認知症リスクの指標としての血圧変動性(BPV)と心拍数変動性(HRV)

 

心臓と脳の関係は、とても重要です。

心臓の働きが脳の健康にどのように影響を与えるかを明らかにしようとした研究があります。

認知症リスクの指標として血圧変動性(BPV)と心拍数変動性(HRV)についての研究です。

血圧変動性 (BPV) と心拍数変動性 (HRV) は、どちらも心臓と血管の健康を表す指標ですが、見ているポイントが少し違います。

血圧変動性 (BPV)は、血圧がどれだけ上下に動くかを表します。

血圧は常に変動していますが、健康な人は比較的安定していて、大きな上下動はありません。

逆に、血圧が大きく上がったり下がったりする人は、BPVが高いと言えます。

BPVが高いと、動脈硬化や心臓・血管の負担が大きくなり、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高くなる可能性があります。

心拍数変動性 (HRV)は、心拍の間隔がどれだけ変動するかを表します。

心臓は自律神経の働きで心拍を調節していますが、健康な人は自律神経のバランスが取れていて、心拍の間隔も変動しています。

逆に、自律神経が乱れている人は、心拍が一定になりすぎて変動が少なくなったり、バラバラになったりします。

HRVが低いと、自律神経の乱れを反映し、こちらも動脈硬化や心臓・血管の負担が大きくなり、リスクが高くなる可能性があります。

簡単に言うと、BPVは血管の安定性、HRVは自律神経の働きを反映しています。

 

さて、認知症リスクの指標として、まず、BPVの重要性についてです。

従来、認知症リスクの予測にはHRVが用いられていました。

最近の研究ではBPVの方がより強い予測指標であることが示唆されています。

研究方法として、平均年齢54.9歳の44,730人の参加者を対象に、平均15.4回の血圧測定を行いました。

その結果、BPVとHRVを同時にモデルに含めた分析で、BPVがADRD(認知症関連疾患)との関連が強いことが明らかになりました。

特に注目すべきは、収縮期のBPVが認知症発症と関連していた点です。

一方、HRV単独では認知症リスクとの関連は確認されませんでした。

これは、BPVが心血管系だけでなく、自律神経系の健康状態を示す可能性があることを示唆しています。

この研究の意義と将来の展望です。

認知症は急速に増加している問題ですが、この研究は臨床現場での認知症リスクをスクリーニングをすることにおいて、BPV単独の使用が有望であることを示しています。

これは、性別や人種を問わず一貫した結果で、より広範な患者層へのスクリーニングが可能になるかもしれません。

 

元論文:

Ebinger JE, Driver MP, Huang TY, Magraner J, Botting PG, Wang M, Chen PS, Bello NA, Ouyang D, Theurer J, Cheng S, Tan ZS. Blood pressure variability supersedes heart rate variability as a real-world measure of dementia risk. Sci Rep. 2024 Jan 22;14(1):1838. doi: 10.1038/s41598-024-52406-8. PMID: 38246978.

 

 

モチベーションの不思議

 

