査読の世界の裏側

私たちが普段目にする科学論文。

その背後には、専門家による厳しい査読プロセスがあります。

世に出る科学論文が信頼されるのは、この厳しい品質管理があるからです。

しかし、最近の研究によると、この「品質管理」にちょっとした懸念が隠されているようです。

 

元論文はこちら→

Geldsetzer P, Heemann M, Tikka P, et al. Prevalence of Short Peer Reviews in 3 Leading General Medical Journals. JAMA Netw Open. 2023;6(12):e2347607. Published 2023 Dec 1. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.47607

 

この研究は、一流医学ジャーナルの査読プロセスをチェックしたものでした。

改めて「査読」について説明すると、科学者が書いた論文を別の専門家がチェックすることです。

プロの料理人が作った料理を、これまた別のプロのシェフが試食するようなものです。

このプロセスは論文の質を保証するために重要です。

しかし、この研究によると、意外にも、査読の中には非常に短いものが少なくないということが明らかになりました。

一部の査読は200語にも満たない短さだったそうです。

これは、シェフが「うん」と一言だけうなずいて厨房を後にするようなものです。

研究者たちは、BMJ、PLOS Medicine、BMC Medicineの3つのジャーナルで11,466件の査読を分析しました。

すると、全体の17.1%が200語未満の非常に短い査読だったのです。

ちなみに、これは私のこの文章の約5分の1程度の長さです。

さらに、初期の編集決定の約50%以上がこのような短い査読に基づいていることも分かりました。

先ほどの料理の例えを繰り返すと、レストランのメニューの半分以上が「うん」というシェフの一言で決まっているようなものです。

この結果は、科学コミュニティにとって重要な意味を持ちます。

査読の質が研究の質に直結するため、査読が短すぎることは問題となり得ます。

しかし、一方で、当然ながら査読の長さだけが質の全てではありません。

大切なのは、短くても的確なフィードバックを提供できるかどうかです。

こんな研究論文が世に出ることで、今後行われる査読の質がより良くなることを期待したいですね。

 

猫の行動学:フェッチングの研究

ペットを飼っている人にとっては、ごく普通にやっている遊びがありますね。

英語では「fetching」と言うものです。

「fetching(フェッチング)」というのは、飼い主が投げたものをペットが取ってきて、飼い主の手元に戻す一連の行為を指します。

そう説明すると、あなたが思い描くのは、飼い主が投げたボールを、ちぎれんばかりにしっぽをふる犬が、すごいスピードで駆け出して、飼い主の元にボールを戻すシーンでしょうね。

フェッチングは相互に絆を深める遊びとして、特に若い犬に頻繁に見られます。

また、犬の中には訓練可能性が高い種が存在し、特定の品種はフェッチングに特に適しているとされています。

例えば、狩猟犬などがそうなのでしょうね。

では、猫の場合はどうなのでしょう?

そんな疑問にひとつの答えを示してくれる研究があります。

 

元論文はこちら→

Forman J, Renner E, Leavens DA. Fetching felines: a survey of cat owners on the diversity of cat (Felis catus) fetching behaviour. Sci Rep. 2023;13(1):20456. Published 2023 Dec 14. doi:10.1038/s41598-023-47409-w

 

猫の場合、フェッチングの定義には幾分独自の側面があります。

この研究では、「フェッチング」は、猫がオブジェクトを追いかけ、それを拾い上げて、元の場所や飼い主のもとに戻す行動と定義されています。

この定義は、犬のフェッチングとは若干異なります。

犬の場合、フェッチングは一般に訓練された行動と見なされ、飼い主がオブジェクトを投げた後、犬がそれを取って戻すという一連の行動が含まれます。

犬は、この過程で飼い主の指示や合図に応じるのです。

猫のフェッチングに関するこの調査研究は、世界中の924人の猫の飼い主による1154匹の猫のデータを基にしました。

研究者たちは、特に猫が初めてフェッチングを示した時を中心に、様々な質問を通じて情報を収集しました。

その結果、ほとんどの猫(94.4%)が特別な訓練なしにフェッチングを始め、この行動は主に1歳未満(701匹)または1~7歳(415匹)の時に最初に認識されました。

