青年期の血圧と心血管リスクについて

 

ご存知の通り、高血圧と心血管イベントの関係は、多くの研究で取り上げられています。

しかし、この研究の注目すべき点は、それが「青年期」に焦点を当てていることです。

 

元論文はこちら→

Rietz H, Pennlert J, Nordström P, Brunström M. Blood Pressure Level in Late Adolescence and Risk for Cardiovascular Events : A Cohort Study. Ann Intern Med. 2023 Sep 26.

https://www.acpjournals.org/doi/full/10.7326/M23-0112

 

従来、高血圧は中高年の問題とされてきました。

しかし、この研究は、青年期から心血管リスクが高まる可能性を示唆しています。

原文では「Late Adolescence」とありますから、「青年期後期」と訳すべきなのでしょうが、ここでは「青年期」という表現で進めることにします。

というのも、平均年齢18.3歳で、79,644人もの主要な心血管イベントが発生していたのでした。

 

血圧が「高い」とされる基準は、ガイドラインで定義され、何度も改訂されています。

この研究で用いられた2017年のアメリカ心臓協会とアメリカ心血管内科学会のガイドラインによれば、血圧が120~129/ <80 mm Hgであれば「上昇している」とされ、130/80 mm Hg以上であれば「高血圧」とされます。

興味深いことに、参加者の28.8%が「上昇した血圧」、53.7%が「高血圧」と診断されました。

つまり、青年期でさえ、多くの人がすでに心血管イベントのリスクにさらされているというわけです。

では、この数値は何を意味するのでしょうか。

最も印象的なのは、リスクが120/80 mm Hgという比較的低いレベルから始まるという事実です。

一般に、このレベルは「正常」または「理想的」とされますが、この研究はその見方を覆しかねないものです。

この新しい視点は、未来の心血管イベントに対する警戒レベルを高めるだけでなく、若い世代のライフスタイルについても考えさせる材料になります。

この研究にはもちろん限界もあります。

例えば、対象が男性だけであること。

しかし、35.9年という長い追跡期間と1,366,519人という大規模なサンプルサイズは、その結果に一定の信頼性をもたらしています。

この研究が示すものは、高血圧が単なる「数字」ではなく、未来の健康に対する「指標」であるという点です。

この指標をどう活用するかは、私たちの判断に委ねられています。

 

 

ミルクティーの甘い罠

 

最近はそう滅多にあるものではありませんが、学生の頃はコンビニで必ずと言っていいほどミルクティーのペットボトルに手を伸ばしていました。

好きな銘柄があって、冬には温めてあるのを手にとって、ゴクゴク飲んでいたものです。

ミルクティーはコーヒーに比べて、なんだか罪悪感(?)のようなものがありませんでしたし、なんとなく健康にも良さそうな気がしていたのでした。

私を含めてミルクティーをただの美味しい飲み物だと思っていた方は、少し驚くかもしれません。

最近の研究が指摘するところによれば、この甘くてクリーミーな飲み物が、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があるのだそうです。

 

元論文はこちら→

Qu D, Zhang X, Wang J, Liu B, Wen X, Feng Y, Chen R. New form of addiction: An emerging hazardous addiction problem of milk tea among youths. J Affect Disord. 2023 Nov 15;341:26-34. doi: 10.1016/j.jad.2023.08.102. Epub 2023 Aug 23. PMID: 37625703.

 

特に若者の間でこの飲み物の人気が高まっている中国での研究によると、ミルクティーの依存性が不安やうつ症状、さらには自殺念慮につながる可能性があるというのです。

この研究は、北京の大学生5281人を対象に行われました。

参加者は自らうつ症状や不安症状、自殺念慮、そしてミルクティーに関する依存症状を報告しています。

参加者の約77%が過去1年間に少なくとも6~11杯のミルクティーを飲んでいました。

例えば、2.6%の若者が週に4~6杯、20.6%が週に2~3杯のミルクティーを飲んでいるというデータがあります。

その消費パターンは、依存症状につながる可能性があると指摘されています。

(学生時代の私は確実に週に10杯以上は飲んでいたはずです…)

ミルクティーの成分には砂糖とカフェインが含まれています。

これらが依存性や精神的健康への影響につながるとされています。

具体的には、ミルクティーは砂糖が添加された飲料(Sugar-Sweetened Beverage、SSB)と分類されます。

さらに、カフェインも含まれている場合、それはカフェイン入りのSSBとされ、これが依存症状を引き起こす可能性があります。

研究では、高用量のカフェイン入りSSBの摂取が、渇望(craving)、制御喪失(loss of control)、耐性の発達(tolerance)、そして撤退症状(withdrawal)を引き起こす可能性があるとされています。

