ある日、高齢の患者さんの思いがけない言葉に驚いたことがありました。
「思いがけない」と言ったら失礼ですね。
私の偏見と思い込みが間違っているのだと、後で反省しました。
私はその91歳の女性にひと通りの問診をしながら、「夜はよく眠れますか」と訊ねました。
「はい。よく眠れます。でも、朝は起きるのがつらいですね。」
「何時に眠るのですか?」
その女性は、車いすに小さな体を沈ませて少し微笑みながら「夜は寝床で本を読むので、いつの間にか眠ってしまいます。だから何時に眠っているのか分からないです。」と答えました。
私は最近、本を読む高齢者の方を知らなかったので、「え。読書されるのですか?」と大げさに反応してしまいました。
「はい。好きな本はよく読みます。だけど、興味のない本はそのすぐ前の文章をすぐに忘れてしまうので、意味がわからなくなります。」と朗らかに笑いました。
以前に100歳以上の俳句百選に選ばれて、自分の句が専門誌に掲載されたと嬉しそうに報告してくれた100歳の女性がいました。
「それがね。先生。笑っちゃうのよ。私ね、最年少。うふふ。」
その時の笑顔が今も忘れられません。
年齢を重ねて、読書や俳句に親しむなんて、とても憧れます。
そういう歳の取り方ができたら、幸せですね。