ある目標に向かって一歩を踏み出したとします。

しかし、期限が近づくにつれ、なぜか気が重くなって「そこ」から遠ざかってしまう。

なぜ「やる気」とか「モチベーション」はこんなにも簡単に揺らいでしまうのでしょうか。

心理学者は、「モチベーション」の定義を、特定の行動を始め、維持するための欲求や推進力としています。

つまり、何かをするためのエネルギーの源です。

このエネルギーの源を理解することは、モチベーションを維持する方法を知る上で重要なカギになります。

モチベーションは大きく二つに分けられます。

「内発的」と「外発的」のモチベーションです。

内発的モチベーションは、活動自体に喜びを感じるときのもの。

例えば、ゲームやスポーツ観戦などのような趣味に高じているときなどはそうですね。

一方、外発的モチベーションは、ある目的を達成するために行動するときのものです。

体重コントロールをするためにスポーツをしたり、歯を清潔に保つために歯医者に行ったりすることなどは、この外発的モチベーションの例です。

外発的モチベーションの場合が、目的のために行動するので、長続きしそうですが、実はその効果は意外と短期間のことが多いようです。

2017年の研究では、新年の抱負を達成する目標を立てた人で、結果にこだわっている人は、目標を継続する可能性が低いことが明らかになりました。

これは、私たちがどのようにモチベーションを維持するかについて考える上で重要な意味を持ちます。

一方で、内発的モチベーションは長続きする可能性が高いとされています。

ですから、内発的モチベーションをどのように育むかが鍵となるでしょう。

しかし、単純に内発的または外発的に動機づけられることは稀です。

例えば、古代エジプトの文化に興味がある場合、歴史を勉強することは内発的なモチベーションから来るものです。

しかし、歴史の試験で良い成績を取るための勉強や、家族からのプレッシャーなどの外発的な動機も働く場合もあります。

ところが、たくさん動機があれば強力になるわけではなく、複数の動機があることが必ずしも良いわけではないようです。

例えば、内発的な動機と外発的な動機の両方に駆り立てられるアメリカの軍学校の生徒は、一方の動機のみに導かれる生徒よりも全体的にモチベーションが低いことがわかっています。

モチベーションを見つけることは難しいかもしれませんが、いくつか高める方法は考えられています。

タスクをもっと楽しくすること。

友人を誘ったり、好きなプレイリストを聴きながら取り組んだりすること。

「何のために」と目的を考えるよりも、自分の楽しいと思うことにいかにリンクさせるかが鍵になりそうですね。

 

 

「必要な不快感」と「不必要な不快感」

 

どの分野でもそうなのでしょうが、特に医学や医療の分野は、知識と技術だけでなく、心の強さも求められます。

そして、最近の医学教育のありようは、かつてとは大きく異なるものになりつつあるのを感じています。

例えば、私がインターンだった頃は、研修医1年目としての日常業務に没頭するしかありませんでした。

患者のその日の検査結果を集め、それをカルテに貼り付け、患者の主治医(ファーストレジデント)に最新情報を伝えるといった「スカットワーク(雑務)」です。

しかし、現在では、これらのスカットワークが教育的価値が低いと見なされ、その重要性や必要性について異なる見解が生まれています。

一部の研修医や教育者は、このような仕事が医学教育において重要な役割を果たすと考えていますが、他の一部は、こうした業務が本質的な学習体験から注意をそらすと考えています。

医学教育の文化は確実に変化していっています。

かつては当たり前だった教育の側面が、今では精神的健康を害すると見なされています。

この変化は、医学分野に限らず、より広い社会的な文化的変化の反映でもあります。

例えば、指導医が学生や研修医に対して否定的なフィードバックを避けるようになったりしています。

このような傾向は、医療教育の質にも影響を与えており、医学生や研修医が実際の医療現場で直面する困難に対処する能力の育成に必要な経験や挑戦が減少する可能性があります。

また、医学生や研修医が過剰なストレスや圧力にさらされることなく、必要なスキルや知識を身につけるための適切なバランスを見つけることが、今後の医学教育の重要な課題となるでしょう。

こうした状況は、医学教育における「必要な不快感」と「不必要な不快感」を区別することの重要性を浮き彫りにしています。

確かに、過度なストレスや不当な要求は避けるべきですが、一方で医療の現場は常に困難に満ちています。

これらを乗り越えるための訓練もまた必要です。

医学教育の現状について、明確な結論を出すことは難しいかもしれません。

しかし、医学教育の質を維持しつつ、研修医の健康を保護するためには、このような区別を正しく行うことが不可欠であると言えるでしょう。

医学教育は常に進化し続けるものです。

新しい世代がその規範を形作る中で、適切なバランスを見つけることが、私たちの共通の課題となるでしょう。

 

元論文:

Rosenbaum L. Being Well while Doing Well – Distinguishing Necessary from Unnecessary Discomfort in Training. N Engl J Med. 2024 Jan 17. doi: 10.1056/NEJMms2308228. Epub ahead of print. PMID: 38231543.

 

ポリファーマシーについて

 