これは食物依存と同様に、何度も摂取することで「快感神経系」に適応が生じることが指摘されています。

また、依存行動とともに罪悪感(guilty feelings)がしばしば伴うことも、ミルクティー依存における追加の症状である可能性があります。

このように、ミルクティーの砂糖とカフェインが、依存症状や精神的健康に対する影響の大きな原因である可能性が高いとされています。

この点を考慮に入れると、ミルクティーを楽しむ際にはその成分と量に注意が必要ですね。

特に若者の場合、これらの成分が精神的健康に及ぼす影響は無視できないレベルに達しているかもしれません。

 

また、この研究では、ミルクティーが「感情を調整する代償戦略」として機能する可能性を示唆しています。

つまり、孤独感と精神的健康問題の間に仲介役としてミルクティー依存が存在するかもしれないというわけです。

 

次にミルクティーを手に取るとき、潜在的な「甘い罠」である可能性を考慮する必要があるかもしれません。

もちろん、これは1杯や2杯で問題が起こるわけではありません。

すべてはバランスというわけですね。

 

 

体重は大事だが、運動することはもっと大事

 

健康と言えば、大抵の人が痩せることが最良と考えがちです

医療者も「体重を落としましょう」と、つい言いがちになります。

しかし、最近の研究で興味深い事実が明らかになりました。

肥満であっても、日頃から運動していて運動能力の高い人は慢性腎臓病のリスクが低い、というものです。

この研究は「Obesity」という科学誌で発表されました。

 

元論文はこちら→

Harhay MN, Kim Y, Moore K, Harhay MO, Katz R, Shlipak MG, Mattix-Kramer HJ. Modifiable kidney disease risk factors among nondiabetic adults with obesity from the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis. Obesity (Silver Spring). 2023 Sep 28. doi: 10.1002/oby.23883. Epub ahead of print. PMID: 37766596.

 

運動習慣のある人を想像してみてください。

筋肉量が保たれているだけでなく、心肺機能や心の健康状態なども含まれます。

この研究によれば、肥満でも運動し運動能力の高い人は、運動せずに運動能力の低い人に比べて、腎臓病のリスクが約20%低くなるとされています。

具体的には、歩行ペースが遅い人は、より速い歩行ペースの人よりも急速な腎機能低下がみられ、慢性腎臓病のリスクが高いことと関連していました。

もちろん、体重増加はよくありません。

では、なぜ体重よりも、運動能力が重要なのでしょうか。

その答えは腎臓病のリスク因子と直結しているのだと言います。

高血圧や高血糖は腎臓に負担をかける可能性がありますが、運動によってこれらは改善することが多いです。

運動することで心の健康も向上する可能性があります。

ストレスが減少すると、心が健康になり、それがさらに運動をする意欲を高めます。

 

運動する必要があると言っても、すぐにジム通いを始める必要はありません。

日常生活で運動量を増やす小さなステップが大きな変化を生むこともあります。

というわけで、体重に囚われるのではなく、まず運動する新しい視点で健康に向き合ってみてはいかがでしょうか。

 

 

森林浴の効果

 

「森林浴」は、1980年代に日本で生まれました。

英語では「Forest Bathing」と表現しますが、日本生まれということもあって「Shinrin-Yoku」で通じるらしく、日本語がそのまま英語になった言葉のひとつです。

森林浴の主な目的は、ストレスから身体を守ることでしょうか。

そして、不安やうつ症状に対する自然の処方箋としての側面もありますね。

森林浴が心の健康に与える影響は、特にセロトニンのレベルに現れます。

セロトニンは、心の健康にとって基本的な役割を果たす神経伝達物質で、森林浴をした後にそのレベルが上がることが研究で確認されています。

さらに、自然の音、特に鳥のさえずりは、人々の集中力や幸福感にも良い影響を与えるとされています。

物理的な健康においても、森林浴は副交感神経系の活動を高め、それが血圧を下げたり心拍数を落ち着かせたりする効果があります。

また、樹木から放出されるα-ピネンやβ-ピネンといった物質が、体内で炎症を引き起こすサイトカインの生成を抑制する可能性も指摘されています。

 

都市部に住んでいる人にとっては、仮想的な森林浴も一つの選択肢となるかもしれません。

自然の音をスマートフォンで聞くだけでも、心地よい気分転換になると言われています。

 

森林浴は瞑想的な側面もありますが、その効果は科学的にも裏付けられています。

次に森に行く機会があれば、少し立ち止まって深呼吸をしてみてはいかがでしょう。

自然の中で、心地よい瞬間を感じてみてください。

 

