食欲の秘密:脳幹の神経細胞が織りなす微妙なバランス

  

食事は私たちの日常生活に不可欠なものですが、「食べるのをやめる」タイミングはどのように決まるのでしょうか?

最近の科学の進展は、この謎に光を当てています。

脳幹、特にその中の孤束核(cNTS)と呼ばれる部位が、食事の終了をコントロールする重要な役割を果たしていることが明らかになりました。

 

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Ly T, Oh JY, Sivakumar N, et al. Sequential appetite suppression by oral and visceral feedback to the brainstem. Nature. Published online November 22, 2023. doi:10.1038/s41586-023-06758-2

 

この部位には、PRLH(プロラクチン放出ホルモン)ニューロンとGCG(グルカゴン様ペプチド1)ニューロンという二つの神経細胞タイプが存在します。

これらのニューロンは、食欲を抑えるのに重要な役割を果たしています。

PRLHニューロンは、口からの食物摂取に反応し、秒単位で活性化されます。

これらは食物の味に対して特に敏感で、食事のペースを調節することで、食欲を抑制します。

一方、GCGニューロンは胃腸からの機械的なフィードバックに反応し、食事の量を感じとり、長期間の満腹感を促します。

私たちが経験する「お腹がいっぱいで、もう食べられない」という反応は、きっとこれにあたるのでしょう。

面白いことに、PRLHニューロンは口の中に食べ物を入れた時に最も強く活性化され、胃腸からのフィードバックの影響は小さいものでした。

これは、口腔摂取の刺激により胃腸の信号が必要なくなることを示しています。

また、PRLHニューロンは食物の味に反応し、特に甘味に対して敏感です。

これらのニューロンの活性化は、食物の味わいや好みを変化させ、食事のペースを調整します。

美味しいコース料理を食べていると、量は少しなのに、お腹がいっぱいになった気がするのは、このせいなのでしょう。

これらの発見は、私たちが食事を終えるタイミングをどのように決定するかについての理解を深めます。

食欲抑制のメカニズムを理解することは、肥満や摂食障害などの治療に役立つかもしれません。

食事とは単なる栄養摂取以上のものであり、私たちの脳が織りなす複雑なプロセスの一部であることを、この研究は明らかにしています。

脳の奥深くで起こるこれらのプロセスを理解することは、私たちの食事行動に新たな光を当て、より健康的な生活へと導くかもしれません。

食事の際には、私たちの体がどのように反応し、満足感を感じるかを考えながら、その不思議なバランスを感じ取るのも一つの楽しみかもしれませんね。