低用量カルシウムサプリメントの妊娠高血圧腎症の予防

 

妊娠中の女性の健康管理は、医療の分野で常に重要なテーマです。

特に、以前には「妊娠中毒症」と呼ばれていた妊娠高血圧腎症(別名:子癇)のリスクを減らすための効果的な方法を見つけることは、多くの研究者の関心事となっています。

この文脈で、2024年1月11日に『New England Journal of Medicine』に掲載された興味深い研究があります。

その研究は、「妊娠中の低用量カルシウムサプリメントの二つのランダム化試験」に関するもので、インドとタンザニアで行われました。

世界保健機関は、妊娠高血圧腎症のリスクを減らすために、低カルシウム摂取量の人口に対して、妊娠中のカルシウムサプリメントの日量1500mgから2000mgを推奨しています。

しかし、この高用量のサプリメントは、複雑な投与法とコストが高いために、実際に行われるかというとそうではありませんでした。

そこで、この研究は、500mgの低用量と1500mgの高用量のカルシウムサプリメントの効果を比較しました。

各試験では、11,000人の初産婦が参加しました。

主な目的は、500mgの低用量が1500mgの高用量に対して劣らないことを確認することでした。

その結果、インドでの妊娠中毒症の発生率は500mgグループで3.0%、1500mgグループで3.6%であり、タンザニアでも同様の結果が得られました。

この研究の意義は大きいです。

なぜなら、より低い用量のカルシウムサプリメントでも妊娠中毒症のリスクを減らすのに効果的であり、さらに、より実施しやすく、コストも抑えられる可能性があるからです。

これは、特に資源が限られた地域において、妊婦の健康管理における新たな選択肢を提供することを意味します。

また、サプリメントの投与量が少なくなることで、服用のしやすさが向上し、より多くの妊婦がこの健康対策を受け入れる可能性があります。

しかし、この研究にはいくつかの限界も存在します。

妊娠期間の推定方法には、最終月経期と胎児超音波を用いていますが、これには一定の測定誤差や分類誤りが生じる可能性があります。

また、事前の妊娠損失や早産のケースを除外した分析も行われており、これによる影響も考慮する必要があります。

この研究は、妊娠中の女性の健康管理における新しい知見を提供しています。

低用量のカルシウムサプリメントが、より実施しやすく、コスト効果的な選択肢である可能性を示しています。

これにより、妊娠中毒症のリスクを減らすための新しい戦略として、世界中の妊婦にとって有益な選択肢となるかもしれません。

特に、資源が限られた環境においては、効果的かつ実行可能な健康戦略の選択に大きな影響を与える可能性があります。

元論文はこちら:

Dwarkanath P, Muhihi A, Sudfeld CR, Wylie BJ, Wang M, Perumal N, Thomas T, Kinyogoli SM, Bakari M, Fernandez R, Raj JM, Swai NO, Buggi N, Shobha R, Sando MM, Duggan CP, Masanja HM, Kurpad AV, Pembe AB, Fawzi WW. Two Randomized Trials of Low-Dose Calcium Supplementation in Pregnancy. N Engl J Med. 2024 Jan 11;390(2):143-153. doi: 10.1056/NEJMoa2307212. PMID: 38197817.

 

目標は「何をする!」に置き換える

 