 

152か国分析で見えた幸福の社会的要因

 

この研究は、香港大学の助教授、Satoshi Araki氏によって行われました。

目的は、社会的条件が幸福にどのように影響するのか、そしてその影響が所得層によってどのように変わるのかを探ることです。

 

元論文はこちら→

Araki, S. (2023). The Societal Determinants of Happiness and Unhappiness: Evidence From 152 Countries Over 15 Years. Social Psychological and Personality Science, 0(0). https://doi.org/10.1177/19485506231197803

 

研究には152か国からのデータが15年間にわたって収集され、そのデータにはGDP(一人当たり国内総生産)、社会的支援、健康寿命、選択の自由、寛大さ、腐敗の認識、そして幸福と不幸に関するいくつかの指標が含まれています。

興味深いのは、経済成長(GDP)と生活満足度との関係が必ずしも強くないという点です。

むしろ、「寛大さ」、「社会的支援」、「個人の自由」といった非経済的要素が、幸福に大きな影響を与えていることが明らかにされています。

特に富裕な国で顕著なのが「寛大さ」の要素でした。

この研究では、寛大さが高い国では人々の幸福度も高いという結果が出ています。

また、所得に関わらず「社会的支援」がしっかりとあるところでは、ストレスが少なく、心の健康状態が良いというデータも示されています。

「個人の自由」というのは、自分自身で選択できる余地がどれだけあるか、ということですね。

選挙で自分の意見を表現できる自由、好きな職業につける自由などがそれに当たります。

これもまた、幸福感に寄与する要素とされています。

このような社会的要素が、実は我々の心の中で大きな役割を果たしています。

もちろん、研究には限界もあり、個々の体験をすべて説明するわけではありませんが、社会全体として幸福を高めるための方向性を示しています。

この研究が示しているのは、単に「幸福」ではなく、「不幸」を減らす社会をどう作るか、という視点かも知れません。

 

 

医師のバーンアウトの調査研究

 

最近、アメリカの医師のバーンアウト率の調査報告がありました。

 

元論文はこちら→

Ortega MV, Hidrue MK, Lehrhoff SR, et al. Patterns in Physician Burnout in a Stable-Linked Cohort. JAMA Netw Open. 2023;6(10):e2336745. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.36745

 

この研究では、大規模な多専門医療団体で、5年間にわたって医師のバーンアウトの有病率を調査しました。

対象はマサチューセッツ一般医師組織の医師教員で、オンライン調査が2017年、2019年、2021年に行われました。

調査には4つの領域が含まれていて、バーンアウトの定義を3つのサブスケール―疲労、皮肉、個人的な効力感の低下―のうち2つで高いスコアを得た場合としています。

研究対象となった1373人の医師のうち、約72%がこの調査に参加しました。

この研究によると、医師のバーンアウト率は年度によって変動しています。

具体的な数字について見てみると、2017年には44.4%(610人)、2019年には41.9%(575人)、そして2021年には50.4%(692人)と報告されています。

このデータが示しているのは、バーンアウト率が一度は下がったものの、2021年に再び上昇している点です。

変動はともかく、バーンアウト率が4割から5割というのは、想像はしていたものの、それ以上に高いものでした。

その原因として考えられるのが、COVID-19の影響です。

このパンデミックは医療業界に多大なプレッシャーをかけ、それが医師のバーンアウト率に反映されている可能性が高いとされています。

COVID-19は医療体制に大きな負担をかけました。

感染者数の増加による病床の不足、医療従事者自身の感染リスク、そして不確実な治療法など、多くのストレス要因が医師に影響を与えています。

これらは、既に高かったバーンアウト率をさらに上昇させる要因となっているでしょう。

また、この研究においても指摘されているように、バーンアウトの原因は多様です。

高いワークロード、自律性の喪失、ワークライフバランスの崩れなどが、医師を疲弊させる大きな要素となっています。

COVID-19が加わることで、これらの問題は一層深刻化している可能性があります。

そして、バーンアウトが進むと、医療ミスの増加や患者満足度の低下、さらには医師不足の問題にもつながります。

当然ながら、医師の心の健康は、医療全体の質にも影響を与えるのです。

一方で、医療界ではAIやロボット技術の導入が進んでいます。

これにより、診断や手術の精度は向上していますが、医師の心の負担に対する解決策とはなっていません。

患者とのコミュニケーションや心のケアに関しては、テクノロジーが補完できる範囲は限られています。

このような複雑な状況を考慮すると、医師自身が心の健康を維持する方法を模索する必要があります。

そして、それが新たな研究やデータ、政策変更を促す原動力となるでしょう。

 

研究は「スナップショット」であり、現状を把握する一つの手段です。

次に必要なのは、この問題にどう対処するかという「行動」だと言えます。

 

 

名前と顔、猫はどれだけ覚えている?