猫は飼い主よりもフェッチングの開始や終了を決定する主導権を握っていることが示されています。

つまり、フェッチングをするのも、やめるのも、猫の気分次第…ということですね。

犬の場合と同様に、猫のフェッチングはストレスの軽減や運動能力の向上に寄与する可能性があります。

ただし、猫のフェッチングは犬とは異なり、自然に発生することが多く、猫の本能的な行動に基づいていると考えられています。

調査に参加した飼い主の中で、女性が64.8%、男性が23.1%、ノンバイナリーが9.4%を占めており、さまざまな地域からのデータが含まれていました。

また、猫の種類は多様で、純血種とミックスブリードが混在していました。

猫が好んでフェッチングするオブジェクトは多岐にわたっていて、猫用のおもちゃだけでなく、くしゃくしゃにした紙や化粧品など、家庭内で見つけられる物ならなんでも良いようです。

猫のフェッチ行動は個々の猫によって大きく異なっていて、特定の状況下でのみフェッチを行う猫もいれば、積極的に何度もフェッチングを繰り返す猫もいました。

この研究の結論として、猫のフェッチングは猫の性別や品種、住む場所によって限定されるものではなく、大多数の猫が訓練を受けずにこの行動を始めていることが明らかになりました。

猫のフェッチングに関するこの研究では、猫が人間との関係でより主導権を握っていることが示されました(笑)。

ストレスについて理解する

今日は動画の紹介です。

スタンフォード大学医学部の神経生物学の准教授であるアンドリュー・ヒューバーマン博士が、ストレス、不安、トラウマに関する洞察を提供する内容です。

 

 

まず、ヒューバーマン博士はストレスを二つのタイプに分けています。

一つ目は、私たちがよく知る「過度に活性化された状態」

これは、心臓がドキドキし、手が震えるような状態です。

まるで、準備もしていないのにステージに立たされた時のように、あたふたしてしまう状況ですね。

この状態では、心と体を落ち着かせることが重要です。

二つ目のタイプは、「活性化不足」

こちらは、世界が急速に動いている中で、自分だけがエネルギー不足に陥ってしまう状態です。

まるで、朝の目覚めが悪い時のように、なかなか動き出せない感じです。

 

さて、続けてそれらストレスに対する、脳と神経系の話について言及しています。

ヒューバーマン博士によると、私たちの脳と神経系は、感覚、知覚、学習、行動、認知の5つの機能を持っています。

感覚は「非交渉的」で、私たちの体は、光や圧力などの物理的現象を感じ取るように設計されています。

一方、知覚は「交渉可能」で、私たちは何に注意を向けるかを選ぶことができます。

 

学習に関しては、子供の頃は受動的に学び、成長するにつれて能動的な学習が必要になるとヒューバーマン博士は述べています。

大人になると、学習には集中力とエネルギーが必要ですが、それは脳が変化しようとしている証拠なのです。

 

この動画から、ストレスや不安、トラウマに対する新しい理解を得ることができます。

私たちの脳は、常に環境に適応しようとしており、それには時にはストレスや不安が伴うこともあります。

しかし、これらの感情は、私たちが成長し、学び、適応するための重要なサインなのです。

 

このように、ヒューバーマン博士の洞察は、私たちが日常生活で直面するストレスや不安に対して、より科学的かつ建設的なアプローチを提供してくれます。

そして、それは私たちの脳が、常に最適な状態を目指しているという事実を思い出させてくれます。

 

スポーツにおける完璧主義の二面性

スポーツの世界で、「完璧主義」はアスリートにどんな影響を与えるのか?

最近の研究が、この問いに対する新たな答えを示しています。

 

元論文はこちら→

Nordin-Bates SM, Madigan DJ, Hill AP, Olsson LF. Perfectionism and performance in sport: Exploring non-linear relationships with track and field athletes. Psychol Sport Exerc. 2024;70:102552. doi:10.1016/j.psychsport.2023.102552

 

「完璧主義」という概念は、一見すると単純なもののように思えますが、実際には非常に複雑です。

完璧主義的志向(PS)と完璧主義的懸念(PC)の二つの側面を持ち、これらはアスリートのパフォーマンスに異なる影響を与えることが明らかになりました。

完璧主義的志向(PS)というのは、個人が自分自身の能力を最大限に引き出すことを目指すポジティブな動機づけを指します。

例えば、こんな感じです。

1. 「私は自分の最高のパフォーマンスを目指して頑張る。これが私の限界ではない。」

2. 「毎日のトレーニングで、少しずつでも成長している。自分の進歩を信じている。」

3. 「ミスをしても、それは成長の一部。次はもっとうまくやれる。」

一方、完璧主義的懸念(PC)は、失敗への恐れや他者による評価への過度の懸念を示すネガティブな側面です。

1. 「もし失敗したら、どう思われるだろう?他人の評価が気になる。」

2. 「完璧でなければ意味がない。ミスは許されない。」

3. 「常に最高でなければ、自分に価値はないと感じる。」

今までの常識では、完璧主義的志向(PS)のようにポジティブな動機づけがパフォーマンスをあげるのに適していると思われてきました。

しかし、実際はそうではなかったようです。

結果として、完璧主義的志向(PS)が高い場合、一定のレベルまではパフォーマンスを向上させることができましたが、ある点を超えて過度になると、パフォーマンスが低下する可能性があることが示されたのでした。

ランナーの例で言えば、自己ベスト更新への強い意欲が、実は自己を追い詰め、足踏みをさせている可能性があるのです。

では、どうすればバランスを取ることができるのでしょう?