今回のお話は新年の決意に関する面白い研究です。

この研究は、人々が新年に立てる目標の成功率について、特に「アプローチ指向の目標」対「回避指向の目標」という観点から分析しています。

この研究はスウェーデンのストックホルム大学などの研究者によって行われました。

参加者は1066人の一般の人々です。

彼らは「サポートなし」、「少量のサポート」、「拡張サポート」の3つのグループに分けられました。

最も一般的な決意目標は、身体的健康、体重減少、食生活の改善に関連していました。

一年後の追跡調査では、全体の55%の参加者が自分の決意を維持できたと考えていました。

特に注目すべき点は、「アプローチ指向の目標」を持つ人々が「回避指向の目標」を持つ人々よりも成功率が高かったことです。

アプローチ指向の目標は、例えば「もっと運動する」といった肯定的な行動を促すもので、成功率は58.9%でした。

一方で、回避指向の目標は「喫煙を減らす」「無駄遣いをなくす」などの、ある否定的な行動を避けることに焦点を当てたもので、その成功率は47.1%でした。

グループ間での比較では、ある程度のサポート(目標設定に関する情報やエクササイズを含む)を受けたグループが最も高い成功率を示しました。

これは、適度なレベルのサポートが、過剰なサポートや全くのサポートなしよりも効果的であることを示しています。

この研究は、目標の指向性が新年の決意の成功に重要であることを強調しています。

つまり、「〇〇をやめるぞ!」という目標よりも「〇〇をやるぞ!」という目標の方がいいのです。

例えば、「ゲームの時間を減らす」よりも「本を毎日読む」という表現に置き換えた方がよいというわけです。

新年の決意は、単なる風習ではなく、行動変容を促進する潜在的な手段として捉えることができます。

効果的な目標設定に関する情報やエクササイズが成功率に影響を及ぼす可能性があることが示されています。

 

元論文はこちら:

Oscarsson M, Carlbring P, Andersson G, Rozental A. A large-scale experiment on New Year’s resolutions: Approach-oriented goals are more successful than avoidance-oriented goals. PLoS One. 2020 Dec 9;15(12):e0234097. doi: 10.1371/journal.pone.0234097. PMID: 33296385; PMCID: PMC7725288.

 

 