高齢化社会が進む中、複数の多くの薬を長期にわたって服用する「ポリファーマシー」という状況が問題視されています。

この状況は、増加する医療費や患者のQOL(生活の質)の低下に直結しているため、医療界では以前から注目されているものです。

最近の研究では、ポリファーマシーに関連するリスクとして、死亡率の上昇、転倒、入院、機能的および認知的低下が指摘されています。

特に、高齢者の間でこれらのリスクが顕著になる傾向があります。

この問題に対処するために様々な介入方法が試みられています。

例えば、薬剤の見直しや患者との面談を含む積極的な薬剤レビューなどが行われています。

しかし、これらの介入の効果は必ずしも一貫しているわけではありません。

研究の結果は混在しており、救急外来への受診や入院の減少を示すものもあれば、効果が見られないとするものもあります。

このように、ポリファーマシーへの介入の効果は、その内容や対象とする患者層によって異なることが示されています。

さらに、転倒や入院の減少に関しても、有効な証拠は限定的です。

多くの研究レビューでは、これらのイベントとの関連性は見られず、結果は混在していることが多いのです。

このような状況を鑑みると、ポリファーマシーに対するより効果的な介入方法を見つけるためには、さらなる研究が必要といえます。

特に、多病を持つ高齢者における介入の効果については、今後の研究において重要なテーマとなるでしょう。

ポリファーマシーの問題は、単に薬剤の数を減らすことだけでは解決しない複雑なものです。

患者一人ひとりの状況に応じた、個別化されたアプローチが必要とされています。

医療提供者は、患者の生活の質を高め、無用なリスクを避けるためにも、この問題に対して敏感である必要があります。

 

元論文:

Keller MS, Qureshi N, Mays AM, Sarkisian CA, Pevnick JM. Cumulative Update of a Systematic Overview Evaluating Interventions Addressing Polypharmacy. JAMA Netw Open. 2024 Jan 2;7(1):e2350963. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.50963. PMID: 38198136; PMCID: PMC10782233.

 

 

老化に備えることは自分を大切にすること

 

私たちは皆、歳を取ることについて考えます。

古代から現代に至るまで、人類は老化をどうしたらコントロールできるかについて考え続けてきました。

そして、最近の科学の進歩によって、老化のプロセスについての理解が進むにつれて、老化を単に悪と見るのではなく、内外から健康に老化することの可能性に目を向けるべきだとする主張が多くなってきました。

特に重要なのは、生活様式と身体活動です。

日々の運動は、老化に伴うさまざまな認知の問題を減少させることが知られています。

筋肉の衰えやサルコペニア(筋肉減少症)など、老化に伴う身体の問題に対しても、運動は有効です。

これらの活動は、年齢と共にますます重要になります。

そして、寿命(生まれてから死ぬまでの時間)と健康寿命(健康な状態で生きている時間)の違いを理解することが重要です。

私たちの目標は、ただ長生きすることではなく、質の高い生活を長く維持することです。

また、ストレスは悪者と見なされがちですが、実際には私たちを強くするために設計されています。

適度な身体的ストレスは、骨や筋肉を強化し、老化に伴う機能低下を防ぐために重要です。

老化は避けられないプロセスですが、私たちの生活様式の選択によって、そのプロセスをより健康的で幸福なものにすることができます。

私たちが毎日行う小さな選択が、長い目で見ると大きな差を生みます。

老化とは、単に年齢を重ねること以上の意味を持ちます。

それは私たちがどのように生きるか、どのように自分自身を大切にするかについての実践だと言えます。

 

 

「膝の痛み」について

 

今日のお話は私の専門外なので恐縮ですが、一般の症状として非常に多い「膝の痛み」についてのお話をします。

膝の痛みは、大きく3つの状態に分けられます。

つまり、膝の変形性関節症、膝蓋骨痛、半月板損傷です。

膝の変形性関節症は、世界で約6億5400万人が影響を受けており、成人の約12%が症状を抱えています。

膝蓋骨痛は、40歳未満の若い人々、特に身体的に活動的な人々に多く見られ、一生のうち約25%の人が経験します。

半月板損傷は、年齢に応じて異なる疫学を持ち、成人の約12%に見られます。若年者では急性の外傷、高齢者では変性の損傷が多く見られます。

これらの症状の診断は、臨床的な診察に重点を置いています。

膝の変形性関節症は、45歳以上の人が活動に関連する痛みと朝のこわばりを経験する場合に診断されます。

膝蓋骨痛は、しゃがむ動作中の前膝の痛みによって診断され、半月板損傷は、マクマレー検査と関節線の圧痛によって診断されます。

治療法には、症状に応じて異なるアプローチがあります。

変形性関節症では、リハビリ、身体活動の促進、体重管理、自己管理プログラムへの参加が推奨されます。

膝蓋骨痛では、股関節と膝の筋力トレーニング、足の装具や膝蓋骨テーピングが行われます。

半月板損傷では、運動療法が主に行われます。

薬物療法としては、抗炎症薬が一般的ですが、高齢者では副作用のリスクが高まるため注意が必要です。

アセトアミノフェンは効果が限定的であるため推奨されなくなっています。

オピオイドは、依存や乱用のリスクがあるため、一般的には推奨されていません。

最終的には、膝の変形性関節症で重症の場合には、膝の全置換手術が検討されます。

しかし、手術後に症状が改善しない人も15〜20%いるため、手術は慎重に選択されるべきだと言われています。

肥満や心理的問題がある場合、手術の成功率に影響を与える可能性があります。

膝の問題は、私たちの生活の質に大きな影響を与えるため、正しい知識と適切な治療法の理解は不可欠です。

 