答えは、現実的な目標設定と自己受容にあります。

完璧を目指すことは素晴らしいのですが、それが全てではありません。

時には、自分自身を許し、今の自分を受け入れることも必要です。

完璧主義のランナーにとって、真の勝利はタイムではなく、自己との和解にあります。

自己ベストを目指しつつも、完璧に囚われず、自己の限界を受け入れ、それを超えるために努力すること。

そこに、真のパフォーマンスの向上があるのです。

このバランス感覚を求め続けることこそが、ランナーにとっての最大の挑戦とも言えます。

 

医療分野にける生成AIの可能性

 

私たちの生活は、技術の進歩が常に重要な役割を果たしてきました。

そのなかでも、最近、注目を集めているのが「生成AI」と呼ばれる技術です。

この生成AIが医療分野にもたらす影響は、私たちの未来に大きな変革をもたらすものだと予想されています。

 

元論文はこちら→

Wachter RM, Brynjolfsson E. Will Generative Artificial Intelligence Deliver on Its Promise in Health Care?. JAMA. Published online November 30, 2023. doi:10.1001/jama.2023.25054

 

まず、生成AIとは何かを簡単に説明します。

生成AIは、データを基に新しい情報やアイデアを生み出すAI技術です。

たとえば、過去の症例や医学文献を分析し、新しい治療法や診断方法を提案することが可能です。

この技術は、医師の診断を補助し、より効率的で精度の高い医療サービスを提供することに貢献します。

特に注目すべき点は、この技術が医療現場での新しい可能性を開くことです。

例えば、生成AIを用いて、個々の患者に最適な治療計画を立案したり、未知の疾患に対する新薬の開発を加速させたりすることができます。

また、遺伝子情報やライフスタイルデータを分析し、予防医学の分野でも大きな進歩が期待されます。

しかし、このような技術の導入には、倫理的な問題やプライバシーの保護、データの正確性や偏りの問題など、多くの課題も伴います。

これらの問題に対処するためには、技術者、医師、倫理学者、法律家など、多様な専門家の協力が不可欠です。

 

生成AIによる医療革命は、私たち一人ひとりの生活にも影響を及ぼすでしょう。

自宅で簡単に健康状態をチェックできるようになったり、パーソナライズされた健康管理のアドバイスを受けられるようになるかもしれません。

このように、生成AIは、未来の医療をより個別化し、効率的で、安全なものに変えていく可能性を秘めています。

生成AIによって変わる医療の未来は、私たちの健康と幸福に直結しています。

この革新的な技術がどのように展開し、私たちの生活を豊かにしていくのか、目が離せません。

 

 

睡眠の質と健康への影響

  

夜が深まると、私たちの体は自然と眠りにつきます。

しかし、その睡眠がどのように私たちの健康に影響しているのでしょうか。

最近の研究では、睡眠の質が身体的健康に与える影響について興味深い結果が報告されています。

 

元論文はこちら→

Iwagami, M., Seol, J., Hiei, T. et al. Association between electroencephalogram-based sleep characteristics and physical health in the general adult population. Sci Rep 13, 21545 (2023). https://doi.org/10.1038/s41598-023-47979-9

 

この研究では、30~59歳の成人100人を対象に、ポータブルの多チャンネル脳波記録装置を使用して睡眠特性を測定しました。

睡眠の質を分析するためには、10のEEGに基づくパラメータが用いられ、参加者は良い睡眠群、中間睡眠群、悪い睡眠群の3つに分類されました。

睡眠の質と身体的健康の関係を探るため、50の健康パラメータが比較されました。

特に注目されたのは収縮期血圧(sBP)で、睡眠群間で有意な差異が確認されました。

中間および悪い睡眠群の参加者は、良い睡眠群と比較して、年齢、性別、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、酸素飽和度低下指数を調整後も高い収縮期血圧を示しました。

これは、睡眠の質が血圧に影響を与える可能性を示唆しています。

睡眠は、私たちの身体にとって再生の時間です。

質の良い睡眠を得ることは、心臓や血管の健康を守る上で非常に重要です。

この研究結果は、日常生活での睡眠の質に気を配ることの重要性を改めて教えてくれます。

睡眠の質を向上させるためには、定時に床につくこと、快適な寝室環境の確保、ストレスを減らすためのリラクゼーション技法などが有効です。

決して睡眠薬の使用を推奨しているわけではありません!

