低用量カルシウムサプリメントの妊娠高血圧腎症の予防

 

妊娠中の女性の健康管理は、医療の分野で常に重要なテーマです。

特に、以前には「妊娠中毒症」と呼ばれていた妊娠高血圧腎症(別名:子癇)のリスクを減らすための効果的な方法を見つけることは、多くの研究者の関心事となっています。

この文脈で、2024年1月11日に『New England Journal of Medicine』に掲載された興味深い研究があります。

その研究は、「妊娠中の低用量カルシウムサプリメントの二つのランダム化試験」に関するもので、インドとタンザニアで行われました。

世界保健機関は、妊娠高血圧腎症のリスクを減らすために、低カルシウム摂取量の人口に対して、妊娠中のカルシウムサプリメントの日量1500mgから2000mgを推奨しています。

しかし、この高用量のサプリメントは、複雑な投与法とコストが高いために、実際に行われるかというとそうではありませんでした。

そこで、この研究は、500mgの低用量と1500mgの高用量のカルシウムサプリメントの効果を比較しました。

各試験では、11,000人の初産婦が参加しました。

主な目的は、500mgの低用量が1500mgの高用量に対して劣らないことを確認することでした。

その結果、インドでの妊娠中毒症の発生率は500mgグループで3.0%、1500mgグループで3.6%であり、タンザニアでも同様の結果が得られました。

この研究の意義は大きいです。

なぜなら、より低い用量のカルシウムサプリメントでも妊娠中毒症のリスクを減らすのに効果的であり、さらに、より実施しやすく、コストも抑えられる可能性があるからです。

これは、特に資源が限られた地域において、妊婦の健康管理における新たな選択肢を提供することを意味します。

また、サプリメントの投与量が少なくなることで、服用のしやすさが向上し、より多くの妊婦がこの健康対策を受け入れる可能性があります。

しかし、この研究にはいくつかの限界も存在します。

妊娠期間の推定方法には、最終月経期と胎児超音波を用いていますが、これには一定の測定誤差や分類誤りが生じる可能性があります。

また、事前の妊娠損失や早産のケースを除外した分析も行われており、これによる影響も考慮する必要があります。

この研究は、妊娠中の女性の健康管理における新しい知見を提供しています。

低用量のカルシウムサプリメントが、より実施しやすく、コスト効果的な選択肢である可能性を示しています。

これにより、妊娠中毒症のリスクを減らすための新しい戦略として、世界中の妊婦にとって有益な選択肢となるかもしれません。

特に、資源が限られた環境においては、効果的かつ実行可能な健康戦略の選択に大きな影響を与える可能性があります。

元論文はこちら:

Dwarkanath P, Muhihi A, Sudfeld CR, Wylie BJ, Wang M, Perumal N, Thomas T, Kinyogoli SM, Bakari M, Fernandez R, Raj JM, Swai NO, Buggi N, Shobha R, Sando MM, Duggan CP, Masanja HM, Kurpad AV, Pembe AB, Fawzi WW. Two Randomized Trials of Low-Dose Calcium Supplementation in Pregnancy. N Engl J Med. 2024 Jan 11;390(2):143-153. doi: 10.1056/NEJMoa2307212. PMID: 38197817.