ハンス・ホルバインは16世紀に活躍したイングランドの宮廷画家です。
当時のイングランド国王はヘンリー8世。6度の結婚をしていますが、離婚を認めないローマ教皇庁から独立を宣言。自分を首長としたイングランド国教会を設立するなどした史上最悪と呼ばれた国王でした。その暴君たるや、自らの手で2人の王妃を断首台に送っているほどです。
ヘンリー8世の命令でホルバインは「大使たち」という絵を描きました。
この絵は単なる肖像画ではなく、ホルバインの意図を随所にちりばめた寓意画なんですね。
細かいところにそれぞれヒントが隠されていて、例えば彼らの年齢がそれぞれの持ち物で示唆されています。
2人の間の棚の上にある暦は4月1日を、日時計は午前9時30分を示しています。
棚の下には賛美歌の楽譜、しかもローマ教皇庁とイングランド国教会の賛美歌が書いてあります。本来キリスト教は統一されたものだというメッセージを込めています。
壊れかけたリュートは、両派が不調和であること、算術書は定規がはさまっていて、分断を意味しています。
そして、この絵が最も有名なのは、床に「だまし絵」としてドクロが描かれていることです。
正面からでは想像すらできないこの得体の知れないモチーフは、部屋にかけた絵画の横を通り抜けて振り返る時、はっきりとドクロが現れてくるそうです。
「死のメッセージ」を投げかけたものなのか、あるいは画家のサインだったのか(ホルバイン=Hohl Bein(ドイツ語で“からのドクロ”という意味)謎は残ったままなのだそうです。
お気づきでしたでしょうか。
左のカーテンの向こう側にキリストの磔刑図も描かれているんですね。