 

高脂肪食と大動脈:性別の違い

私たちの食生活は、健康に大きな影響を及ぼします。

特に、高脂肪食は、心臓病や糖尿病などのリスクを高めることが知られています。

しかし、最近のある研究は、高脂肪食が大動脈に及ぼす影響について、興味深い発見をしました。

それは、この影響が性別によって異なる可能性があるということです。

 

元論文はこちら→

Tran V, Brettle H, Diep H, et al. Sex-specific effects of a high fat diet on aortic inflammation and dysfunction. Sci Rep. 2023;13(1):21644. Published 2023 Dec 8. doi:10.1038/s41598-023-47903-1

 

研究者たちは、高脂肪食を与えられた雄と雌のマウスを用いて実験を行いました。

雄マウスでは、体重増加(平均10%の増加)、血糖値の上昇(平均20mg/dl上昇)、そして、内皮依存型の血管弛緩機能が約30%低下することが観察されました。

一方、雌マウスでは、これらの変化が遅れて現れたり、全く見られなかったりしました。

この結果は、性別が高脂肪食による血管への影響を変える可能性があることを示唆しています。

このことから、男性は特に高脂肪食による健康リスクに注意する必要があると言えます。

日常生活においては、高脂肪食を控え、バランスの取れた食生活を心がけることが大切です。

特に、血管の健康を保つためには、飽和脂肪酸の摂取量を抑え、不飽和脂肪酸を含む食品(例えば、魚やナッツなど)を適量摂取することが推奨されます。

また、定期的な運動も血管の機能を維持し、動脈硬化のリスクを低減するために有効です。

この研究は、食生活が心血管健康に与える影響についての理解を深めるものであり、健康的な生活習慣の実践がいかに重要かを教えてくれます。

特に男性は、自分の体と向き合い、食生活を見直す良い機会となるでしょう。

毎日の小さな選択が、健康な未来を築く第一歩です。

 

モバイルアクションゲームが注意力に及ぼす一時的な効果

近年、ビデオゲームが認知機能に与える影響についての研究が注目されています。

特に、モバイルアクションビデオゲーム(MAVG)がどのように人々の注意力に影響を与えるかは、多くの研究者の興味を引くものです。

今日紹介する研究は、単一のMAVGセッションが大学生の注意ネットワークにどのように影響を与えるかを調査したものです。

 

元論文はこちら→

Wang B, Jiang J, Guo W. Effects of a single bout of mobile action video game play on attentional networks. PeerJ. 2023;11:e16409. Published 2023 Nov 10. doi:10.7717/peerj.16409

 

研究では、普段ゲームをしない大学生72人を、ランダムにMAVGグループとコントロールゲームグループに割り当てました。

MAVGグループは60分間「Honor of Kings」というゲームをプレイし、コントロールグループはカードゲームを同じ時間プレイしました。

その前後で、参加者は注意ネットワークテスト(ANT)を行い、警戒、方向付け、実行制御ネットワークの効率を評価しました。

それで面白い結果が出たようです。

MAVGグループは、介入後に警戒ネットワークの効率が有意に向上していました。

しかし、実行制御ネットワークや方向付けネットワークの効率は向上していませんでした。

これは、特定のタイプのゲームプレイが特定の認知機能を強化する可能性があることを示唆しています。

この発見は、ビデオゲームが単なる娯楽以上のものである可能性を示しています。

特に、MAVGは随所でアクセス可能であり、注意力機能の促進に役立つかもしれません。

例えば、ある種の警戒ネットワークに不足が見られる人々にとって、MAVGは特に有益かも知れないということです。

しかし、この研究にはいくつかの限界もあります。

一つのゲームセッションの影響だけをテストしたため、長期的な影響は不明です。

また、特定のビデオゲームジャンルが認知機能に及ぼす影響については、さらなる研究が必要です。

最終的に、この研究はビデオゲームが認知機能、特に注意力に及ぼす影響を理解する上での一歩となりそうです。

将来的には、「注意力を高めるゲーム」とか「実行力を増すゲーム」とかが学校教育のカリキュラムに組み込まれる世の中が来るかも知れませんね。

 

食欲の秘密:脳幹の神経細胞が織りなす微妙なバランス

  

食事は私たちの日常生活に不可欠なものですが、「食べるのをやめる」タイミングはどのように決まるのでしょうか?