「禅」への憧れ

私のブログを読まれている方は薄々勘づいておられると思いますが、私は「禅」に憧れがあります。

まず、禅の基本は「サンガ」、つまり「コミュニティ」です。

これは、私たちが他者との関係性を通じて自己と相手を理解することが可能となるためです。

禅と言ったら、すぐに瞑想をイメージするかも知れません。

けれども、瞑想だけでなく、日常生活の中でつながる人との関わりは、自己を理解する鍵です。

それらを含めた禅の実践が、私の人生観や振る舞い、患者との関わり方に大きな影響を与えているのだと思います。

次に述べるのは、禅に対する私なりの理解なので、多少ずれていると思いますが、どうか鵜呑みになさらず、読んでください。

私が思う禅の中心的な教えは「無常」の概念です。

すべてが常に変化しており、何も永遠には持続しないという考え方です。

これは一見恐ろしく感じられるかもしれませんが、実は大きな安堵感をもたらします。

私たちはしばしば自分自身や世界に対して固定観念を持ちがちですが、無常の真理を受け入れることで、これらの固定観念から解放されます。

すべてが変わりゆくことを理解すると、他者への共感も深まります。

また、「四諦」についても触れなければなりません。

これは、生きることの苦しみや不満足を理解し、それらと共存する方法を提案するものです。

禅は、苦しみから逃れるのではなく、それと向き合い、受け入れることを教えます。

これは人間関係の調和においても重要な要素です。

さて、「マインドフルネス」についてですが、これは現在の瞬間に意識を向けるシンプルな実践です。

例えば、今この瞬間に感じるイスの感触や空気の温度に意識を集中することです。

マインドフルネスは、日々の生活の中でいつでも実践できるものです。

次に、禅は「執着」について教えています。

固定観念に固執することを避け、より柔軟な考え方を受け入れることが、苦しみを減らす鍵となります。

これは人間関係においても同じで、他者を自分の思い通りにしようとするのではなく、彼らをありのままに受け入れることが大切です。

また、「慈悲の心」の概念も代表的なものです。

これは、他者に対する思いやりや平和を願う実践を通じて、自分自身の苦しみや怒り、不安な思いにも気づき、共感と愛情を育むプロセスです。

例えば、瞑想中に「あなたが幸せでありますように」と心の中で唱えることで、他者への感情が変わっていきます。

最後に、禅における「初心者の心」という教えがあります。

これは、自分が持つ確固たる物語や先入観を手放し、常に新鮮な視点で物事を捉えることを意味します。

初心者の心を持つことで、人間関係においても新たな発見や交流が生まれます。

禅の教えが私たちの日常生活、特に人間関係の理解と深化にどのように役立つかに思いを馳せます。

無常の理解、苦しみとの共存、マインドフルネス、執着の手放し、慈悲の心、初心者の心といった禅の教えは、私たちがより平和で満ち足りた人生を送るための貴重なツールとなります。

日々の生活の中でこれらを実践することで、私たちは自分自身だけでなく、周囲の人々にもより深い理解と共感を示すことができるようになります。

だからこそ、私は「禅」に憧れるのです。

もちろん、なかなか実践できているわけではないのですが。

 

 

人差し指と薬指の長さの不思議

 

人間の身体は、内面を映し出す鏡のようだと言われることがあります。

手相や人相占いなどは、その代表のようなものですね。

ほかにも、例えば、ネットの広告などで「指の長さでわかる〇〇」という文字を見たことがあります。

そのほとんどがブログやニュースなどの記事の途中に挟まっているものなので、そのままスルーしているのですが、結構よく見ます。

あれは、人差し指と薬指の長さを比べて、どちらかが長かったり短かったりしたら、あなたの〇〇がわかるというような感じの内容だったと思います。

実は、以前から、人差し指(2D)と薬指(4D)の長さの比率、一般に2D:4D比率として知られるものが、さまざまな行動や性格特性の指標である可能性が示されていたのですね。

実は、花びら占いのようにほとんど根拠がないわけではないものなんです。

この比率は、胎児が子宮内でさらされるテストステロンとエストロゲンのレベルに影響されると考えられています。

テストステロンがエストロゲンに対して高いほど、2D:4D比率は低くなり、一般的に薬指が人差し指に比べて長くなります。

研究者たちはこの指の長さの比率が特定の精神障害や性格特性とどのように相関するかを深く理解することを目指しました。

それが、今日紹介する論文の内容です。

研究の主な焦点は、アンフェタミン使用障害(AUD)、反社会性人格障害(ASPD)、両方を持つ個体(AUD + ASPD)、および健康な個体のコントロールグループに診断された個体でした。

ここで言うアンフェタミン使用障害(AUD)とは、アンフェタミンの過剰使用や依存性に関連する問題です。

アンフェタミンは、中枢神経系(CNS)の興奮剤で、ADHDや睡眠障害の治療に使用されますが、誤用すると様々な副作用や健康被害が起こります。

さて、研究者たちは、研究のために80人の参加者を募集しました。

これらは、臨床診断を受けた44人の個体(AUD 25人、ASPD 10人、両方を持つ9人)と、36人の健康なコントロールからなる2つの主要なグループに分けられました。

参加者は研究の目的と目標について十分に情報を提供され、機密性が保証されました。

同意を得た後、参加者は詳細な社会人口統計情報を提供し、心理的評価を受けました。

さらに、右手のひらのスキャンが行われ、人差し指と薬指の長さが正確に測定されました。

その結果、臨床群の参加者は健康なコントロール群に比べて、顕著に低い2D:4D比率を示しました。

これは、AUD、ASPD、特に両方の状態を持つ人々は、人差し指に比べて薬指が長い傾向があることを示していました。

さらに、この研究では、低い2D:4D比率が、ダークトライアド特性(マキャベリズム、ナルシシズム、サイコパシーの組み合わせ)の高いスコアと関連していることが見出されました。

