけでなく、自律神経系の健康状態を示す可能性があることを示唆しています。

この研究の意義と将来の展望です。

認知症は急速に増加している問題ですが、この研究は臨床現場での認知症リスクをスクリーニングをすることにおいて、BPV単独の使用が有望であることを示しています。

これは、性別や人種を問わず一貫した結果で、より広範な患者層へのスクリーニングが可能になるかもしれません。

 

元論文:

Ebinger JE, Driver MP, Huang TY, Magraner J, Botting PG, Wang M, Chen PS, Bello NA, Ouyang D, Theurer J, Cheng S, Tan ZS. Blood pressure variability supersedes heart rate variability as a real-world measure of dementia risk. Sci Rep. 2024 Jan 22;14(1):1838. doi: 10.1038/s41598-024-52406-8. PMID: 38246978.

 

 

モチベーションの不思議

 

ある目標に向かって一歩を踏み出したとします。

しかし、期限が近づくにつれ、なぜか気が重くなって「そこ」から遠ざかってしまう。

なぜ「やる気」とか「モチベーション」はこんなにも簡単に揺らいでしまうのでしょうか。

心理学者は、「モチベーション」の定義を、特定の行動を始め、維持するための欲求や推進力としています。

つまり、何かをするためのエネルギーの源です。

このエネルギーの源を理解することは、モチベーションを維持する方法を知る上で重要なカギになります。

モチベーションは大きく二つに分けられます。

「内発的」と「外発的」のモチベーションです。

内発的モチベーションは、活動自体に喜びを感じるときのもの。

例えば、ゲームやスポーツ観戦などのような趣味に高じているときなどはそうですね。

一方、外発的モチベーションは、ある目的を達成するために行動するときのものです。

体重コントロールをするためにスポーツをしたり、歯を清潔に保つために歯医者に行ったりすることなどは、この外発的モチベーションの例です。

外発的モチベーションの場合が、目的のために行動するので、長続きしそうですが、実はその効果は意外と短期間のことが多いようです。

2017年の研究では、新年の抱負を達成する目標を立てた人で、結果にこだわっている人は、目標を継続する可能性が低いことが明らかになりました。

これは、私たちがどのようにモチベーションを維持するかについて考える上で重要な意味を持ちます。

一方で、内発的モチベーションは長続きする可能性が高いとされています。

ですから、内発的モチベーションをどのように育むかが鍵となるでしょう。

しかし、単純に内発的または外発的に動機づけられることは稀です。

例えば、古代エジプトの文化に興味がある場合、歴史を勉強することは内発的なモチベーションから来るものです。

しかし、歴史の試験で良い成績を取るための勉強や、家族からのプレッシャーなどの外発的な動機も働く場合もあります。

ところが、たくさん動機があれば強力になるわけではなく、複数の動機があることが必ずしも良いわけではないようです。

例えば、内発的な動機と外発的な動機の両方に駆り立てられるアメリカの軍学校の生徒は、一方の動機のみに導かれる生徒よりも全体的にモチベーションが低いことがわかっています。

モチベーションを見つけることは難しいかもしれませんが、いくつか高める方法は考えられています。

タスクをもっと楽しくすること。

友人を誘ったり、好きなプレイリストを聴きながら取り組んだりすること。

「何のために」と目的を考えるよりも、自分の楽しいと思うことにいかにリンクさせるかが鍵になりそうですね。

 

 

「必要な不快感」と「不必要な不快感」

 

どの分野でもそうなのでしょうが、特に医学や医療の分野は、知識と技術だけでなく、心の強さも求められます。

そして、最近の医学教育のありようは、かつてとは大きく異なるものになりつつあるのを感じています。

例えば、私がインターンだった頃は、研修医1年目としての日常業務に没頭するしかありませんでした。

患者のその日の検査結果を集め、それをカルテに貼り付け、患者の主治医(ファーストレジデント)に最新情報を伝えるといった「スカットワーク(雑務)」です。

しかし、現在では、これらのスカットワークが教育的価値が低いと見なされ、その重要性や必要性について異なる見解が生まれています。

一部の研修医や教育者は、このような仕事が医学教育において重要な役割を果たすと考えていますが、他の一部は、こうした業務が本質的な学習体験から注意をそらすと考えています。

医学教育の文化は確実に変化していっています。

かつては当たり前だった教育の側面が、今では精神的健康を害すると見なされています。

この変化は、医学分野に限らず、より広い社会的な文化的変化の反映でもあります。

例えば、指導医が学生や研修医に対して否定的なフィードバックを避けるようになったりしています。

このような傾向は、医療教育の質にも影響を与えており、医学生や研修医が実際の医療現場で直面する困難に対処する能力の育成に必要な経験や挑戦が減少する可能性があります。

また、医学生や研修医が過剰なストレスや圧力にさらされることなく、必要なスキルや知識を身につけるための適切なバランスを見つけることが、今後の医学教育の重要な課題となるでしょう。

こうした状況は、医学教育における「必要な不快感」と「不必要な不快感」を区別することの重要性を浮き彫りにしています。

確かに、過度なストレスや不当な要求は避けるべきですが、一方で医療の現場は常に困難に満ちています。

これらを乗り越えるための訓練もまた必要です。

医学教育の現状について、明確な結論を出すことは難しいかもしれません。

しかし、医学教育の質を維持しつつ、研修医の健康を保護するためには、このような区別を正しく行うことが不可欠であると言えるでしょう。

医学教育は常に進化し続けるものです。

新しい世代がその規範を形作る中で、適切なバランスを見つけることが、私たちの共通の課題となるでしょう。

 

元論文:

Rosenbaum L. Being Well while Doing Well – Distinguishing Necessary from Unnecessary Discomfort in Training. N Engl J Med. 2024 Jan 17. doi: 10.1056/NEJMms2308228. Epub ahead of print. PMID: 38231543.