 

低用量カルシウムサプリメントの妊娠高血圧腎症の予防

 

妊娠中の女性の健康管理は、医療の分野で常に重要なテーマです。

特に、以前には「妊娠中毒症」と呼ばれていた妊娠高血圧腎症(別名:子癇)のリスクを減らすための効果的な方法を見つけることは、多くの研究者の関心事となっています。

この文脈で、2024年1月11日に『New England Journal of Medicine』に掲載された興味深い研究があります。

その研究は、「妊娠中の低用量カルシウムサプリメントの二つのランダム化試験」に関するもので、インドとタンザニアで行われました。

世界保健機関は、妊娠高血圧腎症のリスクを減らすために、低カルシウム摂取量の人口に対して、妊娠中のカルシウムサプリメントの日量1500mgから2000mgを推奨しています。

しかし、この高用量のサプリメントは、複雑な投与法とコストが高いために、実際に行われるかというとそうではありませんでした。

そこで、この研究は、500mgの低用量と1500mgの高用量のカルシウムサプリメントの効果を比較しました。

各試験では、11,000人の初産婦が参加しました。

主な目的は、500mgの低用量が1500mgの高用量に対して劣らないことを確認することでした。

その結果、インドでの妊娠中毒症の発生率は500mgグループで3.0%、1500mgグループで3.6%であり、タンザニアでも同様の結果が得られました。

この研究の意義は大きいです。

なぜなら、より低い用量のカルシウムサプリメントでも妊娠中毒症のリスクを減らすのに効果的であり、さらに、より実施しやすく、コストも抑えられる可能性があるからです。

これは、特に資源が限られた地域において、妊婦の健康管理における新たな選択肢を提供することを意味します。

また、サプリメントの投与量が少なくなることで、服用のしやすさが向上し、より多くの妊婦がこの健康対策を受け入れる可能性があります。

しかし、この研究にはいくつかの限界も存在します。

妊娠期間の推定方法には、最終月経期と胎児超音波を用いていますが、これには一定の測定誤差や分類誤りが生じる可能性があります。

また、事前の妊娠損失や早産のケースを除外した分析も行われており、これによる影響も考慮する必要があります。

この研究は、妊娠中の女性の健康管理における新しい知見を提供しています。

低用量のカルシウムサプリメントが、より実施しやすく、コスト効果的な選択肢である可能性を示しています。

これにより、妊娠中毒症のリスクを減らすための新しい戦略として、世界中の妊婦にとって有益な選択肢となるかもしれません。

特に、資源が限られた環境においては、効果的かつ実行可能な健康戦略の選択に大きな影響を与える可能性があります。

元論文はこちら:

Dwarkanath P, Muhihi A, Sudfeld CR, Wylie BJ, Wang M, Perumal N, Thomas T, Kinyogoli SM, Bakari M, Fernandez R, Raj JM, Swai NO, Buggi N, Shobha R, Sando MM, Duggan CP, Masanja HM, Kurpad AV, Pembe AB, Fawzi WW. Two Randomized Trials of Low-Dose Calcium Supplementation in Pregnancy. N Engl J Med. 2024 Jan 11;390(2):143-153. doi: 10.1056/NEJMoa2307212. PMID: 38197817.

 

目標は「何をする!」に置き換える

 