これは、出生前のホルモン暴露がこれらの社会的に不快な特性と関連している可能性を示しています。

しかし、脆弱なナルシシズムや不確実性への耐性の測定と2D:4D比率の間には有意な相関は見られませんでした。

この研究の結果は、2D:4D比率という単純な身体的測定が、特定の性格特性や脆弱性を予測するための非侵襲的バイオマーカーとして使用される可能性を示しています。

ただし、この研究にはいくつかの限界があります。

サンプルサイズが比較的小さく、一つの精神医療施設の参加者に限定されているため、結果の一般化には制限があります。

また、健康なコントロール群からの包括的な心理学的データが欠けているため、臨床群と非臨床群の比較が完全ではありません。

この研究は、出生前の環境が、成人期の行動や性格に長期的な影響を与える可能性があることを示しています。

しかし、これらの発見が個々の行動や性格を完全に説明するものではなく、多くの要因が複雑に絡み合っていることを忘れてはなりません。

 

元論文はこちら:

Hashemian SS, Golshani S, Firoozabadi K, Firoozabadi A, Fichter C, Dürsteler KM, Brühl AB, Khazaie H, Brand S. 2D:4D-ratios among individuals with amphetamine use disorder, antisocial personality disorder and with both amphetamine use disorder and antisocial personality disorder. J Psychiatr Res. 2023 Dec 11;170:81-89. doi: 10.1016/j.jpsychires.2023.12.004. Epub ahead of print. PMID: 38113678.

 

 

「百薬の長」としての適量

 

「百薬の長」という表現は、一般的に「酒」を指す言葉として使われます。

この成句は、中国の古典文学にその起源を持ち、特に「酒は百薬の長」という形で引用されることが多いです。

この言葉の出典は、『後漢書』にある「杜康伝」に遡ります。

『後漢書』は中国の東漢時代を記録した歴史書で、その中の「杜康伝」は、伝説的な酒造りの祖とされる杜康について語った部分です。

そこでは、杜康が酒を造り、その酒が人々に愛されたことが記されています。

そして、「酒は百薬の長」という言葉は、酒が多くの薬よりも優れた効能を持つという意味で使われました。

ただし、この表現はあくまでも比喩的なものです。

日常生活において「百薬の長」という表現は、酒の楽しみやその持つ独特の価値を指す際に用いられますが、医学的な観点からはその使用に慎重さが求められます。

特に、過剰な飲酒が健康に及ぼす悪影響は多くの研究で示されています。

昨年3月に、日常的なアルコール摂取と全死因死亡リスクとの関連について調査した研究が報告されました。

1980年から2021年までに発表された107件のコホート研究を分析し、484万人以上の参加者と42万5000件以上の死亡を含んでいます。

論文では、「低量」のアルコール摂取を1日あたり約15グラム以下と定義しています。

これは標準的な日本のビール中瓶(約500ml)1本未満、またはワイン1杯(約150ml)未満に相当します。

「中量」摂取は、1日15~30グラム、つまりビール中瓶1本から2本未満、またはワイン1~2杯に相当します。

論文の分析によると、これらの摂取量では全死因死亡リスクに有意な影響は観察されませんでした。

しかし、女性の場合、アルコールを飲むことが全死因死亡リスクを増加させる可能性が示唆されています。

具体的には、女性飲酒者の死亡リスクは、非飲酒者と比較して約7%高かったとされていました。

 

元論文はこちら:

Zhao J, Stockwell T, Naimi T, Churchill S, Clay J, Sherk A. Association Between Daily Alcohol Intake and Risk of All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-analyses. JAMA Netw Open. 2023 Mar 1;6(3):e236185. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.6185. Erratum in: JAMA Netw Open. 2023 May 1;6(5):e2315283. PMID: 37000449; PMCID: PMC10066463.