 

うちのクリニックのスタッフは猫派が圧倒的に多いです。

ですから、猫の習性を訊ねようと思ったら、実体験に基づいた、適切で的確な答えがすぐに返ってきます。

例えば、今回のテーマ「猫が名前を覚えられるかどうか」

猫好きの人たちには、当然わかっていて簡単すぎるテーマなのでしょうが、そこにちゃんと光を当てていくのが研究というものですね。

この研究では、猫がほかの猫や人間の家族の名前と顔をどれだけ日常生活で関連づけているのかを調査しています。

 

元論文はこちら→

Takagi, S., Saito, A., Arahori, M. et al. Cats learn the names of their friend cats in their daily lives. Sci Rep 12, 6155 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-10261-5

 

最初の実験では、猫が知っているほかの猫の名前と顔を一致させられるかどうかを調査しました。

家庭で飼われている猫26匹に、ラップトップの画面で、知っている猫の顔を見せました。

その前に、その猫の名前または別の猫の名前を、猫の飼い主によって呼んでもらいます。

半分は名前と顔が一致(一致条件)、半分は名前と顔が一致しない(不一致条件)です。

結果として、名前と顔が一致しない時、猫は画面を平均で3秒以上も見つめていました。

これは「期待違反効果」と呼ばれ、猫が名前と顔を関連付けている証拠とされています。

「あれ?顔が違うんだけど?」とでも思っていたのかも知れません。

しかし、カフェで飼われている猫にはこの効果は見られませんでした。

 

続いて、猫が人間の家族の名前と顔をどれだけ関連付けられるかも調査されました。

ここでは、家族が多いほど、または猫が長くその家族と生活しているほど、この傾向が強くなることがわかりました。

ただし、猫の年齢が影響している可能性も考慮されています。

 

この研究から明らかになったのは、猫が特定の名前と顔を確実に関連付ける能力があるという事実です。

猫も日常生活で他者との関係性を認識し、それを維持する「知恵」を持っていると言えそうです。

そして何より、この研究が飼い主と猫との関係に与える影響は大きいです。

猫が名前を覚える能力を持っているとすれば、それは単なるペット以上の存在として、更なる信頼関係が築かれるものとなりそうですね。

 

 

頻繁にSNS投稿する男性のイメージとは?

 

SNSなどのメディアで、ある程度、男性と女性のイメージは固定されがちです。

例えば、メディアに頻繁に投稿する男性が、ある視点から見れば「女性的」と捉えられる傾向があることを明らかにした研究があります。

 

元論文のサイトはこちら→

Why guys who post a lot on social media are seen as less manly.

https://theconversation.com/why-guys-who-post-a-lot-on-social-media-are-seen-as-less-manly-208732

 

この研究の背景には、消費者行動の研究者が長年にわたり「男性性」に焦点を当ててきた歴史があります。

「男性性」は、マーケティングの世界で多岐にわたる影響を及ぼしていて、その一例としてコカ・コーラゼロが挙げられます。

この製品は、ダイエットコーラが特に体重を減らしたい女性向けだったのに対し、男性向けの製品として開発されました。

さらに、一般的に、長く睡眠をとろうとすることが非男性的であるとする風潮もあります。

メディアの利用に関する性別間の違いを探ると、男性と女性がメディアプラットフォームを利用する方法が異なることが、調査データから明らかになりました。

特に、男性は女性ほど頻繁にInstagramなどのアプリで投稿しない傾向があります。

この疑問を解明するために、研究者たちは一連の実験を行いました。

参加者には、メディアで頻繁に投稿するか、あるいはまれにしか投稿しない「普通の」男性を評価するよう求めました。

この男性は、楽しみのためにオンラインで投稿し、適度な数のフォロワーを持つ人として描かれました。

参加者は頻繁にメディアに投稿すると説明された男性を一貫して女性的と評価しました。

これは、男性の年齢、教育、財産、どんなメディアプラットフォームを使うかなどに

無関係でした。

また、参加者の性別、年齢、政治的信念、メディアの使用に関しても影響を受けませんでした。

さらに、女性の投稿行動を説明するために同一のシナリオを使用したところ、投稿の頻度が彼女をどれだけ女性的と感じるかに影響を与えませんでした。

この現象の背後にある理由は何でしょう。

研究者たちは、頻繁に投稿する人々が、性別に関係なく、注意と承認を求める人々として見られることを発見しました。

しかし、この「必要性」は、男性の場合にのみ女性性と関連付けられるようです。

この発見は、男性が強く、沈黙し、自己充足であるべきだという社会的な期待を反映している可能性があります。

そして、頻繁にオンラインで投稿することによって、男性はこの期待とは逆のイメージを投影してしまうのかもしれません。

この「頻繁投稿女性性ステレオタイプ」効果は、予想以上に根深いものであることが示されました。

この研究は、アメリカとイギリスでの調査でした。

さて、日本ではどうなのでしょうか?