最近の科学の進展は、この謎に光を当てています。

脳幹、特にその中の孤束核(cNTS)と呼ばれる部位が、食事の終了をコントロールする重要な役割を果たしていることが明らかになりました。

 

元論文はこちら→

Ly T, Oh JY, Sivakumar N, et al. Sequential appetite suppression by oral and visceral feedback to the brainstem. Nature. Published online November 22, 2023. doi:10.1038/s41586-023-06758-2

 

この部位には、PRLH(プロラクチン放出ホルモン)ニューロンとGCG(グルカゴン様ペプチド1)ニューロンという二つの神経細胞タイプが存在します。

これらのニューロンは、食欲を抑えるのに重要な役割を果たしています。

PRLHニューロンは、口からの食物摂取に反応し、秒単位で活性化されます。

これらは食物の味に対して特に敏感で、食事のペースを調節することで、食欲を抑制します。

一方、GCGニューロンは胃腸からの機械的なフィードバックに反応し、食事の量を感じとり、長期間の満腹感を促します。

私たちが経験する「お腹がいっぱいで、もう食べられない」という反応は、きっとこれにあたるのでしょう。

面白いことに、PRLHニューロンは口の中に食べ物を入れた時に最も強く活性化され、胃腸からのフィードバックの影響は小さいものでした。

これは、口腔摂取の刺激により胃腸の信号が必要なくなることを示しています。

また、PRLHニューロンは食物の味に反応し、特に甘味に対して敏感です。

これらのニューロンの活性化は、食物の味わいや好みを変化させ、食事のペースを調整します。

美味しいコース料理を食べていると、量は少しなのに、お腹がいっぱいになった気がするのは、このせいなのでしょう。

これらの発見は、私たちが食事を終えるタイミングをどのように決定するかについての理解を深めます。

食欲抑制のメカニズムを理解することは、肥満や摂食障害などの治療に役立つかもしれません。

食事とは単なる栄養摂取以上のものであり、私たちの脳が織りなす複雑なプロセスの一部であることを、この研究は明らかにしています。

脳の奥深くで起こるこれらのプロセスを理解することは、私たちの食事行動に新たな光を当て、より健康的な生活へと導くかもしれません。

食事の際には、私たちの体がどのように反応し、満足感を感じるかを考えながら、その不思議なバランスを感じ取るのも一つの楽しみかもしれませんね。

 

PPIとCKDリスク:関連性はあるのか?

 

胃薬として広く使われるプロトンポンプ阻害剤(PPI)ですが、患者さんからよく質問があるのが「いつまでも飲んでいて良いのか?」ということです。

私は腎臓内科医ですから、例えば、その使用が慢性腎臓病(CKD)のリスクにどのような影響を与えるのか、患者さんやその家族が気にされるのは当然だと言えます。

最近の研究で、この疑問に答える手がかりが見つかりました。

 

元論文はこちら→

Kweon T, Kim Y, Lee KJ, et al. Proton pump inhibitors and chronic kidney disease risk: a comparative study with histamine-2 receptor antagonists. Sci Rep. 2023;13(1):21169. Published 2023 Dec 1. doi:10.1038/s41598-023-48430-9

 

この研究は、PPIとヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)という別の種類の胃薬を比較し、それぞれのCKD発症率を調査しました。

研究チームは、韓国の国民健康保険のデータベースと病院の電子カルテを用いて、大規模なデータ分析を実施。

その結果、PPI使用者とH2RA使用者の間で、CKDの発症率に有意な差は見られませんでした。

つまり、この研究によると、PPIを使用してもCKDのリスクが高まることはなさそうです。

しかし、PPIの長期使用には潜在的な副作用も指摘されており、完全に安心とは言えない状況ではあります。

どんな薬もそうですが、医師の指示に従い、必要な場合にのみ利用することが重要です。

また、PPIによるCKDの発症メカニズムはまだ完全には解明されておらず、今後も研究が必要です。

私たちは、新たな研究結果を待ちつつ、現在の知識を基に最善の選択をしていく必要があります。

PPIの使用を検討している方や、すでに使用している方は、この情報を参考にして、医師と相談しながら適切な判断をしてください。

最終的には、あなたとあなたの健康を守るために、最適な治療法を選ぶことが大切です。