 

 

炎症とソーシャルメディアの使用

 

最近の研究によると、ソーシャルメディアの使用と体内の炎症レベルに興味深い関連があることが明らかになりました。

C反応性タンパク質(CRP)は炎症レベルの測定に使用されるマーカーですが、炎症レベルが高い人は、ソーシャルメディアをより頻繁に使用する傾向があることがわかりました。

炎症は、心臓病からリウマチ性関節炎に至るまで、多くの健康状態に関連しています。

心理学的なレベルでは、全身性の炎症が特に社会的なつながりに影響を与える可能性があると以前の研究で示唆されています。

これは進化の観点から理にかなったものですね。

私たちの祖先が感染症に直面したとき、生存のチャンスを高めるために社会的なつながりを求めるようになったのかもしれません。

つまり、孤立していたら生き残れないわけです。

しかし、今日のデジタル化された世界では、ソーシャルメディアプラットフォームがこれらの「つながり」の重要な手段となっています。

研究者たちは、524人のカナダの大学生を対象に3つの研究を行い、C反応性タンパク質(CRP)のレベルを測定するための血液サンプルを提供してもらい、ソーシャルメディアの使用習慣に関するアンケートに回答してもらいました。

このアプローチによって、炎症マーカーとオンラインの社会的行動との直接的な関連を測定することができました。

性別、性格特性、うつ症状などの潜在的な交絡変数を調整した後も、明確なパターンが浮かび上がりました。

C反応性タンパク質(CRP)のレベルが高い学生は、より頻繁で長時間のソーシャルメディアの使用を報告していました。

つまり、炎症が多い参加者は、本能的な社会的つながりのニーズを満たすために、現代の方法としてソーシャルメディアにより引き寄せられているようです。

これらの発見は、私たちの生理的状態とデジタル行動との間に以前は認識されていなかった関連性を明らかにしています。

この研究は、ソーシャルメディアの使用に影響を与える要因を理解する上で、内部の生物学的手がかりの役割が今後ますます重要な研究領域になる可能性を示しています。

しかし、この研究は相関関係を示しているだけで、炎症が直接的にソーシャルメディアの使用を増加させるという証拠ではありません。

また、3つの個別の研究の結果を組み合わせているため、直接的な比較を行う際には課題があります。

研究はソーシャルメディアの使用を広く測定していますが、個々のプラットフォームでの特定の行動については詳細に調査していません。

この研究は、「炎症はソーシャルメディアの使用を予測できるか?大学生と中年成人における生物学的マーカーとソーシャルメディアの使用の関連」というタイトルで、バッファロー大学のデイビッド・リー、ノースウェスタン大学のタオ・ジャン、オハイオ州立大学のジェニファー・クロッカーとボールドウィン・ウェイによって執筆されました。

 

元論文はこちら:

Lee DS, Jiang T, Crocker J, Way BM. Can inflammation predict social media use? Linking a biological marker of systemic inflammation with social media use among college students and middle-aged adults. Brain Behav Immun. 2023 Aug;112:1-10. doi: 10.1016/j.bbi.2023.05.010. Epub 2023 May 22. PMID: 37224891.

 

 

「停滞のパラドックス」

 