今回のお話は新年の決意に関する面白い研究です。

この研究は、人々が新年に立てる目標の成功率について、特に「アプローチ指向の目標」対「回避指向の目標」という観点から分析しています。

この研究はスウェーデンのストックホルム大学などの研究者によって行われました。

参加者は1066人の一般の人々です。

彼らは「サポートなし」、「少量のサポート」、「拡張サポート」の3つのグループに分けられました。

最も一般的な決意目標は、身体的健康、体重減少、食生活の改善に関連していました。

一年後の追跡調査では、全体の55%の参加者が自分の決意を維持できたと考えていました。

特に注目すべき点は、「アプローチ指向の目標」を持つ人々が「回避指向の目標」を持つ人々よりも成功率が高かったことです。

アプローチ指向の目標は、例えば「もっと運動する」といった肯定的な行動を促すもので、成功率は58.9%でした。

一方で、回避指向の目標は「喫煙を減らす」「無駄遣いをなくす」などの、ある否定的な行動を避けることに焦点を当てたもので、その成功率は47.1%でした。

グループ間での比較では、ある程度のサポート(目標設定に関する情報やエクササイズを含む)を受けたグループが最も高い成功率を示しました。

これは、適度なレベルのサポートが、過剰なサポートや全くのサポートなしよりも効果的であることを示しています。

この研究は、目標の指向性が新年の決意の成功に重要であることを強調しています。

つまり、「〇〇をやめるぞ!」という目標よりも「〇〇をやるぞ!」という目標の方がいいのです。

例えば、「ゲームの時間を減らす」よりも「本を毎日読む」という表現に置き換えた方がよいというわけです。

新年の決意は、単なる風習ではなく、行動変容を促進する潜在的な手段として捉えることができます。

効果的な目標設定に関する情報やエクササイズが成功率に影響を及ぼす可能性があることが示されています。

 

元論文はこちら:

Oscarsson M, Carlbring P, Andersson G, Rozental A. A large-scale experiment on New Year’s resolutions: Approach-oriented goals are more successful than avoidance-oriented goals. PLoS One. 2020 Dec 9;15(12):e0234097. doi: 10.1371/journal.pone.0234097. PMID: 33296385; PMCID: PMC7725288.

 

 

「禅」への憧れ

私のブログを読まれている方は薄々勘づいておられると思いますが、私は「禅」に憧れがあります。

まず、禅の基本は「サンガ」、つまり「コミュニティ」です。

これは、私たちが他者との関係性を通じて自己と相手を理解することが可能となるためです。

禅と言ったら、すぐに瞑想をイメージするかも知れません。

けれども、瞑想だけでなく、日常生活の中でつながる人との関わりは、自己を理解する鍵です。

それらを含めた禅の実践が、私の人生観や振る舞い、患者との関わり方に大きな影響を与えているのだと思います。

次に述べるのは、禅に対する私なりの理解なので、多少ずれていると思いますが、どうか鵜呑みになさらず、読んでください。

私が思う禅の中心的な教えは「無常」の概念です。

すべてが常に変化しており、何も永遠には持続しないという考え方です。

これは一見恐ろしく感じられるかもしれませんが、実は大きな安堵感をもたらします。

私たちはしばしば自分自身や世界に対して固定観念を持ちがちですが、無常の真理を受け入れることで、これらの固定観念から解放されます。

すべてが変わりゆくことを理解すると、他者への共感も深まります。

また、「四諦」についても触れなければなりません。

これは、生きることの苦しみや不満足を理解し、それらと共存する方法を提案するものです。

禅は、苦しみから逃れるのではなく、それと向き合い、受け入れることを教えます。

これは人間関係の調和においても重要な要素です。

さて、「マインドフルネス」についてですが、これは現在の瞬間に意識を向けるシンプルな実践です。

例えば、今この瞬間に感じるイスの感触や空気の温度に意識を集中することです。

マインドフルネスは、日々の生活の中でいつでも実践できるものです。

次に、禅は「執着」について教えています。

固定観念に固執することを避け、より柔軟な考え方を受け入れることが、苦しみを減らす鍵となります。

これは人間関係においても同じで、他者を自分の思い通りにしようとするのではなく、彼らをありのままに受け入れることが大切です。

また、「慈悲の心」の概念も代表的なものです。

これは、他者に対する思いやりや平和を願う実践を通じて、自分自身の苦しみや怒り、不安な思いにも気づき、共感と愛情を育むプロセスです。

例えば、瞑想中に「あなたが幸せでありますように」と心の中で唱えることで、他者への感情が変わっていきます。

最後に、禅における「初心者の心」という教えがあります。

これは、自分が持つ確固たる物語や先入観を手放し、常に新鮮な視点で物事を捉えることを意味します。

初心者の心を持つことで、人間関係においても新たな発見や交流が生まれます。

禅の教えが私たちの日常生活、特に人間関係の理解と深化にどのように役立つかに思いを馳せます。

無常の理解、苦しみとの共存、マインドフルネス、執着の手放し、慈悲の心、初心者の心といった禅の教えは、私たちがより平和で満ち足りた人生を送るための貴重なツールとなります。