 

ポリファーマシーについて

 

高齢化社会が進む中、複数の多くの薬を長期にわたって服用する「ポリファーマシー」という状況が問題視されています。

この状況は、増加する医療費や患者のQOL(生活の質)の低下に直結しているため、医療界では以前から注目されているものです。

最近の研究では、ポリファーマシーに関連するリスクとして、死亡率の上昇、転倒、入院、機能的および認知的低下が指摘されています。

特に、高齢者の間でこれらのリスクが顕著になる傾向があります。

この問題に対処するために様々な介入方法が試みられています。

例えば、薬剤の見直しや患者との面談を含む積極的な薬剤レビューなどが行われています。

しかし、これらの介入の効果は必ずしも一貫しているわけではありません。

研究の結果は混在しており、救急外来への受診や入院の減少を示すものもあれば、効果が見られないとするものもあります。

このように、ポリファーマシーへの介入の効果は、その内容や対象とする患者層によって異なることが示されています。

さらに、転倒や入院の減少に関しても、有効な証拠は限定的です。

多くの研究レビューでは、これらのイベントとの関連性は見られず、結果は混在していることが多いのです。

このような状況を鑑みると、ポリファーマシーに対するより効果的な介入方法を見つけるためには、さらなる研究が必要といえます。

特に、多病を持つ高齢者における介入の効果については、今後の研究において重要なテーマとなるでしょう。

ポリファーマシーの問題は、単に薬剤の数を減らすことだけでは解決しない複雑なものです。

患者一人ひとりの状況に応じた、個別化されたアプローチが必要とされています。

医療提供者は、患者の生活の質を高め、無用なリスクを避けるためにも、この問題に対して敏感である必要があります。

 

元論文:

Keller MS, Qureshi N, Mays AM, Sarkisian CA, Pevnick JM. Cumulative Update of a Systematic Overview Evaluating Interventions Addressing Polypharmacy. JAMA Netw Open. 2024 Jan 2;7(1):e2350963. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.50963. PMID: 38198136; PMCID: PMC10782233.

 

 

老化に備えることは自分を大切にすること

 

私たちは皆、歳を取ることについて考えます。

古代から現代に至るまで、人類は老化をどうしたらコントロールできるかについて考え続けてきました。

そして、最近の科学の進歩によって、老化のプロセスについての理解が進むにつれて、老化を単に悪と見るのではなく、内外から健康に老化することの可能性に目を向けるべきだとする主張が多くなってきました。

特に重要なのは、生活様式と身体活動です。

日々の運動は、老化に伴うさまざまな認知の問題を減少させることが知られています。

筋肉の衰えやサルコペニア(筋肉減少症)など、老化に伴う身体の問題に対しても、運動は有効です。

これらの活動は、年齢と共にますます重要になります。

そして、寿命(生まれてから死ぬまでの時間)と健康寿命(健康な状態で生きている時間)の違いを理解することが重要です。

私たちの目標は、ただ長生きすることではなく、質の高い生活を長く維持することです。

また、ストレスは悪者と見なされがちですが、実際には私たちを強くするために設計されています。

適度な身体的ストレスは、骨や筋肉を強化し、老化に伴う機能低下を防ぐために重要です。

老化は避けられないプロセスですが、私たちの生活様式の選択によって、そのプロセスをより健康的で幸福なものにすることができます。

私たちが毎日行う小さな選択が、長い目で見ると大きな差を生みます。

老化とは、単に年齢を重ねること以上の意味を持ちます。

それは私たちがどのように生きるか、どのように自分自身を大切にするかについての実践だと言えます。

 

 

「膝の痛み」について

 

今日のお話は私の専門外なので恐縮ですが、一般の症状として非常に多い「膝の痛み」についてのお話をします。

膝の痛みは、大きく3つの状態に分けられます。

つまり、膝の変形性関節症、膝蓋骨痛、半月板損傷です。

膝の変形性関節症は、世界で約6億5400万人が影響を受けており、成人の約12%が症状を抱えています。

膝蓋骨痛は、40歳未満の若い人々、特に身体的に活動的な人々に多く見られ、一生のうち約25%の人が経験します。

半月板損傷は、年齢に応じて異なる疫学を持ち、成人の約12%に見られます。若年者では急性の外傷、高齢者では変性の損傷が多く見られます。

これらの症状の診断は、臨床的な診察に重点を置いています。

膝の変形性関節症は、45歳以上の人が活動に関連する痛みと朝のこわばりを経験する場合に診断されます。

膝蓋骨痛は、しゃがむ動作中の前膝の痛みによって診断され、半月板損傷は、マクマレー検査と関節線の圧痛によって診断されます。

治療法には、症状に応じて異なるアプローチがあります。

変形性関節症では、リハビリ、身体活動の促進、体重管理、自己管理プログラムへの参加が推奨されます。

膝蓋骨痛では、股関節と膝の筋力トレーニング、足の装具や膝蓋骨テーピングが行われます。

半月板損傷では、運動療法が主に行われます。

薬物療法としては、抗炎症薬が一般的ですが、高齢者では副作用のリスクが高まるため注意が必要です。

アセトアミノフェンは効果が限定的であるため推奨されなくなっています。

オピオイドは、依存や乱用のリスクがあるため、一般的には推奨されていません。

最終的には、膝の変形性関節症で重症の場合には、膝の全置換手術が検討されます。

しかし、手術後に症状が改善しない人も15〜20%いるため、手術は慎重に選択されるべきだと言われています。

肥満や心理的問題がある場合、手術の成功率に影響を与える可能性があります。

膝の問題は、私たちの生活の質に大きな影響を与えるため、正しい知識と適切な治療法の理解は不可欠です。