進化は、時には速く、時には遅く進みます。

このシンプルだけれども複雑な現象は、長年にわたり生物学者たちを悩ませてきました。

しかし、最近のある研究が、この謎を解き明かす手がかりを提供しています。

その鍵となるのは、アメリカ合衆国原産の緑色のアノリス属のトカゲ、Anolis carolinensisです。

この研究は、ジェームズ・ストラウド博士によって指揮されました。

彼はマイアミの小さな島でアノリス属のトカゲを数年間にわたって研究してきました。

これらのトカゲは何千年もの間、ほとんど進化していないように見えました。

しかし、ストラウド博士が発見したのは、一世代の間にも変化が見られるという事実でした。

ある季節には短い脚を持つトカゲが生き残り、次の季節には大きな頭を持つものが有利になることもありました。

この研究は、長期的には安定しているように見える特徴が、短期的には変動するという、進化生物学の「停滞のパラドックス」に光を当てています。

長期的には、安定化選択と呼ばれるプロセスによって、中間的な特徴が好まれると考えられていました。

しかし、短期的には、極端な特徴を好む方向選択が働くことがあります。

ストラウド博士は、4種のトカゲを3世代にわたって追跡することで、短期的な変動選択から長期的な停滞のパターンが生じることを示しました。

彼の研究は、短期的な変動が長期的な安定性につながる方法を説明しています。

この発見は、進化がどのようにして長い時間をかけて進行するかについての新たな理解を提供しています。

短期的な変動があっても、全体としては安定したパターンになるということです。

これは、進化生物学における大きな謎の一つに対する答えを提供するものです。

この研究は、進化が常に一定の速度で進むわけではなく、環境や他の要因によって速度が変わることを示しています。

長期的な視点から見ると、生物の特徴はほとんど変わらないように見えるかもしれませんが、実際には短期的な変動が常に存在しているのです。

このように、アノリス属のトカゲを通じて、進化の複雑さと美しさが明らかになりました。

生物学のこの分野における今後の研究が、さらに多くの驚きと発見をもたらすことを期待しています。

 

元サイト:

Evolution: Fast or Slow? Lizards Help Resolve a Paradox.

 

Male Anolis carolinensis

 

「モーニングページ」

極論ですが、一日の始まりに何をするかで、その日の「質」が決まるような気がしています。

私の場合、たいていはコーヒーを飲んだり、スマホのニュースをチェックしたりしているのですが、なんとなく、それが「いい感じでない」気もしていました。

要するに、「何をするか」の問いに、うまく応えていないのですね。

新年を迎えたことだし、何か新しい習慣をはじめたいと思ったのも、そういう流れがあったからです。

そこで、思い出したのが「モーニングページ」でした。

モーニングページは、ジュリア・キャメロンの著書「The Artist’s Way」に基づいた習慣で、毎朝自由にノートに思いを書き留めることです。

実は、「モーニングページ」は、このブログで以前に紹介していたものでした。

こちら→ 「モーニング・ページ」

 

モーニングページは、単に書き記すこと以上の意味を持ちます。

それは、内なる声に耳を傾け、日々のストレスや創造的なブロックから解放される手段となります。

では、どうやってモーニングページを書き始めたらいいのでしょうか?

ポイントは「ペンを持った手を動かし続けること」です。

思考を巡らせず、ただ書くのです。

このプロセスは、自己検閲を回避し、心の中にある思考や感情を自由に表現することを可能にします。

例えば、何も書くことが思い浮かばなくて心が空白になった時には「and so it goes(それでいいのだ)」と繰り返し書くことで、ペンを止めない工夫があります。

この習慣は、単に書くこと以上のものをもたらします。

書くことによって、私たちは自分自身の内面を探求し、新たなアイデアやインスピレーションを見つけ出すことができます。

また、日々の反省や自己評価にも役立ちます。

モーニングページは、自分自身に正直になる機会を提供します。

この習慣を日常に取り入れることで、創造的な「筋肉」を鍛えることもできます。

例えば、平日の朝にモーニングページを書き、週末は休息を取っても良いのです。

もしも朝の時間を少し変えてみることができたら、モーニングページは素晴らしい選択かもしれません。

そう思って、実は、元旦から始めてみたのでした。

  

 

腎臓の検査と心疾患のリスク

この世にあるものは、時に、見えない糸で結ばれた複雑なパズルに例えられることがあります。

「健康」についてもそうです。

私たちはその一部を見て、全体を理解しようとします。

例えば、最近の研究によれば、尿中のアルブミンとクレアチニンの比率(UACR)が、心血管の健康と全死因死亡率に密接に関連していることが分かりました。

 

元論文はこちら→

Mahemuti N, Zou J, Liu C, Xiao Z, Liang F, Yang X. Urinary Albumin-to-Creatinine Ratio in Normal Range, Cardiovascular Health, and All-Cause Mortality. JAMA Netw Open. 2023;6(12):e2348333. Published 2023 Dec 1. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.48333