 

 

昼寝の科学:あえて分けて眠る

 

「今日は徹夜だぁ!徹夜しないと間に合わない!」

学生時代はもちろん、研修医時代もカンファレンスなどの前には「徹夜」というワードを何度も使っていたものです。

もともとの体質が朝型というのが分かっているので「朝早く起きてやろう」という悪魔のささやきに耳を貸してしまうと、だいたいが悲惨な結果を招いてしまっていました。

今回紹介する研究は「夜のパフォーマンスをあげるにはどんな昼寝の仕方が良いか?」を明らかにしようとするものです。

 

元論文はこちら→

Oriyama, S. Effects of 90- and 30-min naps or a 120-min nap on alertness and performance: reanalysis of an existing pilot study. Sci Rep 13, 9862 (2023).

https://www.nature.com/articles/s41598-023-37061-9

 

41名の女性が参加したこの研究は、16時間の模擬夜勤中に取る異なるタイプと長さの仮眠が、警戒性とパフォーマンスに与える影響を測定しました。

参加者は「No-nap」、「One-nap」、「Two-nap」の3つのグループに分けられ、ウチダ・クレペリンテスト、疲労感、眠気、体温、心拍数の変動性といった指標で評価されました。

興味深いことに、90分の仮眠を取った後の警戒性は、入眠までの時間が短いほど低下したというデータが出ています。

一方で、120分と30分の仮眠を取った場合、総睡眠時間が長いほど、目覚めた際の疲労感と眠気が増していました。

さて、夜中の4時から9時の間では、「No-nap」と「One-nap」グループの疲労感が、「Two-nap」グループよりも高かったです。

しかし、これが朝のパフォーマンスに良い影響を与えるわけではなく、どちらの仮眠グループも朝のパフォーマンスは改善されませんでした。

分割仮眠が長い夜勤中の疲労と眠気を改善する可能性があるという結果は、仮眠の科学に新たな光を投げかけています。

仮眠の「質」がどれだけ重要であるかが、この研究からも伺えます。

仮眠の科学は、一見単純でも多角的な要因が絡み合っています。

仮眠のタイミング、その長さ、そして質。

これらが複雑に影響を与え合い、私たちが目指す最適なパフォーマンスと警戒性につながっています。

 

 

肥満の生物学

 

肥満という言葉を聞くと、多くの人は食事の制限や運動を思い浮かべるかもしれません。

しかし、最近の研究によれば、この問題はそれだけではないようです。

イェール医学の最近の動画では、肥満が複雑な神経代謝疾患であり、それをほかの疾患と同様に扱う必要があると説明しています。

肥満は、体が過度な量のエネルギーを蓄えようとする病気として描かれます。

正常な体は、本来多すぎるエネルギーを保持したくないのです。

この「脂肪量セットポイント」は、現代社会における高カロリー食品や睡眠不足、ストレス、運動不足といった要因で変動しやすくなっています。

この動画では、新しい治療法として栄養刺激ホルモンベースの治療法が紹介されています。

これは、脳の受容体を標的とする抗肥満薬を用いて、脂肪量セットポイントを再調整またはリセットする方法です。

この治療法の副産物として、患者は体重を減らすことができます。

この動画は、肥満の患者が不当にスティグマや偏見、非難にさらされていることを強調しています。

これは彼らのせいではなく、生物学的な問題であると説明しています。

生活習慣の変更や栄養豊かな食事、運動は健康にとって重要であり、肥満の予防にも重要です。

しかし、神経代謝疾患である肥満を発症した後は、疾患のメカニズムを標的とする治療が必要です。

この動画から得られる教訓は、肥満という疾患が単なる「食べ過ぎ」や「運動不足」の問題ではなく、複雑な神経代謝プロセスに関連していることを示しています。

そして、この疾患に対する新しいアプローチが必要であると強調しています。

この情報は、肥満と闘っている多くの人々にとって新しい希望をもたらすかもしれません。

新しい治療法が開発され、肥満の問題がより包括的かつ効果的に解決されることを期待しています。

そして、社会全体が肥満という疾患に対する新しい視点を持つことで、患者が適切な支援と理解を受けることができるようになることを願っています。