日々の生活の中でこれらを実践することで、私たちは自分自身だけでなく、周囲の人々にもより深い理解と共感を示すことができるようになります。

だからこそ、私は「禅」に憧れるのです。

もちろん、なかなか実践できているわけではないのですが。

 

 

人差し指と薬指の長さの不思議

 

人間の身体は、内面を映し出す鏡のようだと言われることがあります。

手相や人相占いなどは、その代表のようなものですね。

ほかにも、例えば、ネットの広告などで「指の長さでわかる〇〇」という文字を見たことがあります。

そのほとんどがブログやニュースなどの記事の途中に挟まっているものなので、そのままスルーしているのですが、結構よく見ます。

あれは、人差し指と薬指の長さを比べて、どちらかが長かったり短かったりしたら、あなたの〇〇がわかるというような感じの内容だったと思います。

実は、以前から、人差し指(2D)と薬指(4D)の長さの比率、一般に2D:4D比率として知られるものが、さまざまな行動や性格特性の指標である可能性が示されていたのですね。

実は、花びら占いのようにほとんど根拠がないわけではないものなんです。

この比率は、胎児が子宮内でさらされるテストステロンとエストロゲンのレベルに影響されると考えられています。

テストステロンがエストロゲンに対して高いほど、2D:4D比率は低くなり、一般的に薬指が人差し指に比べて長くなります。

研究者たちはこの指の長さの比率が特定の精神障害や性格特性とどのように相関するかを深く理解することを目指しました。

それが、今日紹介する論文の内容です。

研究の主な焦点は、アンフェタミン使用障害(AUD)、反社会性人格障害(ASPD)、両方を持つ個体(AUD + ASPD)、および健康な個体のコントロールグループに診断された個体でした。

ここで言うアンフェタミン使用障害(AUD)とは、アンフェタミンの過剰使用や依存性に関連する問題です。

アンフェタミンは、中枢神経系(CNS)の興奮剤で、ADHDや睡眠障害の治療に使用されますが、誤用すると様々な副作用や健康被害が起こります。

さて、研究者たちは、研究のために80人の参加者を募集しました。

これらは、臨床診断を受けた44人の個体(AUD 25人、ASPD 10人、両方を持つ9人)と、36人の健康なコントロールからなる2つの主要なグループに分けられました。

参加者は研究の目的と目標について十分に情報を提供され、機密性が保証されました。

同意を得た後、参加者は詳細な社会人口統計情報を提供し、心理的評価を受けました。

さらに、右手のひらのスキャンが行われ、人差し指と薬指の長さが正確に測定されました。

その結果、臨床群の参加者は健康なコントロール群に比べて、顕著に低い2D:4D比率を示しました。

これは、AUD、ASPD、特に両方の状態を持つ人々は、人差し指に比べて薬指が長い傾向があることを示していました。

さらに、この研究では、低い2D:4D比率が、ダークトライアド特性(マキャベリズム、ナルシシズム、サイコパシーの組み合わせ)の高いスコアと関連していることが見出されました。

これは、出生前のホルモン暴露がこれらの社会的に不快な特性と関連している可能性を示しています。

しかし、脆弱なナルシシズムや不確実性への耐性の測定と2D:4D比率の間には有意な相関は見られませんでした。

この研究の結果は、2D:4D比率という単純な身体的測定が、特定の性格特性や脆弱性を予測するための非侵襲的バイオマーカーとして使用される可能性を示しています。

ただし、この研究にはいくつかの限界があります。

サンプルサイズが比較的小さく、一つの精神医療施設の参加者に限定されているため、結果の一般化には制限があります。

また、健康なコントロール群からの包括的な心理学的データが欠けているため、臨床群と非臨床群の比較が完全ではありません。

この研究は、出生前の環境が、成人期の行動や性格に長期的な影響を与える可能性があることを示しています。

しかし、これらの発見が個々の行動や性格を完全に説明するものではなく、多くの要因が複雑に絡み合っていることを忘れてはなりません。

 

元論文はこちら:

Hashemian SS, Golshani S, Firoozabadi K, Firoozabadi A, Fichter C, Dürsteler KM, Brühl AB, Khazaie H, Brand S. 2D:4D-ratios among individuals with amphetamine use disorder, antisocial personality disorder and with both amphetamine use disorder and antisocial personality disorder. J Psychiatr Res. 2023 Dec 11;170:81-89. doi: 10.1016/j.jpsychires.2023.12.004. Epub ahead of print. PMID: 38113678.