 

この研究では、約24,000人の成人を対象に、UACRがどのように健康状態に影響を与えるかを調べました。

UACRは、通常は腎機能の指標として使われますが、この研究では、心血管の健康度合いとの関連が明らかにされました。

興味深いことに、心血管の健康状態が良好な人々では、UACRの高さが死亡リスクにそれほど影響を与えませんでした。

しかし、心血管の健康状態が不良な人々の中で、UACRが高いと死亡リスクが顕著に増加することが見られました。

これは、健康は単一の数値ではなく、体の様々な要素が複雑に絡み合って形成されるという事実を物語っています。

これは、腎機能の評価が単に腎臓の健康だけでなく、心血管系の健康にも重要であることを示しているものです。

また、心血管疾患のリスクが高い人々にとっては、早期の腎機能評価が特に重要であることを強調しています。

このような研究を通して、私たちは健康というパズルの一片を解き明かしていくことになります。

 

「共有意思決定(Shared Decision Making : SDM)」について

 

今日の話題は「共有意思決定(Shared Decision Making : SDM)」について。

SDMは、患者と医療提供者が、治療の選択を、「共同で」意思決定するプロセスのことを言います。

このプロセスは、患者の自己決定権を尊重し、個々の価値観や好みに基づいた医療を実現するための重要な手段とされています。

こう言うと「患者が決定権を持つのは当たり前じゃないか」と思うかも知れませんね。

けれども、医者と対峙した実際の場面を想像してみてください。

「私は医学のことをよく知らないし、先生もああ言っているし、よくわからないけど言われた通りにしておこうかな。」

そう思ってしまうのが大部分ではないでしょうか。

SDMは、患者が自分自身の健康に関する意思決定に積極的に関与することを奨励しています。

加えて、医療提供者は適切な情報を提供し、患者の価値観を尊重します。

しかし、SDMの実施度合いを評価する標準化された方法はまだ確立されていないのが実情です。

また、このアプローチには限界や課題も存在します。

まず、SDMは患者の健康リテラシーや情報理解能力に大きく依存してしまいます。

医療情報の複雑さや専門性が高い場合、患者が十分な理解を得ることが困難な場合があります。

特に、医療知識が乏しい患者や高齢者、言語的・文化的障壁がある患者にとって、SDMのプロセスはより複雑で難解になります。

加えて、医療提供者の時間的、資源的な制約もSDMの実施に影響を及ぼします。

十分な時間を確保して患者との対話を行うことは、忙しい臨床現場では常に可能ではありません。

この結果、SDMは理想的な状況では有効ですが、実際の医療現場ではその実施が制限されることもあります。

さらに、患者と医療提供者の間の価値観の違いや、患者の個人的な意向が治療方針と矛盾する場合、SDMのプロセスは複雑化します。

患者の希望が医学的に最適な選択ではない場合、医療提供者は患者の自己決定権を尊重しつつ、最良の医療を提供するためのバランスを見つける必要があります。

これらの課題に対処するためには、医療提供者と患者の「双方の」教育や支援が不可欠です。

患者の健康リテラシーを向上させる教育プログラムや、医療提供者のコミュニケーション技術の向上は、SDMの有効性を高めるための大きな鍵となります。

また、SDMを支援するためのツールやガイドラインの開発も重要です。

SDMは、患者中心の医療を実現するための強力な手段ですが、その実践には多くの課題が伴います。

SDMは、決して新しい概念ではなく、そのコンセプトは1990年代にさかのぼり、多くの国で発展してきたものですが、まだ十分に普及しているとは言えません。

 

元論文:

Bouniols N, Leclère B, Moret L. Evaluating the quality of shared decision making during the patient-carer encounter: a systematic review of tools. BMC Res Notes. 2016 Aug 2;9:382. doi: 10.1186/s13104-016-2164-6. PMID: 27485434; PMCID: PMC4971727.