スポーツにおける完璧主義の二面性

スポーツの世界で、「完璧主義」はアスリートにどんな影響を与えるのか?

最近の研究が、この問いに対する新たな答えを示しています。

 

元論文はこちら→

Nordin-Bates SM, Madigan DJ, Hill AP, Olsson LF. Perfectionism and performance in sport: Exploring non-linear relationships with track and field athletes. Psychol Sport Exerc. 2024;70:102552. doi:10.1016/j.psychsport.2023.102552

 

「完璧主義」という概念は、一見すると単純なもののように思えますが、実際には非常に複雑です。

完璧主義的志向(PS)と完璧主義的懸念(PC)の二つの側面を持ち、これらはアスリートのパフォーマンスに異なる影響を与えることが明らかになりました。

完璧主義的志向(PS)というのは、個人が自分自身の能力を最大限に引き出すことを目指すポジティブな動機づけを指します。

例えば、こんな感じです。

1. 「私は自分の最高のパフォーマンスを目指して頑張る。これが私の限界ではない。」

2. 「毎日のトレーニングで、少しずつでも成長している。自分の進歩を信じている。」

3. 「ミスをしても、それは成長の一部。次はもっとうまくやれる。」

一方、完璧主義的懸念(PC)は、失敗への恐れや他者による評価への過度の懸念を示すネガティブな側面です。

1. 「もし失敗したら、どう思われるだろう?他人の評価が気になる。」

2. 「完璧でなければ意味がない。ミスは許されない。」

3. 「常に最高でなければ、自分に価値はないと感じる。」

今までの常識では、完璧主義的志向(PS)のようにポジティブな動機づけがパフォーマンスをあげるのに適していると思われてきました。

しかし、実際はそうではなかったようです。

結果として、完璧主義的志向(PS)が高い場合、一定のレベルまではパフォーマンスを向上させることができましたが、ある点を超えて過度になると、パフォーマンスが低下する可能性があることが示されたのでした。

ランナーの例で言えば、自己ベスト更新への強い意欲が、実は自己を追い詰め、足踏みをさせている可能性があるのです。

では、どうすればバランスを取ることができるのでしょう?

答えは、現実的な目標設定と自己受容にあります。

完璧を目指すことは素晴らしいのですが、それが全てではありません。

時には、自分自身を許し、今の自分を受け入れることも必要です。

完璧主義のランナーにとって、真の勝利はタイムではなく、自己との和解にあります。

自己ベストを目指しつつも、完璧に囚われず、自己の限界を受け入れ、それを超えるために努力すること。

そこに、真のパフォーマンスの向上があるのです。

このバランス感覚を求め続けることこそが、ランナーにとっての最大の挑戦とも言えます。